計数感覚とは、会社数字と企業活動を結びつけて理解する能力です。計数感覚を磨くことで「企業活動の推測・予測」「精度の高い経営計画の策定」「経営層との考えの齟齬が減る」といったメリットが得られます。
今回は、計数感覚がどのような能力なのかを解説したうえで、計数感覚を磨くメリットや磨くために必要なことをお伝えしていきます。
計数感覚とは
計数感覚とは、会社数字と企業活動を結びつけて理解する能力のことです。単に財務諸表や簿記についての知識があるだけでなく、それらの知識と経営を結びつけて考えることができて、初めて計数感覚と呼べます。
会社数字や財務諸表と聞くと「自分には関係ない」と思う方も多いと思いますが、計数感覚は経営者や管理職だけに求められる能力ではありません。むしろ一般のビジネスパーソンこそ、会社数字について少しだけ意識を向けることでビジネス観が大きく変化するのです。
身近な計数感覚の例
多くのビジネスパーソンは、仕事の評価や目標設定で「売上高」を重視します。その理由は、身近でわかりやすいからです。
ただ、少し踏み込んで考えてみると、売上高は目標や評価対象とするには不十分な指標であることがわかります。例えば10万円の商品を売ったとしても、自分がそのために10日を費やし、仮に人件費として15万円かかっていたら、儲けどころか赤字になってしまうからです。
ですから本来は「売上高」で立ち止まらずに、その売上でどれくらいの儲けを出せたかまで考える必要があるのです。つまり、その売上までにかかった費用(人件費、仕入れ代、広告費など)を引いた「限界利益」に注目することが求められるわけです。
いきなり「限界利益まで考えろ」と言われても意味がわからないと思いますが、上のように「どれくらい儲けが出たのか」と考えれば、決して難しい話ではないと思います。このような考え方こそ、計数感覚を養う一歩目となるのです。

計数感覚を身につけるメリット
ここでは、計数感覚を身につけることでどのようなメリットが得られるのかについて解説していきます。
企業活動を推測・予測できるようになる
計数感覚を身につけることで、会社数字から企業活動を推測・予測できるようになります。
企業は事業戦略に基づいてマーケティングを行い、サービスの提供や製品の販売などを行います。こうやって言葉で表すと簡単ですが、これらの企業活動を実行に移すためには「数字による計画」が欠かせません。例えば、事業を行うために必要なお金の調達方法や、月々の支出の見積もりなどをまとめた「資金計画」などが挙げられます。
こうした企業活動に会社数字がどのようにつながっているかを理解することで、財務諸表からその会社がどのようなアクションを起こしたのかが読みとれるようになるわけです。
精度の高い経営・事業計画を策定できる
計数感覚を身につけることで、精度の高い経営・事業計画を策定できるようになります。
例えば、計数感覚がない人が「営業利益が伸びて調子がいいから、来年度は前年比20%アップの売上を目指す」という目標を立てたとしましょう。この先、会社では以下のようなことが起こる可能性があります。
・売上を20%上げるためにそのぶん多くの製品を製造し、在庫として抱える
・製造と在庫の管理のためにお金が必要となる(手元資金が減る)
・その資金を調達するために銀行からお金を借りる
上の流れで会社は「利益は出ているが、手元の現金・預金が不足する状態」となり、黒字倒産のリスクが高まります。
このように計数感覚がないと「社員が頑張れば、売上はアップする」と考え、短絡的に目標を設定してしまい、前年比20%アップの売上を目指すことで「会社のなかでどのようにお金が増減するか」まで意識が回らないわけです。現実的でより精度の高い計画を立てたいのならば、計数感覚が欠かせないことがよくわかると思います。
会社(経営層)との考えの齟齬が減る
ここまでの解説は、経営層や管理職といった組織の上の階層にいる人にしか響かなかったかもしれませんが、計数感覚は一般のビジネスパーソンにとっても重要なスキルとなります。例えば、計数感覚があれば会社(経営層)との考えの齟齬が減ります。
多くのビジネスパーソンが一度は「クライアントからの評判はいいのに、会社からは評価されない」「売上成績はいいのに、昇進の機会に恵まれない」といった、会社と自己評価の乖離を感じたことがあるのではないでしょうか。
もちろん、会社の評価制度に原因がある場合もありますが、こうした評価の乖離は多くの場合、計数感覚がないために生じています。「身近な計数感覚の例」でも解説したように、いくらクライアントのためになる仕事をしたとしても、売上金額以上に時間(人件費)がかかっていたら会社からの評価は得られません。
計数感覚があれば、評価の乖離に悩むことがなくなり、自身のアクションの改善点もすぐに掴めるようになるでしょう。

計数感覚を磨くために必要なこと
計数感覚を磨くためには、どのような取り組みが必要となるのかについて解説していきます。
ビジネスにおける身近な数字に目を向ける
計数感覚を磨くための第一歩は、ビジネスにおける身近な数字に目を向けることです。
例えば、あらゆるビジネスパーソンに関係する「勤務時間」も、会社数字につながっています。「勤務時間=人件費」だからです。勤務時間内で上げた成果がどの程度の利益につながるかを考えられるようになれば、すでに初歩的な計数感覚は身についているといえるでしょう。
財務三表についての基礎知識を学ぶ
より高い視座の計数感覚を磨くためには、財務三表についての基礎知識が必要となります。
財務三表とは、企業の一会計期間の財務状況をまとめた書類のことで、「貸借対照表(BS)」「損益計算書(PL)」「キャッシュフロー計算書(CS)」を指します。
・貸借対照表(BS:Balance sheet)
企業がどうやってお金を集めて、何に投資をしたかが記載されており、企業の財務状態がわかります。
・損益計算書(PL:Profit and Loss Statement)
企業の利益と損益についてまとめられており、企業の経営に関する成績がわかります。
・キャッシュフロー計算書(CS:Cash Flow Statement)
営業活動・投資・財務にまつわる現金の流れがまとめられており、企業の資金の状態がわかります。
とくに経営者・管理職としての計数感覚を求めるのであれば、財務三表から何がわかり、どのように読み解けばいいかがわからないと先へは進めません。とはいえ、経理担当者に求められるような仕訳などの細かい知識まで身につける必要はなく、欲している情報を読み解く能力さえあれば問題ありません。
なお、「初心者必見!財務諸表の読み方」では、初心者向けに財務三表についてわかりやすく解説しておりますので、合わせてご覧ください。
バイアスの存在を知る
数字を読み解く際に気を付けなければいけないのが、バイアスです。バイアスには「先入観・偏見」「傾向の偏り」といった意味があり、誰しもが意志決定を行う際に少なからず影響を受けています。
会社数字を見る際に注意すべきバイアスのひとつに、フレーミング効果があります。フレーミング効果とは、同じ情報であっても焦点の当て方によって先入観が生じ、正反対の意志決定が行われてしまうこと。
例えば、製品について説明する際に「80%の方が効果を実感されました」と伝えると、聞き手はポジティブな印象を持ちやすくなります。しかし逆に「20%の方は効果を実感できませんでした」と伝えると、ネガティブな印象を持ちやすくなるのです。
他にも、自分の仮説や願望を裏付ける情報ばかりを集めて、無意識に都合の悪い情報を遠ざけてしまう「確証バイアス」などにも注意が必要です。
会社数字から事実を読み取っているように思えても、そこには少なからず「偏り」が生じています。その事実さえ知っていれば、より優れた計数感覚を身につけることができるでしょう。
なお、ビジネスシーンで注意すべきバイアスについては「ビジネスにおけるバイアスの種類とその対策」で詳しく解説しています。
計数感覚を磨きたいならまずは”ざっくり”と財務諸表を学ぼう
計数感覚を磨きたいと思っても一般的なビジネスパーソンにとって財務諸表は縁のないものであり、「難しくて手を出せないもの」というイメージがあると思います。実際、数字に苦手意識を持つビジネスパーソンがいきなり財務諸表についてしっかり学ぼうとすると、多くの人が挫折してしまいます。
ここでポイントとなるのが、”ざっくり”と財務諸表について学ぶこと。もちろん、財務諸表を作る経理部門にはしっかりとした知識が求められますが、経営者や一般のビジネスパーソンであれば「財務諸表を読み解く力」があれば十分です。財務諸表を「作る」能力と、「読み解く」能力は別物だということを知っておいてください。
ただ、まだ「財務諸表を読み解く力」が学べる場は少ないのが現状です。そこで「ビジネス数学研修」を企画・運営する弊社では「”ざっくり”学ぶ財務諸表」研修をご提供しています。
まずは数字や会計に対する苦手意識を克服し、会社の数字に興味を持つことから始めてみましょう。自分の仕事と会社数字が結びついていることに気づければ、ビジネスの解像度が上がり、仕事の進め方が大きく改善するはずです。
また、弊社ではオンライサロン「社会人の数字力向上サロン」を運営しており、「数字に対する苦手意識を克服したい!」「計数感覚を磨いて、いつかは独立したい」といった目標を持つ方々が互いに高め合う場を提供しています。個人で計数感覚を学びたいという方は、ぜひオンライサロンへの参加もご検討ください。
YOORは、オンラインサロン専用トークルームを完備した、コミュニティやファンクラブ、オンラインレッスンの場として利用できるプラットフォームです。
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