スキルベース組織とは ジョブ型との違いやメリットを解説

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スキルベース組織とは、スキルを起点として構築・運営される組織です。スキルベース組織が注目される背景には世界的な課題となっている人手不足があり、ジョブ型雇用では人材の確保が難しくなっていることからスキルベース組織への移行が検討されています。

スキルベース組織のメリットとしては「技術革新による変化への対応」「採用力の強化」「人材育成の方向性の明確化」などが期待されます。

今回はそんなスキルベース組織について、ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用との違いやメリット、移行時の課題などについて解説していきます。

スキルベース組織とは

スキルベース組織とは、スキルを起点として構築・運営される組織のことです。

スキルベース組織では職務を作業(タスク)にまで分解し、それぞれの作業で求められるスキルと従業員が持つスキル・資質とのマッチングを図ります。

ここでは、法人営業を例に考えてみましょう。法人営業は「ターゲット企業のリサーチ」「企業との関係構築」「フォローアップ」などの仕事を行います。このなかで「ターゲット企業のリサーチ」を分解してみると、「市場調査」「企業が抱える課題の分析」などの作業(タスク)によって構成されていることがわかります。

こうして作業単位で見るとわかりやすいですが、「ターゲット企業のリサーチ」は法人営業の経験者でなければできない仕事ではありません。社内の「企画部にいるデータ分析が好きなAさん」「人事部でマーケティングの知識があるBさん」などでも「ターゲット企業のリサーチ」の仕事を担うことができるでしょう。

「企業との関係構築」も同様で、社内の「コミュニケーション能力が高い人」「プレゼンテーションスキルがある人」でも担うことができるはずです。

つまりスキルベース組織であれば、法人営業というポジションで人手が足りなくなったとしても、複数の人材のスキルを組み合わせてその職務を埋め合わせることが可能となるわけです。

スキルベース組織が広まる背景

なぜスキルベース組織のような体制が注目されているかというと、世界的に人手不足が深刻な課題となっているからです。

いま欧米を中心とした世界各国の企業は、コロナ禍からの急速な景気回復によって深刻な人手不足に陥っています。ジョブ型雇用で不足しているポジションを埋めようとしても、条件を満たした人材が確保できなくなっているのです。

この点は、日本においても同様です。日本の人手不足は少子高齢化による人口減を主たる原因としていますが、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換を図る中で欧米諸国と同様の採用難に直面しています。このような状況下にあって、スキルベース組織への移行が世界的に注目されているわけです。

また、スキルベース組織が広まる要因として、技術革新によって人的資本管理システムが普及し、人事データのデジタル化とその管理が容易になったことも挙げられます。

ジョブ型雇用との違い

ジョブ型雇用とは、職務内容を職務記述書などで明確に定めたうえで、その職務を遂行できる資格・能力がある人材を獲得する雇用制度です。

ジョブ型雇用とスキルベース組織の共通点としては、職務を細かく把握することが挙げられます。ただ、ジョブ型雇用は「職務内容を明確に規定すること」を目的としているのに対し、スキルベース組織は人材が持つスキルとマッチングさせるために行う点が若干異なります。

ジョブ型雇用とスキルベース組織の違いについては、人員配置の柔軟性が最大の相違点といえるでしょう。ジョブ型雇用は職務内容を明確に定めたうえでその職務に合致した人材を獲得するため、人員配置の柔軟性がありません。「スキルベース組織が広まる背景」で解説したとおり、この弱点によって採用・人員配置に行き詰まる企業が増えているため、柔軟性の高いスキルベース組織が広まっているわけです。

また、ジョブ型雇用とスキルベース組織では、従業員に提示されるキャリアパスも大きく異なります。ジョブ型雇用は規定された職務のスペシャリストを目指すのに対し、スキルベース組織では適性を活かしつつも様々な業務に携わるため、ジェネラリストとしてのキャリアパスも開かれます。

メンバーシップ型雇用との違い

メンバーシップ型雇用とは、業務内容や勤務地などを定めずに人材を採用し、終身雇用を前提にジョブローテーションによって育成していく雇用制度です。

メンバーシップ型雇用も人材の適性に合わせて職務を割り振る雇用形態であり、この点から「スキルベース組織はメンバーシップ型の先祖返りである」という指摘もあります。

とはいえ、スキルベース組織とメンバーシップ型雇用では、業務の割り振りのスピード感が異なります。メンバーシップ型雇用は新卒一括採用と終身雇用を前提とした仕組みで、ジョブローテーションの期間(異動の間隔)は数年単位です。

一方でスキルベース組織は、深刻な人手不足と、急速に高度化・多様化するスキルに対応するために考案された制度であり、ポジションの空きに対して迅速かつ柔軟に人員配置を行う点が異なります。

また、メンバーシップ型雇用には職務を細分化して把握・管理する仕組みがないことも、スキルベース組織との大きな違いといえるでしょう。日本企業特有の「手が空いている人がやる」も職務内容が明確に規定されていないからこそ成り立つ文化であり、ジョブ型雇用では越権行為に当たる恐れがあります。

ただ、こうした日本企業の仕事を融通しあう精神は、スキルベース組織との親和性が高い部分でもあります。

スキルベース組織のメリット

スキルベース組織となることで「技術革新による変化への対応」「採用力の強化」「リスキリングの方向性の明確化」などのメリットが得られます。それぞれ解説していきましょう。

技術革新による市場や職務の変化への対応

スキルベース組織の非常に重要なメリットとして、技術革新による市場や職務の変化に対応しやすくなることが挙げられます。わかりやすい例でいえば、AIによって業務が失われてもキャリアチェンジしやすくなります。

仮に、工場管理の自動化が進むことでオペレーターの仕事が失われたとしましょう。ジョブ型雇用であればオペレーターの職務自体がなくなってしまうわけですから、その従業員を継続して雇用するのは難しくなります。

しかしスキルベース組織であれば、オペレーターの仕事がなくなったとしても、その従業員の強み・適性を活かして、別の業務に再配置することが可能となるわけです。

採用力の強化

スキルベース組織の最もわかりやすいメリットは、採用力の強化です。少子高齢化を背景とした「売り手市場」は今後も続き、理想通りのスキルを持つ人材や経験者を採用することは年々難しくなるでしょう。

そんななかで重要になるのが、異業種人材や未経験者の採用です。職務にとらわれず、スキルベースで人材を評価することができれば、異業種人材や未経験者であっても真に活躍する人材を見抜くことができるようになります。

人材育成・リスキリングの方向性の明確化

スキルベース組織は、人材育成・リスキリングの方向性を明確にすることができます。

例えば、「スキルベース組織とは」で挙げたように法人営業で人手不足になってしまい、「企画部にいるデータ分析が好きなAさん」に業務を任せるとします。その際、組織内で「業務の細分化」と「従業員のスキルの可視化」が済んでいれば、Aさんが法人営業の仕事を担うにあたって不足している能力が明確になるはずです。

不足している知識・スキルがわかればリスキリングの方向性も明確になり、効率的に研修等を実施することができるでしょう。

スキルベース組織への移行時の課題

スキルベース組織は新しい組織のかたちであり、実際に移行する際には様々な課題があります。

スキルを可視化する労力

スキルベース組織を成立させるためには、事業目標の達成に必要なミッションと、それを担うために必要なスキルを可視化する必要があります。「どんな人材・スキルが必要になるか」までは整理できても、「そのスキルを持っている人がどれくらい必要か」まで明確にするのは容易ではありません。

また従業員のスキルの可視化も、従業員の理解・協力がないとなかなか進みません。従業員の協力を促す仕組み作りも、スキルベース組織の成立には欠かせないでしょう。

業務と従業員の状況の管理

スキルベース組織を成立させるためには、業務の状況と従業員の稼働状況を正確に管理する仕組みが必要となります。

例えば、法人営業の業務で人手が足りなくなったとき、それを埋めることができる人材の稼働状況をリアルタイムで把握することが理想となります。現状の業務で手一杯になっていたら、新たに法人営業での業務を遂行することができないからです。

全社的に業務と従業員の状況をシームレスに結びつけるシステムを実現するのは、なかなかハードルが高いといえるでしょう。

スキルベース組織の実現には人事部のデータリテラシー向上が必須

スキルベース組織を実現するためには、従業員のスキルや適性をデータとして収集・管理する仕組みを構築しなければいけません。そのため、人事担当者にはデータリテラシーが求められるわけですが、ビジネスパーソンのなかには「数字やデータに対する苦手意識」を持つ方もいます。なかには学生時代の数学に対する苦手意識を引きずり、「データの管理や活用なんてできない」と拒絶反応を見せる方も少なくありません。

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