企業におけるリスクマネジメント 必要性や進め方を解説
リスクマネジメントは、リスクを組織的に管理することにより、損失を回避または低減するプロセスです。
VUCA(ブーカ)時代と呼ばれる現代において、リスクマネジメントは企業にとって欠かせない取り組みとなっています。
今回は、企業にとってのリスクマネジメントの概要を整理したうえで、リスクマネジメントの必要性や進め方について解説していきます。
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、リスクを組織的にマネジメント(管理)することによって、損失を回避または低減するプロセスを指します。
中小企業庁においては「企業の価値を維持・増大していくために、企業が経営を行っていく上で障壁となるリスク及びそのリスクが及ぼす影響を正確に把握し、事前に対策を講じることで危機発生を回避するとともに、危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法」と定義しています。
引用:中小企業庁
企業活動における「リスク」
企業活動における「リスク」は、言葉通りの「危険性」という意味だけではなく、ビジネスにおけるリスクは「目的に対する不確実性の影響」と捉えられています。
もちろん、これには自然災害や社員による事故といった損失しか生まないリスクも含まれます。一方で、景気や金利の変動のように好機につながる可能性もある不確実な事柄もリスクマネジメントの対象に含まれるのです。
また、企業活動におけるリスクの発生源は、自社内である程度コントロールできる「内部要因」と、コントロール外から訪れる「外部要因」に分けられます。
とくに自社を取り巻くリスクを洗い出す際は、「内部要因」と「外部要因」で分けて整理すると、見落としを減らせるでしょう。
企業におけるリスクマネジメントの必要性
近年は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれるように、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化するため、リスクマネジメントの重要性が高まっています。
※VUCA:「変動性(Volatility)」「不確実性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」の頭文字からなる言葉で、目まぐるしく変化が訪れる予測困難な状況を意味する
企業がリスクマネジメントを行うべき理由として、主に以下のような背景からリスク要因が増加していることが挙げられます。
・グローバル化
・技術革新
・気候変動
スケールが大きいため、日々の企業活動に直結するようには見えないかもしれませんが、例えばSNSによる不祥事の拡散なども技術革新による変化のひとつです。
不祥事が明るみに出れば、一瞬にして大きな影響が広がってしまい、投資家や消費者からの信用損失につながります。
こうしたリスクに対しては、旧態依然の危機管理のスピード感では対応が間に合わず、損失が拡大してしまいます。リスクマネジメントによって事前に損失を回避するのはもちろんですが、リスクが顕在化したあとも事業継続を維持できる体制を整えておくことが求められるわけです。
リスクアセスメントとの違い
リスクアセスメントとは、企業を取り巻くリスクを特定し、その危険性の見積もりや対応の優先度などを決定する一連の手順のことです。リスクアセスメントはリスクマネジメントのプロセスに含まれる言葉であり、その違いを論じるものではありません。
クライシスマネジメントとの違い
リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いは明確ではなく、いくつかの指摘があります。
まず両者の違いとして挙げられるのが、被害または重要度の大きさです。クライシスマネジメントは、企業活動を止めるほどの予想外の事態に対して、事前に対応策や行動計画を練っておくことと定義されます。
また、リスクマネジメントはリスクが発生しないようにするための取り組み(事前策)であり、クライシスマネジメントは事後策とするという指摘もあります。ただ、リスクマネジメントは多くの場合で事前策と事後策の両方を含むため、こちらの指摘は正確に両者の違いを表しているとはいえないでしょう。
リスクヘッジとの違い
リスクヘッジはもともと金融用語で、具体例として「投資先を分散することによってリスクを回避する」などが挙げられます。意味としては「リスクを予測することで、リスク回避などの対応を可能にすること」となり、この定義からもわかるようにリスクマネジメントとリスクヘッジに大きな違いはありません。
強いて違いを挙げるとすれば、リスクマネジメントは企業・組織においてリスク管理の体制を整備することであるのに対して、リスクヘッジは施策や取り組み自体を指します。
リスクマネジメントの方向性と内容
大別するとリスクマネジメントの方向性は、リスクの発生とその影響を抑える「リスクコントロール」と、発生してしまった損失を別のかたちで補う「リスクファイナンシング」に分けられます。
以下、さらに細分化してリスクマネジメントの内容を解説します。
リスクマネジメントにおける「回避」は、事前に対策を打っておくことにより、リスクを未然に防ぐことを指します。
「低減」は、リスクが発生してしまった後、その被害・影響をできるだけ少なくすることを指します。
「移転」は、リスクが発生してしまった後、その被害・影響を第三者の組織によって賄ってもらうことを指します。最もわかりやすい例が保険でしょう。
「受容」は、発生してしまったリスクを受け入れて、特段の対応を行わない選択を指します。対応策が存在しない場合だけでなく、対応に必要な金銭的・人的・時間的コストが結果に伴わない場合でも用いられます。
リスクマネジメントの進め方
ここからは、実際にリスクマネジメントを実行する際の進め方について解説していきます。
リスクの洗い出し
最初に、リスクの洗い出しを行います。まずは、ブレーンストーミングなどで徹底的にリスクの種を挙げていくことが有効な取り組みとなります。
また、自社が潜在的に抱えているリスクを把握するためには、利害関係者とのコミュニケーションも不可欠です。
リスクの重要度を確認する
次に、洗い出したリスクについて、その重要度を確認していきます。方法としては、「リスクが発生する確率」と「リスクが発生した際の影響度」を軸にして、それぞれを段階評価していきます。
発生確率が高く、影響度も高いのであれば、もっとも重要なリスクとして優先して対応しなければいけません。
リスクマネジメントの適用範囲と基準の確定
続いて、リスクマネジメントの適用範囲と基準を確定します。企業を取り巻くリスクは無数にあるため、全ての部署に対してリスクマネジメントを施せるわけではありません。
リスクの重要度をもとにして、自社のリソースの範囲内でどこまで対応するかの基準を見極めていきます。
リスクへの対応策の検討
リスクマネジメントの適用範囲が定まったら、具体的にリスクへの対応策を定めます。前述の「リスクマネジメントの方向性と内容」のとおり、各リスクについてどの対応が適切か検討しましょう。
実施後の評価
対応策を実行したあとは、適切にリスクを回避・低減できたかについて評価を行います。リスクマネジメントは一度設定したら終わりではなく、情勢の変化や別のリスクの出現などに対応するために、PDCAサイクルを回しながら改善していく必要があります。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻など、ここ数年だけでも企業活動に甚大な影響を及ぼすリスクが発生しています。今後はAIによって大きく産業が変化していくでしょう。
こうした「リスク」が降りかかった際にも事業を維持・推進するためには、リスクマネジメントが不可欠です。
ただし、経営層や管理職だけがリスクマネジメントを推進しても効果は上がりません。実際にリスクに対処するのはすべての社員であるため、全社一丸となってリスクマネジメントを推進する体制を整えていきましょう。
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