研修の効果測定とは カークパトリックモデルやアンケート項目を解説

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「実施した研修が人材育成や課題解決につながっているか」を効果測定できずに悩んでいる人事担当者は多いと思います。

ビジネスでは様々な出来事が複雑に絡み合うため、課題解決や育成が達成されたとしても、それが「研修による成果なのか」を立証するのは非常に困難です。しかしそうは言っても、人事担当者は研修の成果を何らかのかたちで示すことが求められます。

今回は研修の効果測定について、代表的なフレームワークである「カークパトリックモデル」や効果測定の具体的な方法、アンケート項目の作り方などを解説していきます。

研修の効果測定の必要性と難しさ

研修を推進・継続するうえで最も重要になるのは「その研修によってどのような成果を上げられたか」を立証することでしょう。投資した金銭的・人的コストに見合うだけの効果を証明できなければ、経営層から不満の声が上がってきます。

しかしその一方で、研修の効果測定は難しいと言わざるを得ません。研修の種類によっては効果が表れるまでに時間がかかる場合も多く、売上の向上などの成果が「研修の効果なのか」を証明するには高度な分析が必要となるからです。

こうしたジレンマを抱えつつも、人事担当者には何らかのかたちで研修の成果を示すことが求められます。

研修の効果測定の目的・方向性

どのような目的意識・方向性で研修の効果測定を進めていくべきかについて、解説していきます。

研修の推進・継続の可否

研修の効果測定を行う最大の目的は、研修の推進・継続の可否を判断するためでしょう。経営的な視点から見て、実施した研修に金銭的・人的コストに見合うだけの投資効果が得られないのであれば、継続は困難となります。

社員の理解度・満足度の確認

効果測定は実施した研修について、社員がどの程度理解・満足しているかを確認する意味合いもあります。

まず理解度については、研修内容の質を評価することにつながってきます。社員の理解度が軒並み低いことがわかれば、「研修内容が難しすぎる」「研修プログラムに不備がある」といった問題点が浮かび上がります。

また社員の満足度は、研修の推進・存続を判断する材料となります。仮に研修による業務上の成果が出ていなくても、研修への満足度が高ければ「従業員満足度の向上」という効果が得られていることになります。これは研修を存続させるのに十分な成果と言えるでしょう。

このように、研修の効果測定は経営的な視点のみならず、社員視点からも実施する必要があるのです。

研修の改善点を探る

効果測定の目的のひとつとして、研修の改善点を探ることが挙げられます。例えば「研修内容を実務につなげられていない」という課題・不満点を確認した場合、より実践的な研修プログラムに改善しなければいけません。

また、外部の研修会社に委託している場合は、現場で求められているスキルとプログラムにミスマッチはないか探ることも大切です。

効果測定は研修の存続を判断するためだけでなく、研修をより良いものにする意味合いもあるのです。

研修の効果測定の基本「カークパトリックモデル」

研修の効果測定といっても、何から手をつければいいかわからないという方がほとんどでしょう。ここでは、研修の効果測定のフレームワークとして代表的な「カークパトリックモデル(4段階評価法)」について解説していきます。

カークパトリックモデルは、ウィスコンシン大学名誉教授のドナルド・カークパトリックによって提唱された、トレーニングプログラムの評価法です。このモデルでは研修・教育の効果を4段階で表し、研修による変化を評価していきます。

第一段階:反応

第一段階の「反応」は、研修後に受講者が感じた満足度です。受講者が研修に感じた魅力や、自分の仕事との関連度などを計測します。研修内容や講師について、アンケートなどを用いて確認していきましょう。

第二段階:学習

第二段階の「学習」は、受講者が知識やスキルを習得した度合いです。研修後の理解度テストやレポート作成などを通じて、習熟度を計測していきます。

なお、第一段階の「反応」で受講者の満足度が高かったとしても、実際には知識やスキルが身についていない場合があるので注意しましょう。

第三段階:行動

第三段階の「行動」は、研修で学んだことを業務で実践できているかの度合いです。研修による行動変容を計測するものであり、中長期的に成果を確認していく必要があります。受講者の上司や同僚などにヒアリングを実施して、周囲からの評価を汲み取ることも大切です。

ここでも注意したいのが、「反応」「学習」の評価が高くとも、実務に結びついていない場合がある点です。受講者の満足とスキルアップを達成できていれば、エンゲージメントの向上という成果は評価でき、離職率の低下などの効果が期待できるでしょう。

ただ企業側としては、やはり「行動」の度合いの高さと生産性の向上といった成果に着目したいところです。

第四段階:結果

第四段階の「結果」は、研修が組織にもたらした影響、全体で得られた価値などを指します。

ビジネスにおける「結果」は、ひとつの指標のみで導き出されるものではないので、評価が非常に困難な項目です。

例えば、売上の向上で「結果」を評価しようとしても、売上には景気などの「マクロな要因」から社員の体調といった「ミクロな要因」まで様々な要素が絡み合っており、結果を変動させます。

つまり、売上が向上したからといって、短絡的に「研修の成果」と結論づけるわけにはいかないのです。

そのため、無理に第四段階について高度な分析を行うより、第三段階までの評価の精度を高めていくのも、一つの効果測定の方法といえます。

第五段階:投資収益率

原典のカークパトリックモデルには含まれていませんが、第五段階として「投資収益率」を含める場合があります。研修にかかった総コストと第四段階までの成果を比較するもので、費用対効果でも研修を評価する試みです。

※投資収益率は第四段階の「結果」に含まれるという指摘もあります

研修の効果測定を行うための方法

研修の効果測定を行う際には、具体的にどのような方法を用いればよいのか解説していきます。

アンケート

研修の効果測定の方法として最も一般的なのが、アンケートです。すでに受講者の満足度や研修の問題点を把握するために実施している企業も多いでしょう。

しかし、アンケートは身近であるがゆえに「誰でも作成できる」と思われがちですが、質問項目の作り方や回答方式の選定には、技術と知識が必要となります。

研修の効果測定につながるアンケートについては「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」で詳しく解説しています。

関連記事:「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」

ヒアリング

ヒアリングは受講者に対して、インタビュー形式や面談形式で行います。ヒアリングでは受講者の内面部分や、アンケートではくみ取りきれない詳細な情報が得られる一方、複数名に実施できず、時間もかかるデメリットがあります。

またヒアリングは、研修担当者に気を遣って建前の回答になりやすい傾向もあります。率直な本音をくみ取りたい場合は、アンケートを匿名形式で実施するほうがよいでしょう。

ちなみに、研修後のアンケートとヒアリングを総称して「行動観察」と呼ぶこともあります。

理解度テスト

アンケートと同様に一般的な効果測定の手法として挙げられるのが、理解度テストです。その名のとおり、知識・スキルの習得度合いを計測するためのテストで、得点によって定量化した測定結果が得られます。理解度テストの代わりに外部の検定試験を受験し、資格取得を同時に狙う場合もあります。

また、事前に理解度テストを行うと周知しておけば、受講者が緊張感を持って研修に臨む効果も期待できます。ただ一方で、研修に義務感が生じてモチベーションが下がる場合もあるので、メリット・デメリットを把握して実施しましょう。

なお研修機関によっては、研修プログラムに理解度テストを含めている場合もあります。

ROI分析

ROI(Return On Investment)とは、投資したコストに対して、得られた利益の割合を表す指標です。カークパトリックモデルの「第五段階:投資収益率」が、まさにROIです。ROI分析はマーケティングでも活用される手法で、研修の効果測定においては、研修にかかったコストに対して、どの程度の業績向上が得られたかを測定していきます。

分析のためには、研修を受けていない状態のデータ(前年のデータや非受講者との比較)が必要となるので、ROI分析を行う場合は事前に準備しておきましょう。

ただ「第四段階:結果」でも解説したとおり、ビジネスにおける「結果」は様々な要因が絡み合っているため、分析は容易ではありません。

例えば「投資したコスト」をどの範囲まで含めるかにしても、正解がないのが現状です。受講料やテキスト代は当然コストに含めるとしても、会場費や受講者の食事代をコストに含めるか、受講者が研修のために業務を休んだ時間(機会損失)をどう扱うかなど、定義は困難です。

ROI分析を行う場合は、明確な目的意識と事前の入念な準備が重要となります。

研修の効果測定を行う上での4つのポイント

フレームワークや測定の方法を踏まえて、研修の効果測定を成功させるためのポイントをお伝えします。

研修に目標(ゴール)を設定する

研修を企画する段階で、明確な研修の目標(ゴール)を設定しましょう。この前提がないと、効果測定の方向性も定まらないからです。

具体的には「社員にどのような変化を遂げてほしいか」「何を身につけて、どのような仕事を担ってほしいのか」などを明確にしておく必要があります。また、目標を定量的にしておくと、結果の測定が行いやすくなります。

効果測定の目的をはっきりさせる

効果測定の失敗の原因として多いのが、効果測定の目的が曖昧なままスタートしてしまうことです。

「研修の善し悪しを見極める以外に目的なんてあるのか?」と思うかもしれませんが、効果測定の方向性は細かく決めなければいけません。

【効果測定の目的(方向性)の一例】

・研修プログラムの改善策の検討

・経営層への研修成果のプレゼン

・受講者のスキルアップの確認

・研修の効果が出やすい社員の属性

これら目的によって、収集すべきデータや評価項目は変わってきます。また、様々な方向性で効果測定を行おうとすれば、収集すべきデータも増えて負担も大きくなります。効果測定の目的は、明確に絞っておくことが大切です。

効果測定のアンケート項目には精査が必要

アンケートで研修の効果を測定するためには、アンケートの「項目」を精査する必要があります。

例えば、定番のアンケート項目として「研修の内容はわかりやすかったか」という質問がありますが、これはあまり良い質問とはいえません。受講者が「講師の解説はわかりやすかったが、資料はわかりにくかったから……5段階評価で3点」と考えた場合、「資料がわかりにくかった」という研修の改善点が見落とされるからです。

この場合は「研修の内容それぞれについて、5段階で評価してください」と、詳細に項目を作り、以下のような設問で細かく掘り下げて確認する必要があります。

【アンケートの項目の例】

研修の内容のわかりやすさについて、5段階で評価してください

①講師の解説のわかりやすさ

わかりやすい 1 2 3 4 5 わかりにくい

②資料のわかりやすさ

わかりやすい 1 2 3 4 5 わかりにくい

③その他に気づいたことがあれば、以下に記入してください

(                          )

どの段階まで測定を行うか決めておく

効果測定は、研修の種類や目的などによって難易度が大きく異なります。そのため、難易度を踏まえた上で、事前にどの段階まで測定を行うか決めておくことが大切です。

例えば、成約件数が伸び悩む営業に対して「ネゴシエーション研修」を実施した場合は、「成約件数が伸びたか」を目的として効果測定を行うことになるでしょう。

この場合、市場の変化といった不確定要素を踏まえても、研修と成約件数の相関関係を確認することはそう難しいことではありません。研修実施前のデータと比較してROI分析を行うことで、一定の評価ができるでしょう。

一方で、全社員に対して「リスクマネジメント研修」を実施した場合、その効果を測定するのは非常に困難です。対象範囲が広く、「リスクを研修で得た知識によって防いだ」と実証することは非常に困難だからです。

この場合は、受講者に知識が身についたかを確認するための理解度テストや、アンケートによって受講者の満足度を計測することが順当な効果測定となるでしょう。

まとめ

研修の効果測定は非常に難しく、必ずしも望んだ結果が得られるわけではありませんが、研修の継続や改善を検討するためには避けて通れない取り組みです。

そんな研修の効果測定の精度を上げていくためには、基本に立ち返ることが大切になります。まずは、しっかりと研修自体のゴールと効果測定の目的を定めて、収集すべきデータを明確にしましょう。そのうえで、アンケートや理解度テストなど適切な方法で測定を進めることが重要です。

また、研修の種類から効果測定の難易度を把握しておき、社内のリソースを踏まえて、どの段階まで測定を行うか決めておくこともポイントとなります。

研修の効果測定を成功させるには「数字力」の向上を

研修の効果測定がうまくいかない原因として、人事担当者がデータの扱いや分析に慣れていないことが影響している場合があります。実は「数字に対する苦手意識」を持つビジネスパーソンは、意外と多いのです。

高価なツールを導入して効果測定を推進しようとしても、それを扱う担当者がデータ分析のノウハウを理解していなければ宝の持ち腐れです。それよりも担当者の「数字力」を磨いてデータリテラシーを向上させていけば、自ずと研修の効果測定の精度も向上していくはずです。

弊社オルデナール・コンサルティングが提供する「数的センス向上トレーニング」では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。

「アンケートやヒアリングで集めたデータをどう分析すればいいかわからない」「データから改善策を立案する方法を学びたい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご活用ください。

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