人材育成には、適切な目標設定が不可欠です。人材の育成が上手くいかない企業は多くの場合、目標が曖昧になっていたり、形骸化していたりします。
今回は人材育成の目標を定めるべき理由や具体的な設定手順、目標管理シートの書き方、職種別の具体例などを解説していきます。
人材育成で目標設定が重要な4つの理由
なぜ人材育成を成功させるためには、目標設定が重要なのでしょうか。その理由を4つのポイントから解説していきます。
モチベーションの向上
目標設定は、社員のモチベーションの向上につながります。
日々の業務や研修などをルーティンで行っているだけでは、なかなか成長につながりません。個々に目標を設定することで目的意識が高まり、さらに目標をクリアすることで達成感が得られ、成長を促進させるのです。
また、設定された目標が社員自身のキャリアプランにマッチしていれば、よりモチベーションを向上させることができるでしょう。
現状把握とスキルアップ
目標を設定することは社員自身の現状把握につながり、スキルアップの機会を創出できます。
目標を設定してその達成度を確認することで、おおよその能力が測定できます。また、達成度が低い場合は、スキル不足や業務のミスマッチといった原因を浮き彫りにすることが大切です。浮かび上がった課題を一つずつ解決していくことが人材育成の施策となり、社員のスキルアップに結びつくからです。
人材育成の目標は達成だけに意味があるのではなく、達成に至るまでの課程も糧とすることで、成長を促進させるのです。
自律型人材に成長する
目標がはっきりと提示されることで、社員それぞれが「自分は目標に対して何をすればよいか」と考えやすくなります。
逆に言えば、目標がはっきりと定まっていない場合、社員は自ずと「指示待ち」状態になってしまいます。目標を設定することで社員は「自律型」に近づき、生産性も向上していくでしょう。
人事評価の基準が明確になる
目標を設定することで、目標までの達成度が定量的な指標となり、人事評価の基準が明確になります。また、社員の評価を定量的に把握することは、管理職(上司)が行うべき指導(サポート)も明確にする効果もあります。
人材育成の目標を設定する手順
人材育成の目標は、具体的にどのようにして設定すればよいのでしょうか。順を追って解説していきます。
経営目標からフォーカスする
人材育成における目標は、企業の経営目標からフォーカスしていく必要があります。経営目標を達成するにはどのような施策が必要で、その施策を実行するにはどのような人材が必要なのかと、焦点を絞っていきましょう。
自社にはどのような人材が必要なのかを明確にすれば、それがそのまま人材育成の目標になるわけです。
目標の方向性を明確にする
人材育成の目標には、大きく4つの方向性があります。企業全体の目標達成のために、どの方向性で育成すべきかを検討しましょう。
・問題点の改善
現状で抱えている問題点を改善・解消することで成長につなげる。
・新たな価値の創出
新しい事業の立ち上げなど、社内にはない価値の創出を目指す。
・能力の向上
能力や技術を向上させることで生産性を向上させる。
・現状維持
業界全体に逆風が吹いているときなどに取る方針で、事業規模などが縮小しないよう現状維持を目指す。また、クレーム0件など現状維持が価値となる場合にも設定される。
具体的な目標と達成期限を設定する
目標は具体的かつ客観的に判断できるものでなければいけません。最もわかりやすいのは、定量的な数字です。これに加えて、いつまでに達成するかの期限を設定しましょう。このプロセスは、一般的にKPI(重要業績評価指数)として設定されます。
※KPIについては「KPI設定のポイントと具体例」で詳しく解説しています。
関連記事:「KPI設定のポイントと具体例」
例えば、「日に電話営業を20件行う」「次月までにホームページのPV(閲覧数)を1000上昇させる」といった、具体的かつ現実的に達成可能な範囲で数値目標を設定するとよいでしょう。
目標達成までの行動をまとめる(達成計画)
目標を達成するためには、日々のタスクとして「何を」「どのように」「どれくらい」実行していくかを計画として設定することが大切です。
具体的な達成計画があれば、日々の行動にも迷いやズレがなくなります。目標管理シートなどのツールを用いて、可視化することも効果的です。
人材育成に役立つ目標管理シートの書き方
目標管理シートは、業務における目標や定量化した達成項目などをまとめておくツールです。記入項目は職種によっても異なりますが、共通して必要となる項目の書き方を解説します。
目標設定
まずは、目標を数値化して設定しましょう。数値化することによって目標までの進捗度が明確になり、改善策や方針転換を検討しやすくなります。また目標が数値化されることで、人事評価が公正に行われやすくなるというメリットもあります。
達成期限
目標を設定したら、合わせて達成期限も設定します。タスクごとに細かく日時を指定する場合と、事業年度に合わせて各プロジェクトの期限を設ける場合がありますので、あらかじめ達成期限の決め方をルールとして定めておくのもよいでしょう。
達成(評価)基準
後々の振り返りや評価のために、達成(評価)基準を設定することも大切です。目標の達成度を段階ごとにランク付けするとわかりやすいでしょう。
例えば、月間の成約件数について、10件をA評価、8件をB評価……といった具合にランク付けすると目標も明確になり、モチベーションの維持・向上につながります。
行動目標
数値目標と達成期限が定まったら、具体的な行動の目標を検討します。上の成約件数の例で言えば、10件の成約を獲得するためにどの程度の訪問・商談が必要になるのかを逆算して、具体的なアクションへと落とし込んでいきます。
振り返り
最後の行程として、目標の達成・未達成を問わず振り返りを行います。未達成に終わった原因や、成功につながった要因などを整理し、次の目標設定へと活かしていきましょう。この一連の流れをPDCAサイクルで繰り返していくことで、成長へとつながっていきます。
効果的な目標を設定するための4つのポイント
どのような目標を設定すれば効果的な人材育成へつながるのか、ポイントを解説していきます。
社員のキャリアと合致させる
人材育成の目標と社員のキャリア観を合致させれば、成長効率は大きく高まります。逆に言えば、社員の目標と会社としての目標設定にミスマッチが生じないよう配慮する必要があるわけです。
例えば、web分野での集客スキルを伸ばしていきたいと考える社員に対して、実地での営業目標を設定してもミスマッチとなり、生産性の低下や離職リスクを高める結果になります。
社員のキャリアプランを聞き取り、会社側がキャリアパスとなるような目標を提示できれば、より意欲的に業務へ取り組んでくれることでしょう。また合わせて、社員が持つスキルや経験などの情報を収集・活用すれば、タレントマネジメントによって組織のパフォーマンスはさらに高まっていくことが期待されます。
なお、タレントマネジメントについては「タレントマネジメントとは 進め方や管理すべき項目を解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「タレントマネジメントとは 進め方や管理すべき項目を解説」
進捗確認とフォローの制度を整える
中長期的な目標を設定した場合は、目標に対する進捗の確認と必要に応じたフォローが大切となります。
進捗確認とフォローを管理職の裁量に任せてしまうと、通常業務が優先されてしまう場合があります。会社の制度として「1on1」を設定するなど、社員が孤立しないような体制作りを推進しましょう。
なお、1on1については「1on1の目的 話すべきことや効果を上げるポイントを解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「1on1の目的 話すべきことや効果を上げるポイントを解説」
フィードバックの精度を上げる
進捗確認とフォローの制度化と合わせて取り組みたいのが、指導役のフィードバックの精度向上です。効果的なフィードバックを行えば、対象者の内省力や課題発見力などが養われ、成長効率が高まります。
一方で、効果的なフィードバックを行うためには、知識やスキルが欠かせません。日々の業務のなかではなかなかフィードバックについて学ぶ機会はないため、指導側を対象とした研修制度を整えることも大切です。
なお、フィードバックについては「ビジネスにおけるフィードバックとは 種類・方法・効果について解説」で詳しく解説しています。
「関連記事:ビジネスにおけるフィードバックとは 種類・方法・効果について解説」
研修・教育プログラムの整備
いくら目標を念入りに設定しても、根本的に社員側のスキルが不足している場合もあるでしょう。あらかじめ研修・教育プログラムを整備しておくことで、スキル不足の解消などを効率的に進めることができます。
具体的には、外部研修や資格取得の補助など、社員のスキルアップを促進するための制度を整えるとよいでしょう。
なお、人材育成における研修の方法や種類については「人材育成における研修の方法・種類」で詳しく解説しています。
関連記事:「人材育成における研修の方法・種類」
人材育成の目標例〈職種別〉
人材育成のための目標は、職種の特徴に合わせて設定していく必要があります。ここでは、いくつかの職種から具体例を挙げていきます。
営業職の場合
営業職は具体的な数値目標を設定しやすい職種といえます。ポイントとなるのは、現実的に達成可能な範囲で、社員の成長を促す目標を設定できるかです。
【具体例】
・年間の売上目標に加えて季節指数などを踏まえた月別の目標を設定
・新規訪問は一日に3件
・週末の達成率の進捗確認を徹底
・成約率を向上させるために部長とともに営業トークのロープレ
人事職の場合
人事の仕事は人材の確保と、社員が活躍できるための環境作りです。ただ採用活動に取り組むだけでなく、定着率の向上のための施策なども打ち出していく必要があります。
【具体例】
・事業拡大に向け、来春までに○名を新規採用
・離職率○%の維持に向けた働き方改革推進
・求人媒体で一日に2件スカウトメールを送信
・労務管理のためのDXツールの選定
企画・開発職の場合
企画・開発職は経営目標に沿って、新しい価値を創造する役割を担います。とくに開発は成果を上げるまでに時間が掛かることも多く、過程に細かく目標を設置して評価していくことが大切です。
【具体例】
・労働時間○%削減のための顧客データの自動管理ツールの開発
・既存商品のコストを○%カットする改善案を次月までに3案提出
・営業部と連携して、市場ニーズ把握のための勉強会を月1回以上開催
・プレゼン時、原料費等を踏まえた利益率の明確化を徹底
クリエイティブ職の場合
クリエイティブ職は定量的な目標が立てにくく、仕事の評価も難しいため、目標設定が困難な職種といえます。制作速度の向上や納期の遵守といった目に見えやすい目標を立てつつ、問い合わせ件数の増加などの成果を評価することが大切です。
【具体例】
・ホームページの修正依頼は○時間以内に対応する
・新規チラシのデザイン案は3パターン用意する
・問い合わせ件数を増加させるための改善施策の毎月1件提案
目標設定に欠かせない「数字力」を養う
人材育成の目標設定には、定量的な数値が必要となります。ただ一方で、ビジネスパーソンのなかには数字の扱いに苦手意識を持つ方が少なくありません。
目標の数値を漠然と受け止めていると、「与えられた目標がどのようにゴール(経営目標)へつながっていくか」というビジネス観が育たないため、自ら行動できる自律型人材へと成長できません。
そこで必要となるのが、「ビジネスシーンで役立つ数字力」です。弊社オルデナール・コンサルティング合同会社がご提供する「ビジネス数学研修」では、数字を使って効果的に業務を進められるようトレーニングを行います。数字力が上がれば、与えられた目標の意図がわかり、自然と求められる業務(アクション)を導き出せるようになります。
「数字力」というとテクニカルスキルが連想されがちですが、実は意思統一や納得感の向上にも一役買うスキルなのです。「提示した目標に対して、社員からの納得が得られない」「人材育成の目標と定量的な数値が連動しない」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご検討ください。
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