採用戦略とは、自社が求めている人材を採用するために立てる戦略です。「売り手市場」が進む昨今、求職者から選ばれるための戦略がますます重要になっており、実際に採用戦略を立てることで「母集団形成の促進」「早期離職の防止」「採用コストの削減」といったメリットが期待されます。
今回は、採用戦略の概要と、現在の採用市場に関するデータを踏まえたうえで、戦略の立て方や活用すべきフレームワークについて解説していきます。
採用戦略とは
採用戦略とは、自社が求める人材を採用するために立てる戦略のことです。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を主な背景として、採用市場では今後も「売り手市場」が続いていきます。実際にdodaが実施している調査によれば、2023年度の転職求人倍率は約2.53倍と、前年度の約2.11倍から大きく上昇しています。
参考:パーソルキャリア株式会社「転職マーケットの”今”を知る!2024年6月20日発表 転職求人倍率レポート(データ)」
新卒採用においても同様です。パーソル総合研究所の調査によれば、2024年3月卒の就活生のうち、65.0%が2社以上から内定を獲得しており、内定辞退した企業数は平均3.4社に達しているという結果が出ています。
参考:株式会社パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
このようなデータからも明らかなように、企業側には求職者から選ばれるための戦略が求められるわけです。
採用戦略と採用計画の違い
採用戦略と混同されがちな言葉として、採用計画が挙げられます。採用計画とは、採用活動の指針となる計画であり、「経営目標の達成」というゴールに向けて策定されます。その内容は人材要件や採用人数、スケジュールなどで、採用活動の全体像を描くものとなります。
つまり採用戦略は、採用計画における人材要件や採用人数を満たすために立案されるものであり、採用計画の一部なのです。
なお、採用計画については「採用計画の立て方 5つのステップと3つのポイントから解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「採用計画の立て方 5つのステップと3つのポイントから解説」
採用戦略を立てることによる効果・メリット
採用戦略を立てることによって、「母集団形成の促進」「早期離職の防止」「採用コストの削減」といった効果・メリットが期待されます。それぞれ解説していきましょう。
母集団形成の促進
昨今は年齢や属性ごとに接触・活用するメディアが異なり、採用チャネルも多様化しているため、母集団形成にも綿密な戦略が必要となっています。
例えば、ハイクラス人材の採用を目指す場合、転職サイトに求人広告を出すだけではなかなか応募は集まりません。ハイクラス人材のもとには多くの企業からオファー・スカウトが届くため、わざわざ能動的に求人を探す必要がないからです。そのため、企業側にはダイレクトリクルーティングによる積極的な戦略が必要となります。
また、知名度に劣るベンチャー企業や中小企業であれば、「どうすれば自社に目を留めてくれるか」といった戦略から立案し、SNSの活用などを検討しなければいけません。
逆に言えば、求める人物像や自社の状況に合わせた採用戦略を策定しなければ、質のよい母集団の形成は望めないということです。
マッチ度の向上・早期離職の防止
採用戦略を策定することにより、候補者とのマッチ度の向上、ひいては早期離職の防止につながります。
上の母集団形成とも重なりますが、自社が求める人物像を明確にしたうえで、適切な採用チャネルで募集をかけることにより、応募段階からマッチ度の高い人材を集めることができます。
さらに、自社が求める人物像からペルソナを作成し、候補者のニーズと自社のアピールポイントを合致させておくことで、マッチ度はさらに向上します。例えば「自社が求めている人物像からすれば、子育て世代に当てはまる。テレワークのニーズは高いはずだ」という仮説が立てば、「原則テレワーク」というアピールを打ち出すという戦略が明確になります。
選考段階で企業・候補者双方の解像度が高まっていれば、自ずと入社後の「こんなはずではなかった」も減少するでしょう。
採用コストの削減
適切な採用チャネルの選定や早期離職の防止は、いずれも採用コストの削減につながります。
「母集団形成の促進」でも挙げたハイクラス人材の例でいえば、追加料金を支払って求人サイトの掲載期間を延ばしたり、オプションをつけたりしても応募数の増加はあまり期待できず、いたずらにコストばかりが増加してしまいます。それよりも、一見すると高額に見える成果報酬型のダイレクトリクルーティングのほうが、採用コストを抑えられる可能性が高いでしょう。
このように、採用戦略を練り上げて自社にとって最良の取り組みを選び取ることにより、コスト削減を実現できるわけです。
なお、採用コストの削減方法については「採用コストの削減に必要な4つの取り組み 一人当たりの平均値や相場を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「採用コストの削減に必要な4つの取り組み 一人当たりの平均値や相場を解説」
採用戦略の立て方
ここからは、採用戦略を立てる際の流れと、具体的な取り組みについて解説していきます。
採用計画の確認
冒頭の「採用戦略と採用計画の違い」のとおり、採用戦略は採用計画の一部です。経営方針や事業計画に基づき、ポジションごとの採用人数や雇用形態、どの程度の予算を割けるかなど、採用戦略を立てるうえでの前提条件をまとめておきましょう。
採用ターゲットの明確化
次に行うのが、採用ターゲットの明確化です。簡単にいえば、どのような人材を採用するのかを詳細に決めていきます。
採用ターゲットを明確にしていく際に欠かせないのが、MUST条件とWANT条件の設定です。MUST条件は絶対に持っていてほしい経験やスキルなどで、WANT条件はできれば満たしてほしい条件となります。
例えば就業にあたって資格が必要なポジションであれば、MUST条件は「資格」となります。一方、資格所持者であれば必ずしも実務経験は求めないのであれば、「実務経験」はWANT条件として設定します。
さらに、自社の風土にあった性格や価値観、マネジメント経験、業界経験の有無など、様々な観点からMUST条件とWANT条件を設定していくことで、採用ターゲットの解像度が高まっていきます。
この作業を進めていくことで人物像(ペルソナ)が固まり、「何を求めて就職(転職)活動を行っているか」「どれくらいの給与水準を求めるか」といった求職者側のニーズもイメージしやすくなるでしょう。
自社の強み・アピールポイントを洗い出す
採用ターゲットを明確にしたうえで行うのが、自社の強み・アピールポイントの洗い出しです。ここで重要となるのは、候補者にとって魅力となる強み・アピールポイントを伝えることです。例えば、成果を上げて昇給・昇進を目指したい営業に対して、休暇制度の充実をアピールしてもあまり良いアピールにはなりません。
業界における自社の立ち位置や競合他社との差別化ポイントを踏まえて、採用ターゲットに響くアピールポイントを伝えられるように準備を進めましょう。
採用手法の選定
採用手法は、ここまでの取り組みを総合的に勘案して選定しましょう。以前まで採用手法は求人広告や人材紹介、合同説明会など選択肢が限られていましたが、近年になって様々な手法が誕生しており、予算や採用ターゲットに合わせて最適な手法を選択することが成功の鍵となっています。
例えば、ハイクラス人材をターゲットとするならば「ダイレクトリクルーティング」、予算を抑えつつ潜在層にアプローチしたいなら「SNS採用」といった具合に、それぞれの手法の特徴を最大限活かすことで、コストを抑えつつ、マッチ度の高い母集団を形成することができます。
なお、SNS採用については「SNS採用とは メリット・デメリットや導入の流れを解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「SNS採用とは メリット・デメリットや導入の流れを解説」
内定者フォロー
近年、採用戦略のなかでとくに重要視されるようになったのが内定者フォローです。前述のとおり、2024年3月卒の就活生が内定辞退した企業数は平均3.4社にのぼり、就職みらい研究所(リクルート)の調査では卒業時点(2024年3月卒)の内定辞退率は63.6%に達してます。もはや新卒採用においては、内定辞退が起きることを前提として採用活動を進める必要があるわけです。
参考:株式会社リクルート「就職プロセス調査(2024年卒)『2024年3月度(卒業時点) 内定状況』」https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2024/03/naitei_24s-20240325.pdf
こうした内定辞退を少しでも減らすための取り組みが内定者フォローであり、懇親会や内定者研修など様々な施策が検討できます。なお、内定者フォローについては「内定者フォローとは 実施の目的と具体的な内容」でも詳しく解説しています。
関連記事:「内定者フォローとは 実施の目的と具体的な内容」
採用戦略の策定時に役立つフレームワーク
自社の強みを探ったり、採用ターゲットに響く施策を打ち出したりするのに役立つフレームワークを紹介していきます。
3C分析
3C分析は経営戦略やマーケティングにおける「環境分析」のためのフレームワークであり、企業戦略の立案を目的に開発されました。3Cは「顧客・市場(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」を指し、採用戦略においては「顧客・市場」に求職者の動向を当てはめて活用します。
3C分析を活用すれば、「採用市場の動向の確認→競合他社が提示している条件などの調査→自社だからこそ提示できるアピールポイントの洗い出し」という一連の流れをスムーズに進めることができます。
なお、3C分析については「3C分析のやり方 実施する目的やメリットを解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「3C分析のやり方 実施する目的やメリットを解説」
SWOT分析
SWOT分析は、経営戦略の検討などを目的としたフレームワークです。SWOTはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)で構成され、自社の状態を「内部・外部」「プラス・マイナス」それぞれの要因から分析します。
SWOT分析を採用活動に活かすことで、自社の強みと弱みを把握できるだけでなく、採用のチャンスを増やす要因と、採用活動を阻害する脅威についても整理できます。さらにこれら4要素を掛け合わせることで、具体的な施策を検討できるのもSWOT分析の魅力です。
例えば、「強み」と「脅威」を合わせて考えることで、「自社はSNS運用に『強み』がある。SNS採用を推進すれば、売り手市場という『脅威』のなかでも同業他社に差をつけられる」といった発展的なアクションを検討しやすくなるわけです。
なお、SWOT分析については「SWOT分析のやり方 実施の目的や得られるメリットを解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「SWOT分析のやり方 実施の目的や得られるメリットを解説」
成果につながる採用戦略の立案に必要な「数字力」
ここまでの解説のとおり、効果的な採用戦略を立案するためには、様々なデータを確認・活用しなければいけません。旧来の「採用担当者の経験と勘」に頼る方法では、継続的に成果を出すのは難しいでしょう。そこで求められるのが、データを分析して、適切な戦略を導き出すための「数字力」です。
しかしその一方で、人事部や採用担当者のなかには「数字を扱うのが苦手」「データの活用に慣れていない」といった、数字に対する苦手意識を持つ方が少なくありません。こうした体制だと各種の戦略が感覚的なものになりがちで、「なぜこの施策が成功(失敗)したのか」の振り返りも難しくなります。
そんな状況を打破するためにおすすめしたいのが、弊社オルデナール・コンサルティングの「ビジネス数学研修」です。弊社の研修では、数字・データを根拠としたアクションプランの立て方を実践形式で学んでいきます。
プログラムも受講者のレベルに合わせて「入門編」から「実践編」の4段階で学べるので、数字に対する苦手意識を持つ方でも安心してステップアップしていくことができます。 「データを根拠とした採用戦略を立てたい」「データを分析できる人材を増やしたい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご活用ください。
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