オンボーディングとは、新入社員がいち早く職場に馴染み、戦力として活躍できるように行う各種の取り組みです。生産年齢人口減少による人手不足などを背景として重要性が高まっており、主に「新入社員の即戦力化」や「早期離職の防止」を目的として、様々な施策が取り入れられています。
今回はオンボーディングの概要を踏まえたうえで、その目的や施策例、実施するうえでのポイントについて解説していきます。
オンボーディングとは
オンボーディング(On Boarding)とは、新入社員がいち早く職場に馴染み、戦力として活用できるように行う各種の取り組みです。語源は「飛行機・船に乗る」という意味の「on board」から来ています。
オンボーディングは新卒採用・中途採用を問わずに実施される取り組みであり、オンボーディングという言葉に馴染みはなくとも、ほとんどの企業が同様の取り組みを行っています。例えば、新入社員研修や歓迎会、メンター制度などもその一環です。
なお、カスタマーサクセスにおいても、顧客定着の意味合いでオンボーディングという言葉が用いられますが、ここでは人事施策におけるオンボーディングについて解説していきます。
オンボーディングの対義語はオフボーディング
オンボーディングの対義語として、オフボーディングという言葉があります。オフボーディングとは、社員が円満に退職できるように行う各種の取り組みを意味します。
近年は人手不足からアルムナイ採用(出戻り採用)に力を入れる企業が増えてきているため、オフボーディングへの関心や重要性も高まっています。
なお、アルムナイ採用については「アルムナイ採用とは デメリットやネットワークの構築について解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「アルムナイ採用とは デメリットやネットワークの構築について解説」
オンボーディングの期間
オンボーディングの期間に定義はなく、企業によって異なります。もともとオンボーディング自体が様々な取り組みを複合した意味合いであるため、一律の期間は定まっていないのです。
例えば、新卒者に対して1ヶ月ほど基礎的な研修を実施した後、各支店(店舗)で実地研修を行うのであれば、その期間すべてがオンボーディング期間といえます。一方、中途採用の場合は簡単な研修やランチ会のみとし、1週間ほどでオンボーディングを終了することも少なくありません。
オンボーディングの目的
オンボーディングは主に「新入社員の即戦力化」「早期離職の防止」「受け入れ側の理解促進」を目的に実施されます。それぞれ解説していきます。
新入社員の即戦力化
オンボーディングの基本的な目的は、新入社員の即戦力化にあります。社内ルールや会社の風土、人間関係などにいち早く馴染めば、戦力として活躍できるタイミングも前倒しとなります。当然ながら、育成の効率が良いほど、会社としての生産性も向上していくでしょう。
早期離職の防止
オンボーディングの重要な目的として、早期離職の防止が挙げられます。とくに新卒者の早期離職は長年にわたって企業の課題となっており、「新卒者の約3割は入社後3年以内に離職する」という状況が続いています。
厚生労働省の発表(2024年3月時点)によれば、新規学卒就職者(令和2年3月卒業)の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者で37.0%、新規大学卒就職者で32.3%となっており、早期離職の傾向に変化はありません。
参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
早期離職はそれまでにかかった採用・育成コストが無駄になってしまうだけでなく、採用力の低下や既存社員のモチベーション減少などを招く恐れもあります。こうした事実からも、オンボーディングが金銭的・時間的コストの損失を防ぐうえで重要な取り組みであることがわかると思います。
なお、早期離職の現状や理由については「早期離職の理由と必要な対策」でも詳しく解説しています。
関連記事:「早期離職の理由と必要な対策」
受け入れ側の体制を整える
オンボーディングの各種施策は、上司や同僚といった受け入れ側の体制を整える意味合いもあります。新入社員の受け入れを現場に一任していると「業務で忙しく、指導する時間がない」と、新入社員が放置されてしまう恐れがあります。
オンボーディングを会社の制度として新入社員と関わる機会を半ば強制的に設けることで、新入社員の孤立を確実に防げるわけです。既存社員と新入社員がいち早くチームとして機能するためには、受け入れ側の意識を改革することも大切です。
オンボーディング施策の例
オンボーディングの施策には、具体的にどのような種類があるのでしょうか。その効果や狙いとともに解説していきます。
新人社員研修
新人社員研修はほとんどの企業で行われるオンボーディング施策ですが、その内容は一律ではありません。新卒採用ではビジネスマナーや業界知識などを伝えていき、中途採用では自社での業務の流れや社内ルールなどを伝えていきます。
また、新人社員研修の内容は定期的に見直し、現場で求められるスキルの変化や世代間のギャップなどに合わせてアップデートしていくことも大切です。
なお、新人社員研修については「新人社員研修に求められる内容や目標」でも詳しく解説しています。
関連記事:「新人社員研修に求められる内容や目標」
ランチ会
ランチ会は最も手軽に行えるオンボーディング施策のひとつで、導入企業も多い取り組みです。社員間で自発的に行われることも多いですが、会社の制度として食事代を支給するのも効果的です。休憩時間中であるため、ゆっくりと交流を深めることができ、部署の垣根を越えて実施できるのもメリットです。
ただ新入社員のなかには、慣れない環境のなかで気疲れしてしまい「休憩時間くらいは一人でリフレッシュしたい」と考える人も少なくありません。ランチ会を行うタイミングは、新入社員の様子を見つつ検討することが大切です。
1on1
1on1は上司と部下のあいだで定期的に実施する面談のことで、オンボーディングのみならず、人材育成やマネジメントに欠かせない施策になりつつあります。人事考課のための面談とは異なり、社員の育成に主眼を置くのが1on1の特徴です。
最初のうちは定期的なコミュニケーションを通じて、信頼関係を構築することを目的に実施するとよいでしょう。その後、現状で感じている不安や悩み、キャリアプランなどを汲み取ることができれば、エンゲージメントの向上といった成果に結びついていくはずです。
なお、1on1については「1on1の目的 話すべきことや導入の流れを解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「1on1の目的 話すべきことや効果を上げるポイントを解説」
メンター制度
メンター制度は、オンボーディング施策のなかでも重要な位置づけとなります。メンター制度とは、他部署の先輩社員が新入社員のサポート役を務めて、メンタル面のサポートなどを行う取り組みです。
他部署の先輩がメンターを務めることがポイントであり、部署内の上下関係とは異なる「斜めの関係性」が形成されることで、直属の上司には相談しにくいことを打ち明けやすくなります。
なお、メンター制度については「メンター制度とは 導入のメリットや進め方を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「メンター制度とは 導入のメリットや進め方を解説」
質問チャンネル
質問チャンネルは、新入社員が面と向かって質問しにくいことを解消するための取り組みです。「上司が忙しそうで質問できない」「こんな初歩的なことを聞いて評価が下がらないだろうか」といった悩みを抱える新入社員は少なくないため、非対面で行えることがポイントとなります。
具体的には、チャットで専用の質問チャンネルを作ったり、新入社員が疑問に感じやすいことをQ&Aとしてまとめたwebページ・PDFを用意したりするとよいでしょう。
オンボーディングに必要な3つのポイント
オンボーディングを実施するにあたり、どのような点に注意すべきなのかを3つのポイントに絞って解説していきます。
リアリティショックの防止
オンボーディングのポイントとして、リアリティショックの防止が挙げられます。リアリティショックとは、理想と現実のギャップに衝撃を受けて、思い悩んでしまうことです。
例えば「入社前に聞いていた仕事内容と実際の業務が異なっていた」といったギャップに悩んでいると、キャリアプランも曖昧となってしまい、成長意欲も向上しません。
対策として最も大切なのは、採用段階からネガティブな面も含めて情報を発信していくことです。この意味でオンボーディングは、入社前の段階から始まっているといえるでしょう。
目標の細分化
新入社員に対して何らかの目標を課す場合は、目標を細分化していき、ひとつずつ成功体験を積ませましょう。これをスモールステップ法といいます。
いきなり時間のかかる目標や難しい目標が提示されると、成長実感が得られず、挫折感を覚える可能性もあります。監督者の手間は増えるかもしれませんが、細かくタスクを設定し、それらに対してひとつずつフィードバックを与えることで信頼関係が構築できます。オンボーディング期間は、手間を惜しまないことも重要なポイントといえるでしょう。
上司やメンターのスキルアップ
オンボーディングを成功させるためには、受け入れ側である上司やメンターのスキルアップを図ることも大切です。具体的には、新入社員の疑問や不安を受け止めて、正しく導くためのマネジメント力や傾聴力などが求められます。
新入社員が実際に入社する前に、指導に携わるメンバーに対して各種研修などを実施することも検討しておくべきでしょう。
「ビジネス数学研修」で新入社員の即戦力化を目指そう
オンボーディングの取り組みのひとつに「ビジネスパーソンとしての仕事の進め方」を伝えることが挙げられます。
とくに新卒者に対しては、ビジネスでの課題解決と学校での課題解決の違いを伝えることが大切です。学校で出された課題には必ず答えがあり、その答えを正確に導き出すことで評価が得られましたが、ビジネスでは明確な「答え」があるとは限らないからです。
例えば「昨年の売上データとスタッフの営業成績から、来月の○△支店の売上を予測しておいて」という指示に対し、数学の問題のように正解を追い求めても100%正しい予測は立てられません。
ときにビジネスシーンでは、手元にある情報からざっくりと予測を立てることが求められます。さらに予測値から仮説を立てて、具体的なアクションプランを練ることができれば、即戦力としての活躍につながっていくでしょう。
実はこの一連の流れは、弊社がご提供している「ビジネス数学研修」の一部です。「ビジネス数学」と聞くとテクニカルスキルを連想されるかもしれませんが、実務に直結したビジネス力を磨く、人材育成プログラムでもあるのです。
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