社員教育計画の立て方とその注意点

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社員教育は、経営目標や事業計画の達成を目的に実施されます。その重要性は言うまでもありませんが、実は社員教育の計画を立てている企業は少なく、多くの企業にとって計画を立てること自体が課題となっています。

今回は社員教育の目的や効果を確認したうえで、社員教育の計画の立て方とその注意点について解説していきます。

社員教育の目的

社員教育の究極的な目的は、企業として経営目標や事業計画を達成することにあります。社員を教育することによって「スキルアップによる生産性向上」「コンプライアンス意識の向上」といった成果が得られれば、より確実に経営目標や事業計画を達成できるわけです。

社員教育の計画を整備できている企業は2割

社員教育の重要性は言うまでもない一方で、しっかりと社員教育の計画を整備できている企業は多くありません。

東京商工会議所の調査によれば、「研修・教育訓練の年間計画や人材育成に関する中長期的な方針・計画をともに定めている」と回答した企業は20.1%にとどまっています。

また、30.5%の企業が「研修・教育訓練の方針や計画が無く、体系的に行われていない」と回答しており、社員教育の計画を立てることは思いのほか大きな課題となっていることがわかります。

さらに同調査で「計画的・体系的に研修・教育訓練、人材育成が行われるようにするためには、方針や計画の策定を促進していくことが重要であることがうかがえる」と指摘しているとおり、まず取り組むべきは社員教育の計画・方針の整備といえるでしょう。

参考:東京商工会議所「研修・教育訓練、人材育成に関するアンケート」

社員教育によって得られる効果

社員教育には様々な種類・方法がありますが、そのなかでも共通して得られる効果・メリットについて解説していきます。

社員一人ひとりのスキルアップ

社員教育にて社員一人ひとりをスキルアップさせることにより、組織としての生産性が高まり、より多くの利益が生み出されます。また、社員も会社の計画によって成長を実感できれば、帰属意識が高まってさらに生産性の向上が期待できます。

社員一人ひとりのパフォーマンス向上は、少子高齢化による生産年齢人口の減少に直面する現代において、より重要性が増しています。

ただ、スキルアップの施策は一律に実施しても効果は上がりません。職種や階層によって求められるスキルは異なるため、階層別研修や職種別研修といったかたちで、社員それぞれにとって最も必要となるスキル・経験を取得させる必要があります。

コンプライアンスとリスク管理

社員教育は、コンプライアンスとリスク管理を考えるうえでも重要な取り組みとなります。

情報漏洩やハラスメント、SNSでの不適切な言動など、リスクの種は企業活動のあらゆる場面に潜んでいるといっても過言ではありません。これらリスクは一人の社員の軽率な行動によって、簡単に企業の社会的信用を失墜させてしまいます。

そのため、社員教育によって法律やリテラシーなどの知識を身につけ、規範意識を高めることは、企業にとっても欠かせない取り組みになっているのです。

企業としての方針・理念の共有

社員教育は、経営方針や企業理念を共有する機会でもあります。企業としての方針・理念を理解していれば、自ずと日々の業務の意図もわかり、モチベーションへとつながっていきます。

とくに新入社員研修や管理職研修で重要な意味合いを帯び、経営方針・理念への共感が深まれば、エンゲージメントも向上していくでしょう。

社員教育の計画の立て方

先ほど「企業の約3割は社員教育の計画を策定できていない」という結果を確認しましたが、その行程自体は決して難しいものではありません。ここでは、社員教育の計画の立て方を流れに沿って解説していきます。

現状把握

社員教育の計画を作成するためには、まず自社の現状を把握する必要があります。社内に存在する課題や、不足している人材・スキルなど、解決すべき事柄をピックアップしていきましょう。

なお、課題によってはアウトソーシングやITツールの導入などによっても解決できる場合もあるため、社員教育によって解決すべき課題に絞って精査することをおすすめします。

対象と目標の設定

現状把握によって解決すべき課題を洗い出せれば、自ずと教育を施すべき対象と目標が定まってくるはずです。

ここで重要になるのが、「何をもって目標達成とするか」を明確に定めることです。わかりやすい目標は、資格の取得や営業目標の達成などですが、目標は定量化できるものばかりではありません。そのなかで具体的かつ納得感が得られる目標を設定しましょう。

実施時期とスケジュールの組み立て

次に、社員教育の実施時期を決めて、スケジュールを組み立てます。社員教育の実施するタイミングは、入社時や配属時(昇進時)などの節目が基本となりますが、定期・不定期に実施するものもあります。

もっともわかりやすい例は、新人社員研修でしょう。実施のタイミングは入社時からで、配属に合わせて終了となります。

研修スケジュールの組み立て方については「研修スケジュールの設定とその流れ」でも解説しています。

関連記事:「研修スケジュールの設定とその流れ」

教育方法(種類)の選定

スケジュールと並行して、教育方法(種類)を選定しましょう。具体的な方法としては、OJT、OFF-JT、eラーニング(オンライン研修)などが挙げられます。

教育方法は、社員教育の目標や社内の状況、達成期限など、様々な要素を踏まえて検討する必要があります。

例えば、社内に知見がない分野について学ぶ場合は、OFF-JTで外部機関の研修やセミナーに参加する必要があります。逆に、社内のノウハウを学ぶのであれば、現場のスケジュールに合わせてOJTを実施していくことになります。

他にも「社内のリソースが足らないため、OFF-JTで外部機関に委託する」「教育対象者が多忙なのでeラーニングを活用する」など、社内の状況によっても最適な教育方法は変わってきます。

重要なのは社員教育を実施することではなく、その先にある目標を達成することです。社員や会社にとって何が最善の方法になるかをしっかりと検討していきましょう。

なお、研修の方法や種類については「人材育成における研修の方法・種類」でも詳しく解説しています。

関連記事:「人材育成における研修の方法・種類」

効果測定

社員教育の計画で漏れがちなのが、実施後の効果測定です。「対象者にとって価値ある教育となったか」「目標に対してどの程度の効果があったか」などについて確認していき、ノウハウを蓄積させることで、より良い社員教育計画を練られるようになります。

具体的な方法としては、アンケートが挙げられます。とくに不満や課題に感じた点などを汲み取ることで、今後の改善点としてブラッシュアップにつながります。

アンケートの作成方法やポイントについては「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」でも詳しく解説しています。

関連記事:「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」

社員教育の計画を立てる際の3つの注意点

社員教育の計画を立てる際には、いくつか注意すべき点があります。ここでは3つのポイントに絞って解説していきます。

対象者に意図・目的を理解してもらう

社員教育を実施する際は、対象者に教育の意図・目的を理解してもらうことが大切です。勉強も仕事も「なぜこんなことをしているのだろう」と疑問を持ちながら行っても成果は上がりません。

「対象者または企業が置かれている状況」「社員教育によって期待される成果」などを共有したうえで、社員教育の重要性を理解して臨んでもらいましょう。

実務に直結する内容か確認する

社員教育を推進する際は、内容・プログラムが実務に直結しているか確認しましょう。どれだけ良い社員研修を実施しても、実務に結びつかなければ成果は上がりません。

まず注意すべきなのが、外部研修のプログラムです。「理論ばかりの座学で実務に結びついていない」など、研修の質について確認することが大切です。

また、新入社員研修のように定例で実施している社員教育も、定期的に内容の見直しを行うことが大切です。ビジネスシーンの変化や技術革新などによって陳腐化している可能性もあるため、現場の状況を照らし合わせてアップデートしましょう。

継続して実施する

内容・種類にもよりますが、社員教育はすぐに見切りをつけずに継続して実施することが大切です。社員それぞれの成長速度も異なるため、ある程度長いスパンで実施するよう心がけましょう。

ポイントは、効果測定によって改善を行い、より教育体制を整えていくことです。一方で、外部研修先での成果が芳しくないときなどは、すっぱりと方針転換を行うことも大切になります。

社員教育の計画を立てるが他社との差別化に

「社員教育の計画を立てている企業は約2割に過ぎない」ということは、綿密な社員教育の計画を立てれば、他社との差別化になっていきます。

現状把握や教育方法の選定などは人事担当者にかかる負担も大きいですが、決して難しい行程ではありません。社内の課題を洗い出し、社員教育の目的を明確にして適切な方法を選択できれば、自ずと計画の土台が構築されていくでしょう。

生産年齢人口が減少する中で企業の持続的な発展を支えるために、しっかりと社員教育の計画を立てていきましょう。