バイアス(bias)とは、「先入観・偏見」「傾向の偏り」といった意味で、意志決定の際に少なからず生じてしまう思い込みの一種です。
バイアスの種類は数多く、正常性バイアスやバンドワゴン効果、中心化傾向など日常の様々な場面で発生します。こうした各種バイアスの対策としては、バイアスについて知識を得ることが欠かせません。
今回は代表的なバイアスの種類について解説したうえで、ビジネスにおいて組織に与えるデメリットやその対策についてお伝えしていきます。
バイアスとは
ビジネスシーンにおいてバイアス(bias)は、「先入観・偏見」「傾向の偏り」といった意味で用いられます。社会調査の分野では「回答に偏りを生じさせる要因」という意味で用いられており、ビジネスでもこの意味合いで用いることがあります。
バイアスは人間が意志決定・判断を行う際に少なからず生じてしまうものであり、悪しき習慣というわけではありません。そもそも人間は意志決定を行う際、「過去の経験などを参考にしつつ直感的かつ迅速に判断する方法」と、「時間をかけて論理的に思考する方法」を使い分けているとされます(これを二重過程理論と呼びます)。
バイアスは基本的に前者の意思決定で発生し、当人が意図していない形で表れてしまうものなのです。こうした思い込みを防ぐためには、バイアスについて理解し、偏りや先入観によって判断を行なっていないかと自問自答することが大切です。

バイアスの種類
バイアスには数多くの種類があり、日常の様々な場面で発生します。それぞれのバイアスについて知識を得ておくことで、ミスやトラブルを防ぐきっかけになるでしょう。ここでは、代表的なバイアスについて解説していきます。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、異常な事態に直面した際に「これは正常な出来事だ」と判断することで、心理的な安定を保とうとする傾向のことです。災害時に「自分だけは大丈夫」と避難の遅れにつながってしまうのは、この正常性バイアスが原因です。災害大国の日本においては、耳馴染みのあるバイアスといえるでしょう。
ビジネスシーンにおいても、大きなトラブルが発生した際に「どうせ誤報だろう」「自社に限ってそんなことはない」と思いこんでしまい、初動が遅れてしまうことがよくあります。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分の理想や仮説を裏付ける情報ばかりを収集し、自身にとって都合の悪い情報を遠ざけてしまう傾向のことです。近年、SNSの普及によって改めて注目度が高まっているバイアスの一つです。
ビジネスにおいても、様々な意志決定の場面で確証バイアスは頻出します。ライバル企業の動向を軽視し、自社のアクションを強行してしまう……といった失敗談を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
バーナム効果
バーナム効果とは、誰にでも当てはまるような抽象的表現に対して「自分のことだ」と言い当てられたように感じてしまう心理現象のことです。その作用は、確証バイアスのメカニズムに近いといわれています。
バーナム効果を説明する際によく引き合いに出されるのが、占いです。占いの常套句である「あなたには悩みがありますね」という言葉も、誰しも悩みの一つや二つあるのは当然であるにも関わらず、つい「当たっている」と感じてしまうわけです。
このように、性格診断・血液型診断などでもよく用いられる手法であることから、世間的に馴染みの深いバイアスといえるでしょう。実際、ビジネスにおいてもバーナム効果は、営業のセールストークや広告のキャッチコピーなどでも活用されています。
ハロー効果
ハロー効果とは、人物や物事を評価する際、特徴的な部分に目を奪われて、その人物(物事)の評価に乖離が生じてしまう傾向のことです。「後光効果」と呼ばれることもあります。
ビジネスにおいてハロー効果は、人事評価・採用の場ではマイナスの意味合いで、マーケティングではプラスの意味合いで頻出します。例えば採用面接の場面で、候補者が非常に高学歴だったときに「この人物は仕事においても優秀だ」と思いこんでしまうこともハロー効果が原因です。
一方、マーケティングでは、社会奉仕活動に力を入れている企業の製品に対して、消費者が「この製品は環境保護につながるはずだ」と思いこむことなどが挙げられます。
ホーン効果
ホーン効果は「逆ハロー効果」とも呼ばれ、人物や物事を評価する際、対象の悪い部分や劣る部分が目につき、その人物(物事)の評価に悪いほうへ流れてしまう傾向のことです。ホーンは悪魔の角を指しており、ネガティブな印象によって評価が歪むことから「悪魔効果」と呼ばれる場合もあります。
例えば、強面の人に対して「押し売りをされそう」「何か悪いことをするに違いない」といった、根拠のない憶測をしてしまうのがホーン効果の典型です。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、多くの人が支持する製品や人物に対して、よりいっそうの支持が集まる傾向のことです。いわゆる「勝ち馬に乗る」心理がこれに当たります。
バンドワゴン効果はビジネスにおいても様々な場面で影響を与えます。例えば会議の際、多数派の意見に圧倒されることで、少数派の意見が埋もれてしまうことはバンドワゴン効果のマイナス面といえるでしょう。
一方、マーケティングでは「95%の方に選ばれました」といった多数派を印象づけるコピーライティングを行うことにより、広告効果を上げる手法として活用されます。これはバンドワゴン効果をプラス面で活用した例といえるでしょう。
フレーミング効果
フレーミング効果とは、同じ情報であっても焦点の当て方を変えることによってバイアスが生じ、正反対の意志決定が行われることです。フレーミング効果は情報伝達と意志決定に深く関わるため、ビジネスにおいても様々な場面で影響を与えています。
例えば、ある商材について説明する際、「70%の方が効果を実感されました」と伝えると、受け手はポジティブな印象を抱きやすくなります。逆に「30%の方は効果を実感できませんでした」と伝えると、ネガティブな印象を抱きやすくなります。両者は同じ情報を活用していますが、パーセンテージへの焦点の当て方を変えるだけで正反対の反応を生んでしまうのです。
中心化傾向
中心化傾向とは、アンケートや評価を行う際、結果が中央値に集中してしまう心理的な傾向のことです。アンケートの回答が「どちらでもない」や「5段階評価の3」に集中していた……という経験は誰しも一度はあると思います。
ビジネスにおいては、とくに人事評価で表れやすいバイアスであり、「評価に自信がない」「部下のことをあまり理解していない」といった状況で頻出します。
対比誤差
対比誤差とは、人物を評価する際、評価者が自分あるいは他の誰かを基準にすることで、被評価者に対する評価が左右されてしまうことです。人事評価や採用活動時に気をつけなければいけないバイアスとして有名です。
とくに評価者の得意分野で対比誤差が生じやすいといわれ、逆に評価者の不得意な分野では過大評価が生じやすいといわれます。
例えば、上司が「質よりも量」で成果を上げるタイプだった場合、綿密に計画を立てるために行動量に劣る部下を不当に低く評価してしまう恐れがあるわけです。
寛大化傾向
寛大化傾向とは、人物の評価を行う際、評価の結果が甘く(高く)なってしまう傾向のことです。原因としては「被評価者の業務を正確に評価できていない」といった能力的な問題や、「被評価者(部下)から良く思われたい」といった心理的な問題が挙げられます。
また、寛大化傾向とは反対に、評価の結果が厳しく(低く)なってしまう厳格化傾向も存在します。こちらは被評価者の業務に精通しているがゆえに厳しく評価してしまうなど、多くの場合は「対比誤差」が原因になっていると考えられます。

バイアスが企業に及ぼすデメリット
様々なバイアスの種類について解説してきましたが、具体的にバイアスは企業にどのようなデメリットを及ぼすのでしょうか。
不公平な人事評価
まず身近な問題として挙げられるのが、バイアスによる不公平な人事評価です。ハロー効果や中心化傾向などによって実際の仕事ぶりと乖離した評価が下されれば、当然ながら社員のあいだで不満が蓄積されます。
不公平な人事評価が常態化すれば、社員のモチベーションの低下を招くだけでなく、人材流出も加速してしまうでしょう。
採用力の低下
ビジネスシーンのなかでもとくにバイアスが発生しやすいのが、採用活動です。採用活動では、面接や履歴書といった限られた情報のなかで候補者を評価する必要があります。
そのため情報が不足している部分は、どうしても経験則が働いてしまいます。「○○大学の学生は、うちに来てもあまり上手くいっている印象がないんだよな」といった、担当者の勘や経験と呼ばれる部分です。
しかし、こうした判断は様々なバイアスの一端であり、真に候補者を評価しているとはいえず、自社で活躍できたであろう人材を逃す原因となります。
インシデントの発生
業務上でのバイアスはインシデント、つまり重大事故を招く状況を作り出します。とくに正常性バイアスや確証バイアスなどが原因となり、発見の遅れや判断ミスなどによって事故やシステム障害などを招く例が後を絶ちません。

バイアスへの対策
バイアスは人間の脳の構造上、完全に防ぐことはできません。しかし、心がけやルール作りなどによって、ある程度は減らすことができます。最後に、各種バイアスへの対策についてお伝えします。
バイアスについて知識を得る
バイアス対策の基本は、バイアスについて知識を得ることです。そもそもバイアスという概念を知らなければ、意思決定時に先入観や偏りが生じること自体に気付けません。
例えば緊急地震警報が鳴った際、正常性バイアスを知らなければ「どうせ何もないだろう」という考えに対して疑いを持てません。しかし、バイアスについて理解を深めておけば「正常性バイアスで判断を誤っているかも」と自身の考えを疑い、身を守る行動を取りやすくなります。
前提を疑うにも、客観的な視点を持つにも、まずはバイアスについて知識を得ることがスタートとなるわけです。
相手の反応に注意する
バイアスの対策として、相手の反応に注意することも大切です。例えば、無意識に「女性だから」「~するべきだろう」といった思い込みや偏見による言葉を使ってしまい、相手を傷つけたり、苛立たせていたりすることは少なくありません。
相手の反応に気を配り、自身の言動にバイアスがかかっていなかったかと省みる習慣を設けてみましょう。
定量的な基準を設ける
バイアスを防ぐためには、定量的な基準を設けることが非常に効果的です。
例えば人事評価においては、評価基準を明確にしておくことでバイアスを防ぎやすくなります。仮に、「意欲的に仕事に取り組んでいたか」という評価項目があったとしましょう。この場合、意欲的に働いたかの判断は評価者の主観に委ねられてしまうため、中心化傾向などのバイアスが働きやすくなります。
これに対して、仕事の取り組みに対して「アポイント数○件以上」といった定量的な基準を設けることにより、主観的なバイアスが介在する余地なく評価を行うことができるわけです。
なお、ビジネスにおける定性的・定量的な表現については「定量的・定性的の意味 ビジネスにおける使い分けのポイントを解説」で詳しく解説しています。
バイアスと上手く付き合うために必要な「数字力」
ここまでの解説のなかでお気づきかもしれませんが、バイアスと上手く付き合うためには、数字の扱い方に慣れておく必要があります。定量的な基準がバイアス対策になる一方で、バンドワゴン効果やフレーミング効果のように数字自体がバイアスを引き起こす原因にもなり得るからです。
こうした数字の扱いやデータの読み解き方にまつわる力こそが「数字力」であり、「数字力」を磨くための研修が弊社オルデナール・コンサルティングがご提供する「ビジネス数学研修」なのです。
弊社では、数字力を構成する要素として「把握力、分析力、選択力、予測力、表現力」を挙げています。例えば把握力を磨くことでデータやグラフの読み解き方が身につき、フレーミング効果を上手く扱えるようになるでしょう。また、バイアスを防ぐための採用基準を定める際も、分析力を磨いておくことで応募数や歩留まり率といった社内データを効果的に活かすことができます。
研修プログラムは受講者のレベルに合わせて「入門編」から「実践編」の4段階でご用意しておりますので、数字に対して苦手意識を持つ方でも安心してステップアップしていくことができます。
なお、弊社は企業向け研修だけでなく、オンラインサロン「社会人の数字力向上サロン」を運営しておりますので、個人でも気軽に「ビジネス数学」について学ぶことができます。サロンでは時事ネタのデータなどをテーマとして、楽しみながら数字の使い方が学べる環境を整えております。
「採用や人事評価におけるバイアスを防ぎたい」「バイアスを活かしたマーケティングを推進したい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご活用ください。
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