人材育成の方針とは 定め方や事例を解説

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人材育成の方針とは、企業として求める人材を定義し、その人物像に至るまでの具体的な道筋を設定することです。単に一人の社員をどのように育成するかだけではなく、評価制度や研修制度の構築にも関わる重要な指針となります。

今回は人材育成の方針の重要性や定め方、人材育成に定評のある企業の事例などを解説していきます。

人材育成の方針とは

人材育成の方針とは、企業として求める人材を定義し、その人物像に至るまでの具体的な道筋を設定することです。

人材育成の方針を明確にすることで、社員に対する育成・研修の具体的な方法が定まっていきます。また、人事評価の面でも求める人物像に照らし合わせることで評価基準を定めやすくなり、その達成度などから定量的な評価を行うことも可能となります。

つまり人材育成の方針は育成の方向性だけに留まらず、評価制度や研修制度を構築する際のスタート地点にもなるのです。

労働政策研究・研修機構の調査によれば、「人材育成・能力開発の方針について特に定めていない」と回答した企業は26.8%に過ぎず、大多数の企業は何らかの方針を定めて人材育成にあたっていることがわかります。

参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」

人材育成の方針が重要になる背景

日本企業が直面している課題から考えれば、人材育成の方針は必要不可欠といっても過言ではありません。

少子高齢化による労働力人口の減少

日本は少子高齢化によって人口減の時代に突入しており、労働力人口は減少の一途を辿ります。総務省「令和4年労働力調査年報」によれば、2022年平均の労働力人口は6,902万人となっていますが、2065年には約4割減の3,946万人にまで減少するという試算があります。

参考:総務省「令和4年労働力調査年報」

参考:みずほ総合研究所「少子高齢化で労働力人口は4割減」

このなかで企業が生産性を向上させるためには、社員一人ひとりが高い水準の成果を残さなければいけません。そこで必要となるのが人材育成の方針であり、成長を促すための具体的な施策が求められるのです。

働き方改革による労働時間の減少

企業は労働力人口の減少だけでなく、従業員一人あたりの労働時間の減少についても考慮しなければいけません。2019年には「働き方改革関連法」によって、時間外労働時間の上限が原則として「月に45時間、年間で360時間」と定められました。

厚生労働省「毎月勤労統計」によれば、月間総労働時間は1970年代前半では180時間を上回っていましたが、1990年代には150時間、2021年には136.1時間と大幅に減少し続けています。

参考:ニッセイ基礎研究所「働き方改革で労働時間の減少ペースが加速」

旧態然の成果が出るまで時間をかけるという体制では、遠からず組織は破綻してしまいます。企業は限られた時間のなかで最大限の成果を上げるため、優秀な人材を育成する必要があるわけです。

人材育成の方針を定めるメリット

人材育成の方針を定めることによって、具体的にどのようなメリットが得られるのか解説していきます。

自社の求める人物像が明確になる

どんな企業も経営理念やビジョンは掲げていると思いますが、その達成のためにはどんな人材が必要で、どのような育成を施すかまで整理されている企業は少ないのではないでしょうか。人材育成の方針を定めることは、求める人物像とその育成までの流れを可視化する作業でもあるのです。

また、理念というのは往々にして抽象的であり、社員全員が正確に自社の方針を把握しているとは限りません。その点、人材育成の方針として社員にとっての「自分事」にすれば、会社が何を達成するために、どのような人材を求めているかが理解しやすくなります。

社員のキャリア形成への意識が高まる

企業側が求める人物像とそこに至るまでの道筋を示せば、社員も自らのキャリアについて具体的に考えるようになり、成長意欲が高まります。社員の成長効率が上がれば、そのぶん生産性も向上していくでしょう。

人材育成の方針の定め方

人材育成の方針は、大きく3ステップで定めることができます。順を追って確認していきます。

現状の把握

人材育成の方針を決定する際にまず行うべきなのが、社内の現状把握です。経営方針・経営状態などを踏まえて、社員のスキルやモチベーション、年齢ピラミッド、抱えている課題などを部署単位で確認していきましょう。そのうえで、経営理念(経営ビジョン)などから必要な人物像を明確にしていきます。

目標と課題の洗い出し

現状把握が済んだら、具体的に必要な人物像と照らし合わせて、不足している部分を確認していきます。

現状で社員に欠けているスキルがあれば、それを補えるような育成・研修制度を導入する必要があります。例えば、次世代を担える人材がいないのであれば、若手人材から登用してマネジメントスキルを磨かせるなどの方針も打ち出せるでしょう。

なお、具体的な研修計画の立案については「研修計画の立て方 研修計画書や立案時のポイントを解説」で詳しく解説しています。

関連記事:「研修計画の立て方 立案時のポイントや研修計画書について解説」

具体的な施策の検討

不足部分や課題の洗い出しが完了したら、具体的な人事戦略へと落とし込んでいきます。「外部講師を招いて研修を行う」「自己啓発をサポートする制度を設ける」など、効果的な施策を検討していきましょう。

また、施策は一度決めたら永続的に行うのではなく、効果の検証を続け、市場や技術の変化に応じて更新・変更していく柔軟性も求められます。

なお、研修の効果を確かめる方法については「研修の効果測定とは カークパトリックモデルやアンケート項目を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「研修の効果測定 カークパトリックモデルやアンケートの活用法」

人材育成の方針を定める際の3つのポイント

人材育成の方針を定める際、業界や企業規模を問わず意識すべき3つのポイントを解説します。

社内周知・共有

人材育成の方針は、社内周知と共有を行わないと効果を発揮しません。多くの場合、方針は育成を担う管理職には共有されます。しかし、実際に成長していく社員たちには行き届かず、目的意識が低いまま研修などに参加する例は少なくありません。

実際に『日本の人事部』の調査によれば、「『人材育成方針』が共通言語化されていますか」という問いに対し、「されていない」が57.0%、「わからない」が4.9%という結果が出ています。

参考:HRビジョン「人事白書調査レポート2023 人材育成方針が共通言語化されている企業は約4割。うち約6割は、直近3年で方針を改定」

人材育成の方針は策定だけで終わらず、周知・共有まで推進していくことが求められるのです。具体的には、定期的な社内での掲示やメール・チャットでの通知、1on1での共有などの取り組みを続けていくことが大切です。

定期的な見直しとアップデート

人材育成の方針は技術の進歩や社会・環境の変化に合わせて、定期的に見直し・アップデートを行いましょう。

実際に前述の『日本の人事部』の調査(「人事白書調査レポート2023」)によれば、「『人材育成方針』の改定状況について」という問いに対し、「直近3年(2020年~2022年)の間に改定した」が58.0%で最多の回答となっており、「改定していない(今後も予定はない)」は11.9%に過ぎません。

とくにweb関連の知識・スキルは目まぐるしく変化するため、全体的な育成方針のなかで細かく目標を設定してしまうと、半年後にはトレンドから外れていた……といった失敗も起こりえます。

この場合は、長期的な育成方針として「デジタル社会で高い専門性を発揮できる人材」といった目標を掲げつつ、短期的な施策として研修の実施や資格取得の補助などを行い、トレンドの変化に即座に対応できる環境を整えるとよいでしょう。

それぞれが目標達成に向けて取り組める体制作り

人材育成の方針を定める際には、社員それぞれが目標達成に向けて取り組める体制を整えることも大切です。

とくに全社員に対して画一的な成果を求めると、せっかく定めた方針が形骸化しやすくなります。例えば、全社員に向けて「統計データをもとにした実務を行う」という目標を設定しても、なかなかうまくはいきません。数字やデータに対する理解や抵抗感は、人によって全く異なるからです。

「○○ができたから、お前もできるはずだ」という考え方では、社員の不信感が高まるばかりです。社員の適性などを踏まえて、段階的なフォローアップが可能な体制を整えておきましょう。

人材育成で成功する企業の事例

人材育成で実績を残している企業の事例として、ニトリホールディングス、トヨタ自動車、コニカミノルタの人材育成の方針を簡単に紹介します。

株式会社ニトリホールディングス

インテリアの小売業等を展開するニトリホールディングスでは、「モノやカネは残らない。でも技術はヒトが継承できる」「教育こそ最大の福利厚生」と考え、「世界に通用するスペシャリスト」の育成を目指しています。

具体的にニトリでは、「多数精鋭主義」「配転教育システム」といった方針・施策を採用しています。また、特徴的な取り組みとして「ニトリ大学」が挙げられ、入社期別研修や社内資格認定制度、e-ラーニングなどの多様な教育・自己育成ツールを提供し、労働生産性の向上に努めています。

トヨタ自動車株式会社

日本を代表する企業であるトヨタでは「モノづくりは人づくり」という理念のもと、創業から人材育成に力を入れ続けています。現在は「トヨタウェイ2020」という行動理念を掲げ、羅針盤となる心構えや留意点を公開しています。

人材育成制度は体系的に整えられており、「職場先輩制度」や「修業派遣」、「3年基礎固め特別研修」といった個性的な取り組みを導入して、世界で活躍する人材を育成しています。

コニカミノルタ株式会社

世界で4万人近い従業員数を抱えるコニカミノルタグループでは、「コニカミノルタフィロソフィー」という軸となる考えを掲げています。

コニカミノルタフィロソフィー

・経営理念:新しい価値の創造

・経営ビジョン:グローバル社会から支持され、必要とされる企業

・企業文化・風土(6つのバリュー):Open and honest、Customer-centric、Innovative、Passionate、Inclusive and collaborative、Accountable

具体的な取り組みは「キャリア開発支援」「能力開発支援」「技術者育成」「技能伝承」の4つに分けられ、「CDSシステム」や「コニカミノルタカレッジ」、「MOT(技術経営)選抜プログラム」といった多様な施策で社員育成を推進しています。

定量化によって納得感のある人材育成方針を定める

人材育成方針を定める際のポイントとして、「現状から乖離しておらず、現実的に達成可能であること」が挙げられます。このさじ加減を調節するのに欠かせないのが、能力と目標の定量化です。

高すぎる理想を掲げてしまうのは、正確に社員の力量を把握できていない証拠です。主観による評価だけでなく、計測可能な客観的な指標を設けることで、適切な目標値を設定できます。

しかしその一方で、残念ながらすべてのビジネスパーソンがうまく数値化を行えるわけではありません。効果的に数値やデータを扱うためには少しのコツと習慣化が大切です。

そんな定量化やデータ活用を課題とする企業様にお試しいただきたいのが、弊社オルデナール・コンサルティングがご提供する「ビジネス数学研修」です。

弊社の研修では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。実際のビジネスシーンを想定したカリキュラムをご用意しておりますので、無理なく数字やデータを日々の業務へ活かせるようになります。

「すべての社員が納得するような方針を定めたい」「社員それぞれにあった目標値を設定したい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご活用ください。

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