内定者フォローとは、内定者が自社からの内定を辞退することがないよう、不安の解消や入社意欲の向上のために行う各種の取り組みです。内定辞退率が年々上昇しているため、採用活動のなかでもとくに重要性が増しています。
今回は内定者フォローの目的と重要性が増す背景、具体的な内容、注意点などについて解説していきます。
内定者フォローとは
内定者フォローとは、内定者が自社からの内定を辞退しないよう、不安の解消や入社意欲の向上を目指して実施する各種の取り組みです。新卒採用でとくに重要視されますが、中途採用においてもその重要性に変わりはありません。
内定者フォローの目的
従来の内定者フォローの目的は、新卒採用における「内定者ブルー」を解消する意味合いが強く、内定者の疑問や不安を解消して、無事に入社日を迎えるための取り組みでした。
しかし近年はそれ以上に、内定辞退への対策や「配属ガチャ」の解消に重きが置かれる取り組みとなっています。
内定辞退の対策
内定者フォローは、複数の内定を獲得する人材に対して、自社からの内定を受諾してもらうための取り組みに変化しつつあります。
その背景にあるのが、生産年齢人口の減少・人手不足に伴う内定辞退率の上昇です。内定辞退率は内定を出した数に対して、それを辞退した候補者数で計算できます。
リクルートの調査によれば、2023年卒(3月卒業時点)の学生の内定辞退率は65.8%となってます。2022年卒では61.1%、2021年卒では57.5%でしたので、明らかな増加傾向が見て取れます。
参考:株式会社リクルート(就職みらい研究所)「就職プロセス調査(2023年卒)2023年3月度(卒業時点)内定状況」
さらに同調査によれば、2023年卒の内定取得数の平均は2.5社となっており、2022年卒の2.33社、2021年卒の2.25社と比較しても、複数内定を得る学生が年々増加していることがわかっています。
なお、2024年卒については2023年12月1日時点で64.3%と、2023年卒の同月比とほぼ同じ水準となっています。
参考:株式会社リクルート(就職みらい研究所)「就職プロセス調査(2024年卒)『2023年12月1日時点 内定状況』」
これらデータが示すように、企業側は内定辞退を避けようのないリスクとして受け止めて、その数字をどれだけ減らしていくかに注力しなければならないのです。
なお、内定辞退率については「内定辞退率とは 2023年までの推移や辞退を招く原因を解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「内定辞退率とは 2023年までの推移や辞退を招く原因を解説」
「配属ガチャ」を始めとした不満・不安の解消
内定者フォローは、近年話題となっている「配属ガチャ」の対策としても欠かせません。
配属ガチャとは、自分の意志とは関係なく配属先や勤務地を決められてしまうことを「ガチャ」になぞらえた言葉です。「配属はガチャではない」という指摘も挙がっていますが、現実として「自分が希望する仕事に就けないのはおかしい」という価値観が広まっている現状では、しっかりと内定段階からフォロー・ケアを行なっていく必要があります。
具体的には、内定者の不安解消と入社前段階での適性の見極めなどが求められます。内定者の不安解消は、従来の内定者フォローと変わりありません。特筆すべきは、入社前段階での適性の見極めでしょう。
マイナビの調査では、「入社後の配属先についてどの時点で知りたいと思うか」という問いに対し、学生の86%が「入社前に配属先を知りたい」と希望しています。しかし、入社前に「業務内容」を告知している企業は57.8%に留まっています。
参考:株式会社マイナビ「2023年卒大学生活動実態調査 (8月)」
現状では学生側の希望と企業側の対応にギャップが生じているため、内定者フォローを通じて早期から適性を見極めて、できるだけ早く配属先を伝えるための体制作りが求められているのです。
なお、配属ガチャについては「人事が知るべき配属ガチャ 甘えとはいえない背景と6つの対策」でも詳しく解説しています。
関連記事「人事が知るべき配属ガチャ 甘えとはいえない背景と6つの対策」
不安の軽減につながる内定者フォローの内容・具体例
内定者フォローは近年になって急速に重要性が高まった取り組みであるため、社内にノウハウがなく、「具体的に何をすればいいかわからない」という採用担当者も多いでしょう。
マイナビの調査によれば、「内々定フォローで、最も不安が軽減されたもの」として以下が挙げられています。
「最も不安が軽減されたフォロー(内々定学生)」の上位5つ
・人事との面談(WEB) 21.3%
・人事との面談(対面) 15.1%
・定期的なメール連絡 9.3%
・人事以外の社員との面談(WEB) 8.9%
・内定者間の座談会や交流会(WEB) 7.6%
参考:株式会社マイナビ「2023年卒大学生活動実態調査 (6月)」
この結果を踏まえて、具体的に内定者フォローの各種取り組みを詳しく見ていきましょう。
面談・座談会
人事や先輩社員との面談・座談会は、内定者にとって会社の雰囲気や業務内容を知る機会となり、入社後のイメージが湧きやすくなります。上の調査結果からもわかるようにオンライン(WEB)で実施すれば、社員・内定者双方の負担を減らすことができます。
また同調査では「面談で何を話したことで不安が軽減されたか」という設問もあり、以下のような結果が出ています。
「面談で話したことで不安が軽減された内容」の上位5つ
・具体的な業務内容(入社1年目の業務内容など) 55.1%
・待遇(給与・福利厚生等)について 34.0%
・適性について(内定に至った理由や選考のFBなど) 25.4%
・勤務地について 24.5%
・通勤に関することについて 23.5%
面談・座談会の注意点としては、担当する社員の人選が挙げられます。面談・座談会での印象が悪いと、一転して内定辞退につながる可能性もあるからです。
人事部以外からも、社内でロールモデルとなっている社員や、入社後にメンターを務める可能性が高い社員など、内定者の目標になるような人物を選びましょう。
定期的なメール連絡
あらゆる内定者フォローの土台となるのが、定期的なメール連絡です。内定通知から入社日までの日程が空く新卒採用では、会社からの連絡が全くないと「本当に入社できるのか」と不安を抱えてしまうものです。
入社までに準備してほしいものを伝えたり、内定者懇親会や座談会への招待を行ったり、定期的にメールを送ることで、内定者に対して「しっかりとフォローを行っていく」という姿勢を見せること自体に大きな意味があります。
内定者懇親会
内定者懇親会は確かな効果が見込める上、金銭的・人的コストも少なく、非常に有意義な取り組みといえるでしょう。
初めて社会人として働き始める新卒者にとって、同期は同じ境遇の仲間であり、強い連帯感が生まれやすい存在です。懇親会を通して内定者同士で交流を深めれば、内定辞退率を低下させるだけでなく、入社後の定着率(離職率)にも良い影響を与えます。
ただ、そもそも複数名採用を行わない(内定者数が少ない)場合には実施しにくいデメリットもあります。
社内見学
社内見学は、会社説明会や選考段階でも行われることが多い取り組みですが、内定後に行えばより具体的に自分が働く姿をイメージしやすくなります。とくに新型コロナウイルス対策で社内見学の実施を自粛した企業は、内定通知後に改めて実施しておくべきでしょう。
ただ、社内見学のためだけに内定者を呼び出すのは、少々非効率です。内定者懇親会や面談などと合わせて実施するとよいでしょう。
社内イベント
内定者フォローの一環として、社内イベントに招待するという方法があります。内定者のためにイベントを開くというよりは、定期的に社内で行っているレクリエーションなどに参加を促すほうが負担も少ないでしょう。
ただ、社内イベントへの招待は、学生側にとってはありがた迷惑になる可能性も高いので注意が必要です。実際、面識もなく年齢の離れた人たちとイベントを楽しむには高いコミュニケーション能力が必要となり、ストレスとなる場合も少なくありません。
内定者の趣味と合致する社内のサークル活動を紹介するなど、距離感を考慮して実施するのが理想でしょう。
内定者研修
内定者研修とは、内定通知後から入社までのあいだに実施する研修です。具体的には、ビジネスマナー研修やOAスキル研修、内定者同士でのレクリエーションなどが行われます。
内定者を入社前から鍛えておくというよりは、内定者の入社後の不安を減らすためにスキルや知識を身につけてもらう研修と考えましょう。
スケジュール調整や研修用の資料作成などが必要なので、他の内定者フォローよりも負担は大きくなりますが、内定者同士の交流機会にもなるため、効果的な内定者フォロー施策となります。
また前述のとおり、研修を通じて改めて内定者の資質を確認し、配属先の決定に活かす目的でも実施されます。
なお、内定者研修については「内定者研修とは 内容や違法になる例を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:内定者研修とは 内容や違法になる例を解説
内定者フォローの注意点・ポイント
内定者フォローを実施するうえでの注意点やポイントについて解説していきます。
内定者フォローの頻度は内定者の都合を考えて
内定者フォローを行ううえで第一に考えなければいけないのが、内定者の都合です。
新卒採用であれば学校、中途採用であれば現職の仕事など、基本的に内定者には他に優先すべきことがあります。内定者フォローの実施の頻度に明確な目安はありませんが、「新卒であれば、卒業論文で忙しい時期は避ける」「中途であれば、繁忙期は避ける」など、内定者の都合を意識してスケジュールを組みましょう。
また、内定者フォローが義務や強制になってしまうと、逆に内定者の心証は悪くなります。面談や懇親会への参加を促す際は、日程に余裕を持って伝達し、原則として自由参加にすべきでしょう。
全社的に取り組む
採用担当者がどれだけ熱心に内定者フォローに取り組んでも、他の社員との面談や座談会で不快な思いをしたら、それまでの努力が水の泡になってしまいます。
内定者フォローの多くは、現場の社員との連携が不可欠です。人手不足や内定辞退率の上昇といった問題意識を共有したうえで、全社的に取り組む体制を整えておきましょう。
違法な取り組みにならないよう注意
内定者への研修を行う際、参加を義務としつつ賃金を支払わない場合は違法性を問われる可能性があります。
ポイントとなるのは、「内定者研修が労働時間と見なされるか」です。会社からの指示で参加を強制し、内定者を一定時間拘束するのであれば、一般的には労働時間と見なされます。実施の際には、しっかりと拘束時間分の賃金を支払うことも検討しておきましょう。
SNSでの連絡は要検討
内定者とまめに連絡を取るために、あるいは内定者との心理的な距離感を近づけるために、SNSを通じて連絡を行う企業は少なくありません。
しかし求職者側からすると、会社とプライベートなコミュニケーションツールでつながることを好まない人もいます。
現状ではSNSでの連絡にはメリット・デメリットが併存しており、正しいとも誤りとも言えません。SNSを活用する際は「プライベートなやり取りはしない」など、明確にルールを決めておく必要があるでしょう。
内定者フォローの検討に必要な「数字力」
内定辞退は自社のブランド力や待遇(給与や福利厚生)など、様々な要素が絡み合って起きる問題です。この解決に向き合う採用担当者には、数字やデータから「自社が置かれている状況」を見極めて、適切な施策を実施することが求められます。
例えば、自社のブランド力が低いのであれば、内定者フォローでは自社の魅力を伝えたり、入社後の期待感を高めたりする施策が効果的となるでしょう。このとき採用担当者の勘や経験に基づくのではなく、具体的な根拠を持って取り組み、「なぜこの施策が成功(失敗)したのか」を精査していくことが成功の秘訣となります。
しかし一方で、人事部や採用担当者のなかには「数字を扱うのが苦手」「データから情報を読み取れない」といった、数字に対する苦手意識を持つ方が少なくありません。そのため、まずは「数字やデータを正しく扱うことができる人材」を育成する必要があるのです。
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