ピープルマネジメントとは 得られる効果や必要なスキルを解説

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ピープルマネジメントとは、社員自身の成長・成功に重きを置くマネジメント手法です。社員の定着率向上や自律型人材の育成につながることから、VUCA時代に求められる管理手法として注目されています。

今回はピープルマネジメントの意味や効果、導入にあたって必要となるスキルや取り組みなどについて解説していきます。

ピープルマネジメントとは

ピープルマネジメントとは、社員のモチベーションやキャリア形成、価値観といった、社員自身の成長・成功に重きを置くマネジメント手法です。

これまでのマネジメントは、経営目標の達成を一義的に考える管理や、役職・役割に基づいた管理といった、会社側に主体がある方法が一般的でした。しかし、終身雇用制の崩壊によってひとつの会社でキャリアを終える時代ではなくなり、多様な働き方が広まったこともあり、会社主体のマネジメント方式では社員をつなぎ止めることが難しくなってきています。

その点でピープルマネジメントは、社員一人ひとりと向き合い、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう成長を促していきます。社員のパフォーマンスが高まれば、結果として組織としての最大化・目標達成につながっていくというわけです。

マネジメントの定義

マネジメント(management)は、もともと「管理・経営」といった意味の言葉です。それがアメリカの経営学者ピーター・ファーディナンド・ドラッカーによって「組織に成果を上げさせるための道具や機能、機関」と定義され、広くビジネスの場で用いられる言葉となりました。

この定義に則るなら、ピープルマネジメントは「組織として成果を上げるために、社員自身の成長・成功を重んじる施策」といえるでしょう。

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントとは、社員が持つ才能や経験などを情報化して人事管理に活かすことで、人員配置や人材育成を戦略的に推進し、組織のパフォーマンスの最大化を目指すマネジメント手法です。

この意味合いからもわかるように、ピープルマネジメントとタレントマネジメントは似通った取り組みといえます。相違点を挙げるならば、取り組みの主体が企業側と社員側に分かれていることでしょう。

タレントマネジメントは社員のスキルや経験などの情報を人員計画に活かしていく取り組みであり、企業側に主体があります。対してピープルマネジメントは、社員の成功・成長がテーマとなっており、社員側に主体があるのです。

なお、タレントマネジメントについては「タレントマネジメントとは 進め方や管理すべき項目を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「タレントマネジメントとは 進め方や管理すべき項目を解説」

モチベーションマネジメントとの違い

モチベーションマネジメントとは、社員それぞれのモチベーションの源泉を把握したうえで、社員が意欲的に働けるように内的要因・外的要因の両面から改善を図るマネジメント手法です。

モチベーションマネジメントとピープルマネジメントは重なる部分が多い取り組みですが、モチベーションマネジメントのほうが、より広く施策の検討や改善を図っていきます。

そもそもモチベーションは動機付けという意味で、簡単に言えば「やる気」です。社員のやる気の源泉がキャリア形成や自身の成功にある場合、モチベーションマネジメントとピープルマネジメントの施策は全く同じになるでしょう。

しかし、働くうえでのモチベーションはキャリア形成や成功だけではなく、福利厚生や職場の雰囲気といった、組織のハード面・ソフト面の両方が密接に関わってきます。そのため、モチベーションマネジメントは組織全体に目を向けて、幅広くモチベーション改善に向けた取り組みを推進する必要があるのです。

ただ、ピープルマネジメントも社員のモチベーションを重視する取り組みなので、企業によってはモチベーションマネジメントとピープルマネジメントがほぼ同じ意味合いで運用されている場合もあります。

パフォーマンスマネジメントとの違い

パフォーマンスマネジメントとは、社員一人ひとりの能力とモチベーションを最大化し、目標達成に向けて主体的に行動できるよう促していくマネジメント手法です。

パフォーマンスマネジメントとピープルマネジメントは、名前こそ異なれど内容はほぼ同じ手法です。マネジメントを行うにあたって必要となる施策や、得られる効果(メリット)にも相違点はないと考えてよいでしょう。

ピープルマネジメントで得られる効果・メリット

ピープルマネジメントを導入することによって、具体的にどのような効果・メリットが得られるのか解説していきます。

上司と部下の信頼関係の構築

ピープルマネジメントにおいて、上司は「部下の伴走者」を担います。行き先や方法を指示・命令するのではなく、部下を主体としてサポートすることが上司の役割となるのです。

これまでのマネジメント方式よりも上司と部下の距離感が近くなることから、信頼関係も深まっていくでしょう。逆に言えば、信頼関係を構築できないとピープルマネジメントは成り立ちません。

定着率の向上

ピープルマネジメントの導入によって、社員の定着率向上が期待されます。

ピープルマネジメントが実施される会社は、社員にとって自身の成長や自己実現につながる場となります。給与面よりもワークライフバランスや働き方などを重視する社員にとっても、安心して働ける環境となるでしょう。

また、上司との信頼関係が深まることによって、職場内の人間関係も良好となります。ピープルマネジメントによって得られる様々な変化が、社員の定着率向上へとつながっていくのです。

自律型人材の育成

ピープルマネジメントの推進は、自律型人材が育ちやすい環境につながります。従来の「統制」が軸にあるマネジメントとは異なり、ピープルマネジメント下では社員一人ひとりが主体的に物事を考えるからです。

上司の役割も「指示」ではなく「目標設定とフォロー」が重要になり、社員それぞれの自発性を尊重して成長を促していきます。

ただし「指示待ち型」の社員が多い組織では、ピープルマネジメントが定着するまで一時的にパフォーマンスが低下する恐れがあるので注意しましょう。

ピープルマネジメントに必要なスキル

ピープルマネジメントを実践するためには、具体的にどのようなスキルが必要になるのか解説していきます。

傾聴力

ピープルマネジメントの実践で最も大切なのは傾聴力です。相手の伝えたいことや気持ちをくみ取ることが、ピープルマネジメントの前提条件となるのです。

フィードバックスキル

傾聴によって相手の意思を汲み取ったら、改善点や評価、提案などを適切にフィードバックすることが求められます。傾聴力とフィードバックスキルを身に着けて、初めてピープルマネジメントが成り立つといえます。

なお、傾聴力とフィードバックを内包する人材育成手法として「コーチング」が挙げられます。コーチングについては「コーチング研修とは 実施する目的とその内容」で詳しく解説しています。

関連記事:「コーチング研修とは 実施する目的とその内容」

アサーティブコミュニケーション

アサーティブコミュニケーションとは、相手の意見や気持ちを尊重しつつ、自身の主張を伝える手法です。アサーティブコミュニケーションを身につけることで、傾聴力とフィードバックの質は大きく向上するでしょう。

なお、アサーティブコミュニケーションについては「アサーティブコミュニケーションとDESC法による実践」で詳しく解説しています。

関連記事:「アサーティブコミュニケーションとDESC法による実践」

ピープルマネジメントに必要な制度・取り組み

ピープルマネジメントを導入することにより、社員を管理する方法が大きく変わります。そのため、社内制度の見直しも合わせて行わなければいけません。

ここでは、ピープルマネジメントの導入・実践の際に整備しなければならない制度や取り組みについて解説します。

上司・リーダーの役割を見直す

ピープルマネジメントを実践するためには、まず社内における上司・リーダーの役割や在り方を見直す必要があります。

一口にリーダーといっても様々なタイプ・定義がありますが、ピープルマネジメントでは「コーチ型」「民主型」といった、部下(社員)を主体として考えるリーダーが求められます。強力なリーダーからの指示・命令で牽引される「専制型」や「ビジョン型」の組織体制の場合、ピープルマネジメントはうまく機能しません。

組織の成長段階によっても求められるリーダー像は異なりますので、ピープルマネジメントが自社の体制や状況と合致しているのかを含めて見直してみましょう。

1on1制度の導入

ピープルマネジメントの実践に欠かせないのが、1on1制度です。1on1とは、上司と部下で行う定期的な個人面談のことです。

1on1は上司と部下のあいだで信頼関係を構築する手段となり、部下の業務上の悩みやキャリア形成などの本音を引き出す場にもなります。「1on1制度なしにピープルマネジメントの実現はあり得ない」と言っても過言ではありません。

なお、1on1については「1on1の目的 話すべきことや効果を上げるポイントを解説」で詳しく解説しています。

関連記事:「1on1の目的 話すべきことや効果を上げるポイントを解説」

複線型人事制度の導入

複線型人事制度とは、社内に複数のキャリアコースを用意する組織体制のことです。

従来の単線型の人事管理制度は、基本的に昇進・昇格が唯一のキャリアパスとなるため、多様な働き方に合ったキャリア形成を実現できません。ピープルマネジメントで社員のキャリア観を尊重しようとしても、単線型の人事管理制度ではポジションを用意できないのです。

その点、複線型人事制度ならば、昇進よりも現場にこだわる社員や、介護や育児を優先して働きたい社員などでも、自分に合った職務・ポジションに就くことができます。

評価制度の改革・「Check-in」制度の例

ピープルマネジメントでは、社員のスキルや職位を絶対的な指標とせずに評価を行うため、人事評価制度の抜本的な改革が求められます。

ピープルマネジメントにおける評価制度として有名なのが、Adobe社の「Check-in」制度です。その特徴は「1年を通じた継続的な対話(面談)」にあります。

「Check-in」制度では、マネージャーが部下の昇給に対して予算を持っており、日々の面談(1on1)で設定する目標とその達成度合いから、部下に対して予算を報酬として分配していきます。つまり、面談によって働きぶりを定期的にチェックし、その評価が報酬に直結するのです。

ただし、この制度の運用にはフィードバックスキルやジョブアサインメントスキルが不可欠です。導入にあたっては、マネージャー(管理職)に対して研修を実施するなど、十分な準備を整える必要があるでしょう。

従業員満足度調査の実施

社員の状態や将来的な目標などは1on1を通じて掘り下げていくのが基本ですが、組織全体でのモチベーションの推移や人事施策への満足度などを可視化しておくことも大切です。そのために必要となるのが、従業員満足度調査です。

社員の満足度を定量的に扱うことで変化の推移をデータ化できるため、施策の効果なども視覚的に扱いやすくなります。また、匿名のアンケートだからこそ吐き出せる不満などもあるので、1on1を補完する意味でも効果的です。

従業員満足度調査のやり方については「従業員満足度調査とは 目的や分析方法を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「従業員満足度調査とは 調査の目的や分析方法を解説」

まとめ

雇用の流動化や働き方の多様化といった環境変化を背景として、ピープルマネジメントへの関心は年々高まっています。

一方で、ピープルマネジメントの実施には「1on1制度」や「複線型人事制度」などの導入が求められ、評価制度も抜本的に見直す必要があります。また、管理職(上司)のスキルアップも欠かせません。ピープルマネジメントの導入は、十分な準備を整えたうえで推進する必要があるのです。

ピープルマネジメントで求められる「数字力」

ピープルマネジメントの実施には、上司側のヒューマンスキルの向上が重要になると考えられがちです。しかし、目に見えない部分を尊重するからこそ、目標や改善点などは定量化して示してあげることが重要になります。

例えば、1on1でキャリア形成や業務における目標を設定する際も、「データや数字に基づいた根拠」を提示できれば、「確かにこの目標なら成長できそうだ」と納得感が高まります。

ピープルマネジメントでは「数字から離れることが正解」と考える人が多いですが、むしろ誤解なく意思疎通を行うために数字を用いたコミュニケーションが鍵となるのです。そこで求められるのが「数字力」です。

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