戦略人事とは 柱となる3ピラーモデルや企業の事例を解説

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戦略人事は経営目標と人事戦略を連動させて、競争優位や人的資源の最大化を目指す取り組みです。業績向上や経営戦略に深く関わることから担当者に求められる要件も厳しく、推進には課題も付きまといます。

今回は戦略人事に欠かせない「3ピラーモデル」や推進のためのポイント、実際の企業の事例を交えて解説していきます。

戦略人事とは

戦略人事とは、経営目標と人事戦略(施策)を連動させて、競争優位や人的資源の最大化を目指す取り組みです。1990年代にミシガン大学教授で経済学者であるデイビット・ウルリッチによって提唱されました。

従来の人事部は管理業務を中心に担ってきましたが、戦略人事では「経営層・現場責任者のパートナー」として業績向上や経営戦略に深く関わっていきます。これを経営学では「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management)」といい、「戦略人事」の語源になったと考えられています。

戦略人事に欠かせない「3ピラーモデル」

3ピラーモデルは、戦略人事を実現させるために必要な3つの柱を示すもので、デイビット・ウルリッチの著書『MBAの人材戦略』のなかで提唱されています。ここでは、それぞれの役割について解説していきます。

HRビジネスパートナー(HRBP)

HRビジネスパートナー(HRBP:Human Resource Business Partner)は、経営者や現場責任者のパートナーとして、組織(事業)の成長をマネジメントしていく「戦略人事のプロフェッショナル」を指します。具体的には、人材戦略の立案や採用・育成方針の策定、事業リスク分析など、多岐にわたる業務を担います。

戦略人事を推進するためには、経営層の視点に立ちつつ、現場のニーズや課題を解決していく必要があります。つまり人事施策のプロでありながら、経営的な視点を有しているHRBPの存在が必要不可欠なのです。

HRBPの資質を有する人材は貴重であり、人事部に在籍している社員を任命してもうまく機能するとは限りません。場合によっては他部署の社員を登用し、人事部門の知識・経験を身につけてもらい、HRBPとして任命することも視野にいれましょう。

CoE

CoE(Center of Excellence)は、評価制度の構築や研修プログラムの策定、DX推進のロードマップ作成といった人事施策を担う専門家集団を指し、経営的な視点を持って人事制度を整備・開発する役割を担います。

人事にまつわるKPI設定や評価・研修制度の整備、人材管理システムの構築といった業務を推進することから、戦略的思考やデータ分析力などが求められます。「社内のコンサルタント」と表現してもよいかもしれません。

HRSS

HRSS(Human Resource Shared Service)は、給与計算や勤怠管理、福利厚生といった、人事にまつわる定型的な管理業務を専門に扱います。オペレーション・エクセレンスと呼ばれることもあります。

人事が経営戦略に貢献するといっても、会社という組織が運営される以上、人事部門の管理業務は発生します。こうした業務を効率化していくことも戦略人事の実現には欠かせないのです。

戦略人事を担う人材に必要な要件

戦略人事を担う人材には、具体的にどのような能力や資質が求められるのでしょうか。戦略人事を担う際に必要な要件について、解説していきます。

経営的視座

戦略人事を推進するためには、経営層のパートナーとして「経営的な視座」から物事を考えなければいけません。

採用活動や人材育成の計画を考える際も、経営戦略や事業の方向性に基づいた立案が求められます。

人事分野の知識・経験

戦略人事の担当者には経営的な視点を持つことが重要視されますが、実際に取り組む課題は採用や人材育成、人員配置といった人事領域の業務です。

経営目標や現場の課題解決などを実現するためには、前提として人事分野のプロとしての知識・経験が求められるのです。

なお、人事に求められる役割や必要なスキルについては「人事に必要な7つのスキル 求められる業務と役割」で詳しく解説しています。

関連記事:「人事に必要な7つのスキル 求められる業務と役割」

コミュニケーション能力

戦略人事を実行するために欠かせないのが、コミュニケーション能力です。経営層の要望を汲み取ったり、各事業部との連携を図ったりと、戦略人事のスタートはコミュニケーションから始まります。

経営者と現場どちらかに肩入れし過ぎることなく、目標達成に向けて双方の要望に応えていくバランス感覚も求められます。

なお、ビジネスで求められるコミュニケーションとその向上については「コミュニケーション研修とは 実施目的とその内容」でも解説しております。

関連記事:コミュニケーション研修とは 実施目的とその内容

リーダーシップ

ここでいうリーダーシップは、周囲を巻き込んで目標達成に向かえる資質であり、主体性や積極性などを指します。

人事というと「縁の下の力持ち」や黒子の役割がイメージされやすく、リーダーと対極に受け取られがちです。しかし戦略人事においては、リーダーシップを持ち、計画をやりぬく力が求められるのです。

「理念」を第一に考える

戦略人事を担う人材はマインド面も大切で、「理念」を第一に考えることが求められます。

施策を検討する際、方法論や戦略にばかり捕らわれてしまい、本来の理念(マインド)から離れてしまうことがあります。戦略人事を担うためには、常に会社(経営者)の理念に立ち返り、施策の検討を行える人材である必要があります。

戦略人事の課題・難しさ

ここでは、戦略人事を推進するうえで課題となり、実現を困難にする要因について解説していきます。

リソースの問題

戦略人事の課題として真っ先に挙がるのが、リソースの問題です。戦略人事を推進することにより、今まで社内になかった業務が一気に増加します。従来の管理業務をこなすだけの人員だけでは、リソースが全く足らない状況に陥ってしまうでしょう。

現在の人的資源を最大化するために戦略人事を推進したいのに、新たに優秀な人材を獲得しないと戦略人事を進められないという袋小路に入り込む企業が多いのが現状です。

当事者意識が芽生えない

戦略人事を担うべき人事部に、当事者意識が芽生えないことも課題になりがちです。「戦略人事を担う人材に必要な要件」でもマインド面の必要性を解説しましたが、こうした意識を芽生えさせるのは簡単なことではありません。

実際に人事として働いている人からすれば、戦略人事で求められる業務内容は「こんな仕事をするとは聞いていない」と感じるほど、全く異なるものです。いくら経営層が戦略人事を担えるパートナーの役割を求めても、当事者にその意欲がなければ任せられないでしょう。

経営者が意見を聞き入れない

戦略人事を推進する際に課題となりやすいのが、経営者が意見を聞き入れない「ワンマン経営」の企業体質です。カリスマ性を持ち、社員を引っ張っていくリーダーは企業の成長に大きく寄与します。

ただ、戦略人事においては、聞く耳を持たない経営者だと推進が困難となります。このような状況の場合、経営層と人事部が意志疎通を行える環境作りが優先されます。

戦略人事を推進する際の3つのポイント

ここからは、実際に戦略人事を推進する際のポイントをお伝えしていきます。

戦略人事における成果(目標値)を定める

まず行うべきなのが、戦略人事における成果(目標値)を定めることです。戦略人事はスローガンのように扱われるばかりで、具体性の乏しい言葉になっている側面があります。戦略人事の推進にあたっては、「何を、どの程度達成すれば成果とするか」を明確にしておきましょう。

例えば、経営層が掲げる目標に対して、目標達成に必要な能力やアクションなどを明文化し、それらの基準を満たす人材の採用または育成を目指していくことが挙げられます。成果(目標値)としては、採用人数の充足率などを設定してみるとよいでしょう。

各事業部の計画を理解しておく

戦略人事を推進するためには、人事部が各事業部の計画を理解しておく必要があります。そのうえで、採用活動や人材育成の計画を具体化していきましょう。

このとき、各事業部の計画と経営層が掲げる方針にズレがないかを検証できると、経営層・現場のパートナーとしての存在感が増していきます。おおよそでも財務諸表が読めると、さらに経営層目線で各事業部の計画を検証することができるでしょう。

弊社では「”ざっくり”学ぶ財務諸表」と題して、実践で役立つ会社数字の扱い方を学ぶ研修プログラムをご提供しておりますので、ぜひご検討ください。

研修紹介動画:「”ざっくり”学ぶ財務諸表」

外部の知見を取り入れる

戦略人事の推進する際は、外部の知見を取り入れることも必要となります。

戦略人事で行う業務は専門的な内容も多く、これまでの人事部での経験とは異なる分野も扱わなくてはいけません。無理に専門外の分野の仕事をこなそうとしても、かえって現場の混乱を招いてしまうでしょう。

「研修によってスキルアップを図る」「コンサルタントへ相談する」といった具合に、外部の知見を活用することも選択肢に加えておくべきです。

戦略人事を推進する企業の事例

「戦略人事といっても、具体的にどのような施策を立案すべきかわからない」と悩む担当者も多いことでしょう。ここでは、実際に戦略人事を推進する企業の事例を紹介していきます。

丸紅株式会社

丸紅株式会社は2018年に史上最高益を更新した一方で、「人財×仕掛け×時間」をコンセプトとした様々な施策を導入し、戦略人事を推進しました。2019年からは、さらに抜本的な人事制度改革である「GC2021」をスタートしています。

この人事制度改革の土台には「コアとなる概念」として、「実力本位」「チャレンジ」「現場」「オーナーシップ」「オープンコミュニティ」の5項目が掲げられており、施策を立案する際は必ずこの概念に立ち戻るそうです。

実際の施策は従業員目線に立って「処遇」「タレントマネジメント」「働く環境」の3分野にカテゴライズされており、具体的に以下のような取り組みが進められています。

【処遇】

・ミッションレーティング

組織の戦略と個人の特性を考慮して、1年ごとに個人の役割を決める制度。役割に応じて、その年の報酬などが決まる。

・貢献度加算

ボーナスを原資分配型とする仕組み。従業員の役割と成果に対して、管理職が割り当てられた原資から報酬として分配する。

【タレントマネジメント】

・総合職掌 エリア限定コース

「転勤のない総合職」を新たに設置する取り組み。従来、総合職は海外転勤があることを前提としてきたが、優秀な一般職が総合職への配置転換を目指す際に海外転勤がネックとなっていた。

・Career Vision採用

新卒・若年層を対象としたジョブ型採用。「どこに配属されるかわからない」という理由で敬遠されていた背景から、配属先を限定した採用を導入した。

【働く環境】

・フレックスタイム制度の柔軟化

フレックスタイム制度で設定されるコアタイムを選択制とした。

NECソリューションイノベータ

NECソリューションイノベータは、2021年に「NECソリューションイノベータ 2030ビジョン」を策定後、「HR戦略室」を新設し、IT人材不足の課題に取り組んでいます。

HR戦略室は、リソース戦略の立案・実行を担う「マネジメントグループ」、外部からの人材獲得を担う「タレントアクイジショングループ」、新卒採用を担当する「リクルーティンググループ」、既存の人材の成長させる「タレントデベロップメントグループ」で構成され、経営・組織マネジメント・従業員の3つの視点で満足度の高い取り組みを目指しています。

・強化領域人材育成プログラム

AIやセキュリティといった11カテゴリを強化領域とし、中長期的な研修と実務経験を踏まえて、「強化領域アドバンス認定者」としてスペシャリスト認定を行う。また、認定者をデータベースで管理し、該当する領域へ割り当てるというタレントマネジメントシステムも同時に推進する。

・「私のキャリア」

タレントマネジメントシステムに実装されている仕組みで、データベースに登録されている自分の情報を確認できる。これによりキャリア自律を促進し、1on1時のキャリアプランの設定や教育プログラムの選択時などに役立てることができる。

まとめ

戦略人事は「経営層のパートナー」として、業績向上や経営戦略に深く関わります。そのため、戦略人事を担う人材には、経営的視座や理念を第一に考えるマインドなど、これまでの人事部とは異なる要件が求められます。

管理業務が中心だった従来の人事とは大きく役割も異なるため、リソースや当事者意識などが課題として挙がりがちです。戦略人事を推進する際には、しっかりと成果(目標値)を定めて、ときには外部の知見を頼ることも選択肢に加えて取り組むことがポイントとなります。

戦略人事に不可欠な「数字力」

戦略人事を推進するためには、経営者の視座を持たなければいけません。では、経営者の視座を得るために何を学べばよいかというと、ずばり「数字力」です。

会社の経営状況は、損益やキャッシュフロー、取引先への依存度といった様々な「数字」で表れます。こうした数字から正確に会社の現状や経営課題を読み取り、具体的なアクションへ移していくには「数字力」が必要不可欠なのです。

弊社がご提供する「数的センス向上トレーニング」は、「数字を用いた意思決定」の取得を目指して、実務で活きる数字力向上に特化したプログラムとなっております。

またご要望に合わせて、財務諸表の読み方や、数字を根拠とした提案・コミュニケーションなど、戦略人事に欠かせない「数字力」を身につける研修プログラムもご提案できます。 「戦略人事の推進がうまくいかない」「戦略人事を任せられる人材を育てたい」といった課題にお悩みであれば、ぜひ弊社の研修プログラムをご利用ください。

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