リテンションマネジメントとは メリットや取り組み事例を解説
リテンションマネジメントとは、人材流出を防ぐための管理手法のことです。離職防止のために社員の不満や組織の課題を解消していくことで、生産性向上やブランディング効果といったメリットも期待されます。
今回は、リテンションマネジメントの重要性が増す背景や導入の流れ、取り組み事例について解説していきます。
リテンションマネジメントとは
リテンションマネジメントとは、人材流出を防ぐための管理手法です。
離職を防止するためには、社員が長く活躍できる環境・制度を整えていく必要があります。そのため、リテンションマネジメントの具体的な取り組みとしては、人事評価や人材育成制度の整備、社内コミュニケーションの改善など多岐にわたります。
リテンションマネジメントの重要性が増す背景
リテンションマネジメントの重要性が増す主たる背景として、少子高齢化による人手不足が挙げられます。
帝国データバンクが2023年4月に全国約2万7000社を対象に実施した調査では、正社員が「不足」と感じている企業は51.4%に上っており、4月としては過去最高の数値となっています。
例年4月は新卒社員が入社するタイミングであり、人手不足感は低下する傾向にあります。しかし、コロナ禍で低迷していた需要が回復し始めていることで、人手不足が加速する状況に陥っていると見られています。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」
少子高齢化によって生産年齢人口は減少の一途を辿っており、こうした「売り手市場」傾向はさらに深刻化していくことが予想されます。企業は今後も「採用は難しく、人材は流出しやすい」という課題に向き合わなければならず、リテンションマネジメントによる対策が必須となっているのです。
リテンションマネジメントに取り組むメリット
リテンションマネジメントに取り組むことで、どのようなメリットが得られるのか解説します。
組織全体での生産性向上
リテンションマネジメントに取り組むことで、組織全体での生産性の維持・向上につながります。社員が長く就業すれば、そのぶん業務に関する知識・スキルも成熟していき、生産性が向上していくからです。
またリテンションマネジメントによって、離職による事業計画の遅延を防ぐことにも重要な意味があります。離職者が多い職場では、業務の引き継ぎにかかる手間や、人手不足による社員への過度な負担などから、生産性が低下しがちになるためです。
採用・育成コストを抑える
社員が離職すると、新たな人材を雇うための採用コストと、一人前にするための育成コストが発生します。リテンションマネジメントに取り組むことで、これらコスト増を防ぐメリットがあります。
とくに早期離職は業務上の成果が得られないことがほとんどですので、費やした採用・育成コストが水の泡となってしまいます。こうした損失を防ぐためにも、リテンションマネジメントが重要となるわけです。
企業ブランディングにつながる
リテンションマネジメントによって離職率が低下すれば、「社員の定着率が高い」という企業ブランディングになります。
社員が長く働ける環境が整い、それを数値としてアピールできれば、「腰を据えて長く働きたい」「ホワイトな環境で働きたい」といった希望を持つ人材が集まってきます。
ブランディング効果が高まっていけば、採用面でも有利に働き、投資家などから評価も高まることが期待できるでしょう。
リテンションマネジメント導入の流れ
リテンションマネジメントを導入する際の流れについて解説していきます。
現状把握
リテンションマネジメントの導入時にまず行うべきなのが、現状把握です。現状把握の方法としては、社内アンケートや1on1などが一般的です。社員が不満を感じている点や離職理由などをデータとして収集していくとよいでしょう。
このとき、社員が何を求めているかを深掘りするために、人事部内でマーケティング思考を取り入れることをおすすめします。人事領域でのマーケティングについては「採用と組織力向上に欠かせない人事におけるマーケティング」で詳しく解説しています。
関連記事:「採用と組織力向上に欠かせない人事におけるマーケティング」
また、すでに社員の離職が深刻な課題となっている場合は、離職を申し出た社員から離職理由を集める取り組みも必要となります。何が離職の決め手になってしまったのかは、改善策を講じるうえで重要な情報となります。
会社に不満を感じている人ほど本音を話してくれませんが、何とか面談などを通して汲み取っていきましょう。
データの分析
1on1による聞き取りやアンケートを行ったら、データを集計・分析して、課題を可視化しましょう。
とくに「仕事のやりがい」「評価制度・福利厚生への満足度」「社内の人間関係」など、離職につながりやすい要素について、社員が不満を抱えていないか洗い出すことが大切です。
人事データの分析については「人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説
なお、収集するデータは匿名でも問題ありません。リテンションマネジメントは個人の離職を引き留めるための取り組みではなく、あくまでも組織全体での離職を防止するための管理手法だからです。
改善策の検討と社内周知
課題が浮き彫りになったら改善策を検討し、社内周知を行いましょう。会社に対して不満を感じている社員も、具体的な改善策が提示されればエンゲージメントが向上していくことが期待されます。
ただ、課題の内容によっては、短期間で結果が出ないこともあるでしょう。進捗に関する社内周知は定期的に行い、かたちだけの取り組みではないことを示していくことも大切です。
リテンションマネジメントの取り組み事例
成果につながるリテンションマネジメントを行うためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。3つの事例から解説していきます。
人間関係の構築を促進する取り組み
人間関係は主要な離職理由のひとつであり、リテンションマネジメントによって真っ先に改善を図るべき要素といえるでしょう。
厚生労働省の調査によれば、「転職入職者が前職を辞めた個人的理由」として「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位を占めています。
※「その他の個人的理由」を除き、男性では最も多い退職理由、女性では2番目に多い退職理由
参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」
人間関係の構築を促進する方法としておすすめなのが、集合研修の実施です。研修は本来、人材育成を目的として行うものですが、集合研修には社内の「横」の人間関係を構築する効果もあります。
研修を通じて、普段は顔を合わせない他部署の社員との交流が生まれれば、社内のコミュニケーションが活性化するきっかけとなります。同じ部署内では話しにくいことを相談する良い機会にもなるでしょう。
また「内定者研修」や「新入社員研修」は、同期の連帯感を高めるきっかけとなります。こうした「横」のつながりは離職を思いとどまらせる重要な要素となるため、積極的に実施を検討していきましょう。
研修については「社員研修とは 実施する目的とその方法」でも詳しく解説しています。
関連記事:「社員研修とは 実施する目的とその方法」
多様な働き方を認めるキャリアパス制度
アフターコロナのリテンションマネジメントとして重要になるのが、キャリアパス制度の整備でしょう。
コロナ禍をきっかけとしてリモートワークが普及したことにより、働き方の多様化は一気に進みました。今や昇進を目指すだけのキャリアパスを提示するだけでは、社員の心を掴むのは難しい状況にあります。
実際に、管理職を避ける傾向が高まっていることが各種調査で判明しつつあります。株式会社識学が2023年に実施した調査によれば、現在管理職ではない男女の72%が「管理職になりたいとは思わない」と回答しています。
参考:株式会社識学「管理職に関する調査」
また、株式会社ビズヒッツが2022年に「管理職になりたくない人」を対象に行った調査では、管理職への昇進を打診された場合、60.6%が「断る」、5.2%が「退職・転職を検討する」と回答しています。
参考:株式会社ビズヒッツ「管理職になりたくない理由に関する意識調査」
社員が納得して目標となる職務を目指せるよう、多様な働き方を認めるキャリアパス制度が求められているといえるでしょう。
なお、キャリアパス制度については「キャリアパス制度とは メリットや導入の流れを解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「キャリアパス制度とは メリットや導入の流れを解説」
評価の透明化
リテンションマネジメントでは、正当に社員を評価する仕組みを整えることも重要です。
「人より努力しているのに認められない」「働きに対して給与が低い」といった悩みは、同業他社へ転職する強い動機となります。とくに評価の透明性が低く、管理職の主観によって評価が左右される環境では、社員の満足度は大きく低下します。
評価の透明化にあたっては、KPIマネジメントを導入して、日々の業務の目標や評価基準を明確にしておくといった取り組みが求められるでしょう。なお、KPIマネジメントについては「KPIマネジメントとは メリットや導入の流れを解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「KPIマネジメントとは メリットや導入の流れを解説」
まとめ
少子高齢化による生産年齢人口の減少を背景として、人材の流動化や採用難が進み、リテンションマネジメントの重要性が高まっています。
ただ、リテンションマネジメントの効果は離職防止のみではありません。社員が働きやすい環境を整えることで、組織全体での生産性向上やブランディング効果といったメリットをもたらします。
まずは社内の現状を把握し、データなどの根拠をもとにして社内の課題を洗い出しましょう。そのうえで改善策を検討し、効果的な取り組みを推進していく必要があります。
データ分析の前に「数字力」の向上を
リテンションマネジメントの推進には、離職者の属性や離職理由、会社への満足度といったデータの収集・分析が欠かせません。
しかし人事担当者のなかには、データ分析の経験以前に「数字に対する苦手意識」を持つ方が少なからずいます。数字に対する苦手意識を持ったまま統計研修などの専門的な研修を実施しても、成果は上がりません。
まずはそれぞれのレベルに合わせて数字の扱い方を学んでいき、データ分析に慣れていくことが大切です。
弊社オルデナール・コンサルティングが提供する「数的センス向上トレーニング」では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。
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