ストレッチアサインメントとは 導入方法とメリット・デメリットを解説

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ストレッチアサインメントとは、対象者の実力以上の仕事や役職を任せることによって成長を促進させる人材育成手法です。スキル向上だけでなく、エンゲージメントの向上にもつながるといわれており、次世代リーダーの育成手法としても注目されています。

一方で、与える業務・課題の見極めが難しいだけでなく、Z世代の育成には合わない恐れがあるので注意が必要です。

今回は、ストレッチアサインメントの概要を踏まえたうえで、そのメリット・デメリットや導入方法について解説していきます。

ストレッチアサインメントとは

ストレッチアサインメントとは、対象者の実力以上の仕事や役職を任せることによって成長を促進させる人材育成手法です。タフアサインメントと呼ばれることもあります。

ポイントは、一方的に達成不可能な仕事や無理難題を押しつけるのではなく、対象者のキャリアプランに沿って、チャレンジ精神を持って取り組める仕事・課題を与えることです。

一般的に日本企業のストレッチアサインメントは、「責任が軽い」「内容が曖昧」といった傾向があると指摘されており、より効果的なストレッチアサインメントの導入が求められています。

ストレッチアサインメントへの関心が高まる背景

ストレッチアサインメントへの関心が高まる主要な背景として、少子高齢化による生産年齢人口の減少が挙げられます。人材確保の難度が上がるため、社員一人ひとりの生産性向上が求められるわけですが、より深刻な課題となっているのがリーダーの育成です。

日本経営協会「人材白書2023」によれば、「人材開発において直面している問題」として、1位が「次世代リーダー層の人材不足」(49.5%)、2位が「管理職の人材不足」(37.2%)と、組織の中心を担うべき人材の不足が課題となっています。

参考:一般社団法人日本経営協会「人材白書2023」

こうした経営人材やリーダー不足の問題は、後継者難による倒産という深刻な問題へとつながっています。こうした背景から、ストレッチアサインメントによる人材育成が注目されているのです。

ストレッチアサインメントで得られる効果・メリット

ストレッチアサインメントを活用することにより、具体的にどのような効果・メリットが得られるのか解説していきます。

スキル向上

まずストレッチアサインメントの効果として挙げられるのが、スキル向上です。能力以上の課題を設定することによりスキルアップをせざる得ない状況を作り出せるため、否応なしに成長につながります。

課題解決力や適応力が伸びることはもちろんですが、なによりも困難に打ち勝った自信と経験を得られることが最大のメリットといえるでしょう。

当事者意識とモチベーションの向上

ストレッチアサインメントで通常よりも責任のある役職・業務を任せることにより、仕事に対して当事者意識が芽生え、モチベーションも向上します。

この効果を最大限に発揮させるためには、対象者が「責任のある仕事を任された」「会社が自分に期待している」と感じるような状況を作ることが大切です。

エンゲージメントの向上

最適なストレッチアサインメントを行うことにより、エンゲージメントの向上にもつながります。

経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」によれば、「社員のキャリア志向に沿った適切なアサインメントにより、他の職務や、より高いレベルの職務へ挑戦を促すことで、エンゲージメントレベルが向上し、その社員が持つポテンシャルや能力が最大限活かされることが期待される」とあり、能力向上にとどまらない効果が期待されます。

参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~」

ストレッチアサインメントのデメリット

ストレッチアサインメントは効果の高い人材育成手法ですが、同時にデメリットも存在します。

与える業務・役割を見極めるのが難しい

ストレッチアサインメントの最大のデメリットは、与える業務・役割を見極めるのが難しいことです。実力以上でありながら、ギリギリ手が届く業務・役割を見極めるためには、対象者の性格や能力を正確に把握しておく必要があります。

また、対象者の理解が得られていないと、「無茶ぶり」や「ハラスメント」と受け取られてしまい、逆にモチベーションを下げる結果につながるので注意が必要です。

Z世代には合わない恐れがある

ストレッチアサインメントは、Z世代の価値観には合わない恐れがあります。SHIBUYA109 lab.が大学3、4年生を対象に実施した「キャリア観に関する意識調査」によれば、「自分のペースで成長したい」という設問に対し、80.1%があてはまる(「とてもあてはまる 26.7%」、「あてはまる 53.4%)」)と回答しました。

また、「バリバリ働いていきたい」という設問でも50.9%があてはまらない(「あまりあてはまらない 34.9%」、「あてはまらない 16.0%)」)と回答しています。

参考:株式会社SHIBUYA109エンタテイメント「Z世代のキャリア観に関する意識調査」

Z世代には「チャレンジ精神に欠ける」「受け身・指示待ち型」といった特徴があるとも指摘されており、ストレッチアサインメントは対象者の適性や価値観を考慮したうえで実施することが大切だといえるでしょう。

なお、Z世代の育成については「「Z世代は仕事ができない」は本当か 育成と定着に必要な取り組みとは」でも詳しく解説しています。

関連記事:「「Z世代は仕事ができない」は本当か 育成と定着に必要な取り組みとは」

ストレッチアサインメントの導入方法

ここからは、ストレッチアサインメントの導入方法とその流れについて解説していきます。

事前の周知

まずストレッチアサインメントの導入に必要となるのが、事前の周知です。責任や負荷が重い仕事をいきなり与えても、「上がやりたがらない仕事を押しつけられた」と感じてしまうものです。

事前に対象者へしっかりとストレッチアサインメントの効果や、成長への期待を伝えておくことが導入の第一歩となります。

対象者のストレッチゾーンの見極め

ストレッチアサインメント導入時の最大のポイントといえるのが、対象者のストレッチゾーンの見極めです。

ストレッチアサインメントでは育成対象者の状況を「コンフォートゾーン」「ストレッチゾーン」「パニックゾーン」の3段階に分類しており、育成対象者の経験値や能力、性格を考慮してストレッチゾーンを見極める必要があります。

・コンフォートゾーン:「快適な空間」を意味し、心理学などでは「ストレスや不安を感じず、落ち着いた状態でいられる場所・状況」とされる。惰性で業務をこなせる難易度で、成長は乏しい。

・ストレッチゾーン:不安は伴いつつも、背伸び(学習・スキルアップ)をすることでなんとか対応できる状況。成長効率が最も高い。

・パニックゾーン:自分では収拾をつけられない状況や、対象者が無理難題と感じる状況。成長につながる部分もあるが、多大なストレスや不安に晒される。

負荷が軽すぎると成長につながりませんし、負荷が重すぎるとストレスなどのマイナス面が上回ってしまうため、適切なマネジメントが求められます。

目標設定は指導者側がサポートする

ストレッチアサインメントにおける目標設定では、指導者側のサポートが欠かせません。ストレッチアサインメントで取り組む仕事は、育成対象者にとって未知の領域であるため、なかなか自分だけでは適切な目標値を設定できないからです。

対象者が息切れをせず、適切な負荷でチャレンジを続けられるような目標を設定することが大切です。また、目標は数値化することで共通認識が得られやすくなり、達成度を管理しやすくなります。目標の数値化については「目標を数値化するメリットとその方法 企業の事例も解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「目標を数値化するメリットとその方法」

進行時は手助けせずに見守る

対象者がストレッチアサインメントによる業務に取りかかったら、なるべく手助けをせずに見守ることが基本となります。自分の力で困難に打ち勝つことが、ストレッチアサインメントの醍醐味だからです。

もちろん、大きな損害につながりそうなミスや見落としがあれば話は別ですが、失敗をすることも成長の糧として見守ることがポイントとなります。

フィードバック

業務が一段落したら、そこまでのアクションや進捗に対して、しっかりと時間を設けてフィードバックをしましょう。適切なフィードバックを行うことにより、ストレッチアサインメントの効果はさらに高まります。

一口にフィードバックといっても様々な手法(フレームワーク)があり、人材育成の効果を高めるためには、知識と技術が必要となります。主観的な振り返りではなく、客観的かつ論理的にフィードバックを与えることが大切です。

なお、フィードバックについては「ビジネスにおけるフィードバックとは 種類・方法・効果について解説」でも詳しく解説しています。

「関連記事:ビジネスにおけるフィードバックとは 種類・方法・効果について解説」

ストレッチアサインメントの運用に欠かせない「数字力」

ストレッチゾーンを見極めるためには、育成対象者の能力を正確に把握する必要があります。

そこで活用すべきなのが、定量的な人事データです。主観による能力の見極めはどうしてもバイアス(偏り)が生じてしまうため、勤怠情報や成績といったデータから客観的に能力を把握することが求められます。

しかし、ビジネスパーソンのなかには数字に対する苦手意識を持つ方も少なくありません。こうした人材にいきなりデータ活用を求めてもなかなか成果は上がらず、むしろ数字やデータに対する拒絶反応を強めてしまうものです。

まずは、それぞれのレベルに合わせて数字やデータの扱いを学んでいき、少しずつデータ分析に慣れていくことが大切なのです。

弊社オルデナール・コンサルティングが提供する「ビジネス数学研修」では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。

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