人材育成の課題とその解決策
人材育成を推進していると、様々な課題・障害が立ちはだかります。その背景には慢性的な人手不足や業務過多があり、解決は一筋縄ではいきません。
今回は各機関の調査結果から、企業が実際に直面している人材育成の課題を洗い出していき、その解決策について考えていきます。
各種調査から見る人材育成の課題
企業が抱える人材育成の課題については、様々な機関が調査を行い、結果がまとめられています。ここでは厚生労働省と東京商工会議所による調査結果を抜粋し、回答が集中した人材育成における課題を確認していきます。
厚生労働省による調査
厚生労働省の調査で、人材育成に関する問題点として回答が集中したのは以下のとおりです。
指導する人材が不足している 58.1%
人材を育成しても辞めてしまう 53.7%
人材育成を行う時間がない 49.7%
鍛えがいのある人材が集まらない 28.8%
参考:厚生労働省「人材開発政策の現状と課題について」
注目すべきは、人材・時間というリソース面だけでなく、育成対象者側の問題にも回答が集まっている点でしょう。
東京商工会議所による調査
東京商工会議所の調査では「社員の研修・教育訓練の実施に際しての課題」について質問が行われ、以下の課題に回答が集まりました。
研修・教育訓練を行う時間的余裕がない(業務多忙等) 41.6%
研修・教育訓練を担当する人材が不足している 38.5%
研修・教育訓練に関するノウハウが不足している 34.5%
研修・教育訓練の方針や計画が無く、体系的に行われていない 30.5%
参考:東京商工会議所研修センター「研修・教育訓練、人材育成に関するアンケート」
やはり人材・時間といったリソース面が大きな課題となる一方で、ノウハウや方針といったソフト面の問題に回答が集まっています。
各調査から浮かび上がる人材育成の課題
両調査で回答が集中した課題として共通したのが「指導する人材の不足」と「指導・教育にあてる時間の不足」です。これらリソース面の問題は、人材育成の枠組みだけでなく、会社全体で慢性的に抱えている課題ともいえるでしょう。
「育成のノウハウの不足」については、厚生労働省の調査では「人材育成の方法がわからない」は8.8%と大きな問題点になっておらず、数値に差がありました。
また、両調査を見比べると、育成対象となる社員の資質に課題を感じている企業が少なくないこともわかります。東京商工会議所の調査でも「研修・教育訓練の対象となる社員の意欲が低い(21.5%)」が無視できない課題となっています。
人材育成における4つの課題
上の調査結果を踏まえて、人材育成の課題について詳しく解説していきます。
指導する人材の不足
人材育成における大きな課題として、指導する人材の不足が挙げられます。
そもそも人材育成を担うためには、マネジメントにまつわる知識や管理能力、計画力といった様々なスキル・知識が求められます。しかしその一方で、育成スキルについて学ぶ環境・体制はあまり整えられていません。つまり、育成スキル・知識を持つ人材自体が育ちにくいわけです。
また、純粋に人手不足も深刻です。帝国データバンクの調査によれば、人手不足を感じている企業の割合は51.7%(2023年1月時点・正社員)と、5カ月連続で半数を超える結果となっています。人材育成に人手を避く余裕がないことも、根本的な課題といえるでしょう。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」
指導・教育にあてる時間の不足
指導・教育にあてる時間の不足という課題は、管理職への業務集中が背景にあるといえるでしょう。
人材育成は多くの企業で、管理職が抱える業務のうちの一つとして扱われ、他の業務よりも低い優先度になりがちです。労働政策研究・研修機構の資料によれば、管理職の多くはプレイングマネージャーであり、多忙のため労働時間が長い傾向にあるといいます。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「管理職ヒアリング調査結果―管理職の働き方と職場マネジメント―」
育成対象者も自身への対応が後回しになっていると感じれば、モチベーションが落ち、さらに育成効率が落ちる悪循環に陥る恐れもあります。
対象者側の社員の問題
人材育成の課題として、育成対象となる社員側の問題も挙げられます。社員の意欲が低いと、いくら良い育成・研修プログラムを実施しても効果は上がりません。
ただ、社員の意欲が向上しないのは、本人の責任だけとは限りません。業務と合致しない育成目標や、多忙な中での外部研修への参加など、納得感が得られない育成体制では社員のやる気を削いでしまいます。
早期離職についても社内環境や業務上のミスマッチが生じていないかを確認し、モチベーションを高められる環境が整えられているか見直す必要があるでしょう。
人材育成に関するノウハウ不足
人材育成に関するノウハウ不足については、厚生労働省の調査と東京商工会議所の調査で結果に差が生じていました。しかし今後は、この課題がより顕在化してくるかもしれません。
とくにノウハウが不足しているのが、DXにまつわる育成です。日本能率協会の調査によれば、「DX推進に関わる人材が不足している(育成が思うようにできていない)」と回答した企業は85.9%に上っており、ほとんどの企業がDXにまつわる人材を育成できていません。
参考:一般社団法人日本能率協会「2022年度(第43回)当面する企業経営課題に関する調査」
一口に人材育成といってもその内容は多岐にわたり、職種や分野が異なれば必要なノウハウも異なります。人材育成のノウハウも常にアップデートが求められ、陳腐化してしまわないよう気を配る必要があるわけです。
人材育成における課題の解決策4選
人材育成における課題を解決するためには、どのような取り組みが必要となるのでしょうか。ここでは、厳選した4つの解決策を紹介していきます。
人材育成における方針・計画を明確にする
人材育成の課題解決のスタートは、育成方針とその計画を明確に定めることです。育成の方針が固まれば、それに沿って育成手法や人事評価の基準なども定まっていくため、人材育成の全体像を定めやすくなります。
※人材育成の方針の定め方については「人材育成方針とは?」で詳しく解説しています。
関連記事:「人材育成方針とは?」
また、企業としてどのような人材を求めており、どういった道のりで育成していくかについては「ロードマップ」として形にしておきましょう。
ロードマップを作成することにより、経営層と現場の認識が可視化され、後々の育成ノウハウとしても活用することができます。
※人材育成のロードマップついては「人材育成におけるロードマップとは?」で詳しく解説しています。
関連記事:「人材育成におけるロードマップとは?」
人材育成の重要性を社内に浸透させる
当然のようで意外と難しいのが、人材育成の重要性を社内に浸透させることです。感覚的にOJTで人材育成を行っている環境では、通常業務が優先され、育成が疎かになりがちです。まずは、こうした意識を変革していきましょう。
人材育成の重要性を社内に浸透させるためには、人材育成の方針・計画を社内に公表する必要があります。会社として人材育成を推進する態度を示し、具体的な目標や行動計画を提示することで社員の意識も変わっていきます。
また、人事評価のなかに人材育成に関する項目を増やし、社員の取り組みを実際に評価していくことも効果的です。
社員に学びの機会を与える
人材育成の課題を解決するためには、会社の制度として社員に学びの機会を与えることが大切です。
厚生労働省の調査によれば、OFF-JTまたは自己啓発支援に支出した企業は50.5%とほぼ半数に留まっています。また、OFF-JTに支出した費用も減少傾向にあることがわかっています(労働者一人あたり平均1.2万円)。
参考:厚生労働省「令和3年度能力開発基本調査」
「指導を担える人材を増やす」「社内に育成ノウハウを蓄積させる」といった目標を達成するには、会社側から率先してOFF-JTや自己啓発に取り組めるよう、環境を整えていくことが欠かせません。
人材育成のアウトソーシング
人材育成の課題解決が思うように進まない場合は、人材育成のアウトソーシングを検討するのも方法のひとつです。
人材育成には専門のコンサルタントが存在しており、自社の現状に基づいた提案や教育体制の整備、最適な研修プログラムの提供など、様々な役割を担ってくれます。
※コンサルティングついては「人材育成におけるコンサルティングとは」で詳しく解説しています。
関連記事:「人材育成におけるコンサルティングとは」
多くの企業が慢性的な人手不足と時間不足に陥っていますが、これらの問題の解消は容易なことではありません。社内で人材育成を担う人材や時間を用意できないのであれば、外部の知見を活用するのが解決への近道です。
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