人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説

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人事データ分析は、勤怠情報や人事評価といったHRデータを収集・分析することです。データ分析はツールやデバイスの進化によって身近になっており、社員の定着率向上や組織改革の推進など様々な目的のもとに推進されています。

今回は人事データ分析の進め方から事例の紹介まで、人事データ分析を突然任された人事担当者にもわかりやすいよう解説していきます。

人事データ分析とは

人事データ分析とは、社員の勤怠情報や人事評価、健康情報といった様々なHRデータを収集・分析することです。人材分析や労働力分析、ピープルアナリティクスと呼ばれることもあります。

人事データを分析することにより、効果的な人材育成や効率的な配置など多種多様な成果が期待されます。こうした分析は以前までは専門業者に委託する必要があり、実施のハードルが高い取り組みでした。しかし、近年のテクノロジー進化によってデータの収集・蓄積・解析にまつわるツールが身近となり、急速に関心が高まっています。

人事データ分析が注目される背景

なぜ近年になって人事データ分析が注目され、必要とされているのでしょうか。その背景を解説していきます。

生産年齢人口の減少と採用難

人事データ分析が必要とされる主な背景として、生産年齢人口の減少と採用難が挙げられます。少子高齢化によって生産年齢人口は減少の一途を辿っており、それに伴って人材確保(採用競争)も厳しくなっています。

人材の獲得が難しいのであれば、社員一人ひとりの生産性を向上させるしかありません。そこで、人事データ分析による適材適所の人材配置や、社員のパフォーマンス向上などが求められているわけです。

さらに近年ではもう一歩踏み込んで、人事部が経営層・現場責任者のパートナーとして業績向上や経営戦略に深く関わる「戦略人事」も注目されています。これにより、人事データ分析の重要性はさらに高まっていくでしょう。

なお、戦略人事については「戦略人事とは 柱となる3ピラーモデルや企業の事例を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「戦略人事とは 柱となる3ピラーモデルや企業の事例を解説」

テクノロジーの発展

テクノロジーの発展によってデータの収集・解析が身近になったことは、人事データ分析への関心が高まる直接的な要因といえるでしょう。

デバイスのスペックは一般企業でも膨大な情報量を処理できるほど向上し、データを処理する自動化ツールも簡単に入手できるようになりました。以前であれば専門の業者でなければ行えなかったデータの収集・分析も、現在は社内で完結できるわけです。今後はAIを活用した解析も進み、データ分析はさらに身近になっていくでしょう。

人事データ分析によって得られる効果・メリット

人事データ分析は何を分析対象とするかによって、得られる成果が全く異なります。とはいえ、具体的なメリットがわからなければ、会社全体で人事データ分析を推進することも難しいでしょう。ここでは、人事データ分析によって得られる効果・メリットについて解説していきます。

社員の定着率の向上(離職防止)

人事データ分析は、社員の定着率の向上(離職防止)に関する取り組みを検討するのに効果的です。

終身雇用制度の崩壊や「売り手市場」などを背景として、転職は身近な選択肢となっており、企業としては社員の定着率向上(離職防止)への取り組みが不可欠となっています。そこで求められるのが、人事データ分析です。

離職者の属性(年齢層・職種)や離職理由、社内制度への満足度など様々なデータを収集・分析することで、社員の定着率の向上につながる施策が見えてきます。

社員の生産性向上

人事データ分析の目的として一般的なのが、社員の生産性向上です。データ分析によって従業員満足度の向上や適材適所の配置を推進し、社員のモチベーションを上げることで、生産性向上へとつなげていきます。

収集するデータは福利厚生や業務内容、人間関係などに対する満足度が中心となります。これらの分析は「社員の定着率向上」と重なる部分が多いため、並行して分析するとよいでしょう。

組織改革の推進

人事データ分析を行うことにより、組織改革の方向性が明確となります。例えば、データ分析により「離職理由と評価制度・福利厚生への不満の相関関係」が明らかとなれば、社内体制の具体的な改善策が定まるはずです。

また、社員の年齢層や勤続年数などから将来的な人員構成を予測することで、採用計画の策定を明確な根拠のもとで推進できるようになるでしょう。

人事データ分析の進め方

人事データ分析は具体的にどのように進めていけばよいのか、流れに沿って解説していきます。

仮説設定

データ分析にあたって最初に行うべきなのは、仮説設定です。仮説設定は「分析を行う目的」を明確にする作業であり、データ分析の土台となります。

まずは、自社が抱えている課題とその対応策について、いくつか仮説を立ててみるとよいでしょう。例えば「ここ数年、離職者が増えている」という課題があったとします。これを防ぐために「給与に不満がある?」「自社でのキャリアパスを描けていない?」といった仮説を立てていきます。

データ分析ではこの仮説に沿って、収集するデータを見極め、分析手法を決定していくことになります。

データ収集

次に、設定した仮説を証明するためにデータを収集していきます。先ほど例に挙げた「社員の離職」であれば、離職者の所属部署や年齢層、離職理由などのデータが必要となります。

ここで重要になるのは、収集するデータを先入観で限定しないことです。「自社は風通しが良く、人間関係は良好だ」と思いこみ、人間関係にまつわるデータを集めないといった偏りが生じると、正しい分析が行えません。どのデータが重要になるかは、分析するまでわからないと肝に銘じておきましょう。

なお、データ収集の方法としてはアンケートが一般的です。アンケートの作り方については「アンケートの設問の作り方と回答率を上げるコツ」で詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。

関連記事:「アンケートの設問の作り方と回答率を上げるコツ」

データ分析と仮説の照合

データ収集が完了したら、いよいよ分析です。分析は仮説に照らし合わせて進めていきますが、ポイントは「仮説に固執しないこと」です。分析結果が仮説と異なることは多々あります。データ分析に慣れていない人は、仮説の間違いよりもデータを疑ってしまいがちですが、数値は嘘をつきません。

仮説と異なる結果が出た場合は、もう一度考察を行い、改めて施策を検討していきましょう。また、新たな仮説設定でデータ不足を感じたら、データ収集からやり直す根気も大切です。

データ分析は手間と時間がかかりますが、正確な分析結果が得られれば自社のノウハウとして残っていくので、丁寧に進めていきましょう。

データベース化による管理

収集したデータは、データベース化して管理することをおすすめします。データは期間や属性が幅広くなるほど、詳細な傾向を分析できるようになります。また、別の課題を解決するにあたって、蓄積したデータが役立つこともあります。

人事データ分析の目標とポイント

人事担当者の多くはデータ分析の経験もなく、「何を目標にして分析に取り組めばよいのかわからない」と戸惑うのではないでしょうか。ここでは、人事データの分析の方向性とそのポイントについて解説していきます。

コンピテンシーモデルの確立

人事データ分析の方向性のひとつとして、人事評価からコンピテンシーモデルを確立することが挙げられます。

コンピテンシーモデルとは、高い成果を上げている社員(ハイパフォーマー)の行動や思考の特性をまとめ、目標とすべき社員像として設定する手法です。

簡単に言えば、優秀な人材が日々どんなことをしているかを解明して、他の社員にも真似をしてもらうことで、組織全体のパフォーマンスを向上するという試みです。

健康経営の推進

健康経営の推進も、人事データ分析と親和性の高い取り組みです。勤怠や残業時間、健康診断結果といったデータを収集・分析していくことで、社員の健康を管理しつつ、健康投資の方向性を定めることができます。

健康経営と人事データ分析については、丸井グループで先進的な取り組みが行われています。丸井グループは、2014年より従業員約6,000人の健康診断のデータを分析し、「仕事への取り組み姿勢」とクロス分析を行って、健康と仕事を結びつけています。

参考:「データ解析を通じて「健康経営」を推進する」

人員構成と潜在的なリスク

人員構成にまつわるデータを分析することで潜在的なリスクを割り出し、採用・育成計画を精査していくことも重要な取り組みとなります。

社員の年齢や勤続年数、性別、退職率など様々なデータを分析していくことで、「中堅層の空洞化リスク」「数年後のリーダー候補の不在」など、自社が潜在的に抱えているリスクが見えてきます。

データ分析を通じて将来的に訪れる課題が判明すれば、人材育成や採用計画の方向性も明確になるでしょう。

人事データ分析を推進する企業の事例

人事データ分析を推進する企業の事例として、「Digital HR Competition 2023 ピープルアナリティクス部門」でファイナリストとなったパーソルキャリアと、グランプリを獲得したデンソーの事例を紹介します。

パーソルキャリア株式会社

総合人材サービスを手がけるパーソルキャリア株式会社では、年間で約900時間も費やしていた人事データの集計作業を解消するため、人事データ基盤構築プロジェクトを推進しました。

手作業で集計していた、グループ各社を含めた社員6万人分の人事関連データをSaaS製品を活用してデジタル化。グループ各社間でもデータの即時共有が実現され、データを用いた意志決定を行える環境が整いました。

このプロジェクトで特徴的なのは「低予算かつ少人数」でスタートしたことで、知見やスキルも少なかったことから、SaaS製品を導入することで課題解決につなげたそうです。パーソルキャリアが実現したスモールスタートからの成功事例は、多くの企業にとっても参考となるでしょう。

株式会社デンソー

国内最大手の自動車部品メーカーである株式会社デンソーは、2021年に「人と組織のビジョン&アクションPROGRESS」を策定し、人事改革を推進しています。この改革では、専門のデータ分析チームが横断的に人事施策の管理をしており、成果を上げています。

代表的な取り組みとしては、「面談制度の改革」と「若手社員向けのキャリアデザイン研修」が挙げられます。

・面談制度の改革

全社員を対象としたエンゲージメントサーベイから、仕事のやりがいに影響する要因として「仕事を通じた成長実感」と「業務での強み・経験の活用」を発見。これらを向上させるための取り組みとして、「面談制度の改革」が進められています。

改革の大きなポイントは「面談準備として、全管理職を対象とした研修の実施」と「面談後の社員アンケートと上司へのフィードバック」の2つで、満足度の高かった面談の成功例や社員が感じたギャップなどをデータとして共有することで、改善に結びつけています。

これらの取り組みにより、部下の面談に対する満足度や挑戦意欲などの指標が向上し続けているそうです。

・若手社員向けのキャリアデザイン研修

キャリアデザイン研修は社員の自律的キャリア実現を目的とした取り組みで、キャリアサーベイの回答に応じて、それぞれのキャリア実現を目指すために必要なアクションが提案されています。

この取り組みのポイントは、「全社員を対象としたキャリア意識調査と構造方程式モデルによる分析」「研修参加者へのクラスター分析」「生成AIを活用したアクションの提案」などが行われていることで、これらの施策により短時間のうちにクラスターごとの特徴を踏まえた提案を行うことができているそうです。

人事データ分析は「数字力」を鍛えてから取り組もう

現在、多くの企業が人事データ分析に注力しようとしていますが、人事担当者のなかには数字に対する苦手意識を持つ方も少なくありません。数字に苦手意識がある状態で統計研修やDX研修を行っても成果は上がらず、それどころか難解な内容を前にして、ますます数字やデータに対する拒絶反応を強めてしまいます。

いきなり専門的な研修を実施しても、データ分析は思うように進みません。まずは、担当者のレベルに合わせて数字やデータの扱いを学んでいき、少しずつデータ分析に慣れていくことが大切なのです。

弊社オルデナール・コンサルティングが提供する「数的センス向上トレーニング」では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。

「人事データ分析に取り組みたいけれど、何から学べば良いかわからない」「データ分析にまつわる研修で成果が上がらない」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご活用ください。

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