採用と組織力向上に欠かせない人事におけるマーケティング

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人事におけるマーケティングとは、社内外の人材が何を求めているかを把握し、ニーズに合わせた社内制度を作って、人材へ届けていく一連の取り組みを指します。価値観・働き方の多様化を受けて、人事マーケティングは組織力の向上や採用活動に欠かせないものとなっています。

今回は人事におけるマーケティングとは何かを解説したうえで、活用できるマーケティング理論や求められるスキルなどをお伝えしていきます。

人事におけるマーケティングとは

近年、人事部門にはマーケティング発想(マーケティング視点)が求められています。

そもそもマーケティングとは、「製品やサービスを消費者に向けて流通させるための様々な活動」といった意味を持ちます。消費者が何を求めているかを調査し、ニーズに合わせた製品・サービスを作り、販売促進を行いつつ適切な販売経路で販売する……この一連の流れ全てがマーケティングを指します。

これを人事部門に当てはめると、「消費者」にあたる部分は自社の社員や求職者といった「人材」になります。つまり人事におけるマーケティングは、「社内外の人材が何を求めているかを把握し、ニーズに合わせた社内制度を作り、人材へ届けていくこと」といえるでしょう。

マーケティングの対象は社員と採用ターゲット

人事におけるマーケティングの対象は、大きく2つに分けられます。

ひとつ目の対象は、自社の社員です。組織力の向上を目的として、パフォーマンス向上や離職率低下などに取り組みます。もうひとつの対象は、学生や転職希望者などの採用ターゲットです。人材の獲得を目的として、採用活動のなかでマーケティングを活用します。

対象こそ異なりますが、2つのマーケティングは重複する部分が多い取り組みとなります。社員が働き続けたいと思う環境は、求職者が入社してみたいと思う環境でもあるからです。

マーケティングの目的は「組織の利益」

人事におけるマーケティングでは、ビジネスパーソンのニーズに合わせて何を提供するか考え、ルールや仕組みを作り上げていくことが基本となります。

ただし、ニーズに合わせた新しい研修制度を導入しても、その時点ではまだ成果とはいえません。社員が研修制度を活用することでスキルアップや生産性の向上を達成し、組織の利益につながって初めて目的を達成したといえるのです。

人材へ情報を伝えるまでがマーケティング

人事におけるマーケティングでとくに移り変わりが激しいのが、人材へ情報を伝える方法です。これはマーケティングにおける「販売経路」にあたる部分と考えてよいでしょう。

とくに採用活動におけるマーケティングでは、求職者に情報を届けることが重要になります。魅力的な社内環境を作り上げたとしても、それが求職者に伝わらなければ応募にはつながらないからです。

SNSひとつをとってもトレンドは目まぐるしく移り変わるため、どの媒体で、どのように表現するかまで検討するのが採用マーケティングの難しい部分です。

人事にマーケティングが求められる背景

人事にマーケティングが求められるようになった最大の背景は、価値観・働き方の多様化です。

終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムが主流だった時代、人事の役割は労務管理が中心でした。社員が流出するリスクは少なく、採用活動も「買い手市場」で企業優位だったため、人材のニーズを細かく把握する必要はありませんでした。

しかし、終身雇用制度が崩壊し、価値観や働き方が多様化した現在ではそうはいきません。画一的な社内制度では、社員はより良い環境を求めて流出してしまいます。新たに人材を獲得しようにも、少子高齢化を背景とした「売り手市場」のなかでは、求職者から選ばれるだけの強い魅力が必要となります。

社員を引き留めつつ新たに人材を獲得するためには、働き手の気持ちを掴むためのマーケティング思考が欠かせないのです。

人事で活用できるマーケティング理論

多くの人事担当者はマーケティング経験を持たず、何から手をつければよいかもわからないのではないでしょうか。ここでは、人事マーケティングを行ううえで役立つマーケティング理論を解説していきます。

5A理論

5A理論は、アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した理論です。コトラーは「近代マーケティングの神様」と呼ばれる人物であり、5A理論ではSNS時代にあったカスタマージャーニーを示しています。

5A理論はとくに採用におけるマーケティングとよくマッチします。求職者と消費者を重ねて考えることで、より適切な採用計画を練ることができるでしょう。

5A理論では、購買プロセスとして以下の5つの段階があるとしています。

・Aware(認知)

Awareは知人から話を聞いたり、広告を見たりすることによって、商品・サービスの存在を知った状態です。採用活動においても、まずは自社を認知してもらう取り組みが欠かせません。

・Appeal(訴求)

Appealは商品・サービスを記憶し、自身に必要なものか考える状態を指します。採用活動においては、自社のことを記憶に留めてもらい、応募を検討してもらう段階といえるでしょう。

・Ask(調査)

Askは商品・サービスに魅力を感じ、インターネットや友人などから情報収集を行い、類似品との比較を始める状態です。採用活動においては、口コミサイトなどに気を配りつつ、同業他社との差別化を明確に打ち出して応募を促す段階です。

・Act(行動)

Actは実際に商品・サービスを活用する状態です。採用活動においては、選考段階での取り組みにあたるでしょう。候補者の入社意欲が高まるような面接官のスキルアップなどが求められます。

・Advocate(奨励)

Advocateは商品・サービスを利用したことによってファンとなり、自発的に周囲やSNSなどで宣伝してくれる状態です。採用活動においては、最終的に候補者をAdvocateの段階へ持っていき、内定辞退を防ぐことが重要になります。

3C分析

3C分析は、元マッキンゼー・アンド・カンパニーの大前研一が『ストラテジック・マインド』で提唱している分析手法です。市場の環境を分析することで経営戦略上の課題や成功要因を見つける手法であり、人事マーケティングでも幅広い場面で活用できるでしょう。

3C分析では、以下の3つの「C」を分析します。

・Customer(顧客・市場)

Customerは、市場の状態や規模、顧客のニーズや属性などを分析します。景気の動向や技術革新の影響といったマクロ的な分析と、消費者の興味・関心などのミクロ的な分析を行うことで、どのような施策を立案すべきか計画できるようになります。

人事マーケティングにおいては、「顧客」の部分を求職者や自社の社員に置き換え、マクロ分析・ミクロ分析を行います。景気や技術革新、求職者のニーズなど、幅広く情報を取得して分析することで、戦略が明確になるでしょう。

・Competitor(競合)

Competitorでは、競合他社が持つ強みや弱み、市場シェア率や売上などを分析します。

人事マーケティングでもこの分析に大きな違いはありませんが、競合の範囲は広くなることが多いでしょう。例えば「営業職」を採用しようとした場合、同業他社だけでなく、他業種の「営業が強い会社」を分析していく必要があります。

また、分析においては採用で成果を出している企業の要因を探ることも大切です。活用している採用媒体や選考方法、採用ターゲットなど、できる限りの情報を集めて成功要因を探りましょう。

・Company(自社)

「顧客・市場」と「競合」の分析を踏まえて、自社の分析を進めていきます。市場の変化に対する自社の対応状況や、自社と競合を比較した際の強みと弱みなど、外の環境と比較することで正確な自社の状況・位置づけが判明します。人事マーケティングにおいても、Companyの分析に違いはありません。

人事マーケティングに求められるスキル

人事マーケティングを実践するにあたり、具体的にどのようなスキルが求められるのか解説していきます。

課題発見力

社内外の人材が何を求めているかを把握するために求められるのが、課題発見力です。難しく聞こえるかもしれませんが、これはいわば「自社の社員はどんなことに悩んでいるか」を見つける作業です。

調査力

マーケティング理論でも様々な事柄を調査することが重要だったように、調査力はマーケティングに欠かせないスキルとなります。自社を取り巻く状況をミクロ視点・マクロ視点で把握することで、初めて効果的な戦略を立案できるからです。

データ分析力

顧客の消費行動が多様化したことを受けて、マーケティングではデータ分析の重要度が増しています。これは人事マーケティングにおいても同様です。

いくら調査力を磨いても、集めたデータを分析しなければ意味がありません。各種データから目標達成に必要な情報を分析し、施策として反映させることで、初めて「データを活用した」と言えるのです。

人事データ分析については「人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説

まとめ

人事におけるマーケティングとは、社内外の人材が何を求めているかを把握し、ニーズに合わせた社内制度を作り、人材へ届けていくことです。その対象は主に社員と採用ターゲットですが、あくまでも最終的な目的は「組織に利益をもたらすこと」にあります。

マーケティング未経験者でも、既存のマーケティング理論を活用すれば人事マーケティングを推進することが可能です。今回紹介した5A理論や3C分析を下敷きにすることで、大まかな取り組みがわかるでしょう。

採用活動での苦戦、離職者の増加といった課題を抱えているのであれば、積極的にマーケティング思考を取り入れて、人材のニーズを掴んでいくことをおすすめします。

マーケティングに欠かせないデータ分析と「数字力」

マーケティングを実践するためにはデータを正しく読み取り、分析する力が求められます。しかし、人事担当者のなかには数字に対して苦手意識を持ち、「データなんて見たくない」という方も少なくありません。

このような担当者にマーケティング研修や統計研修を受講させても、なかなか成果は上がらないでしょう。まずは、担当者のレベルに合わせて数字やデータの扱いを学んでいくことが大切です。

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