メンター制度は、他部署の先輩社員が新入社員(若手社員)のサポート役となり、メンタルケアなどのアドバイスを行う取り組みです。新入社員の離職防止やメンター側のマネジメント経験といったメリットが期待され、導入する企業が増えています。
今回はメンター制度の概要とそのメリット、導入の進め方について解説していきます。
メンター制度とは
メンター制度は、厚生労働省の資料で以下のように定義されています。
「メンター制度とは、豊富な知識と職業経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティ)に対して行う個別支援活動です。キャリア形成上の課題解決を援助して個人の成長を支えるとともに、職場内での悩みや問題解決をサポートする役割を果たします」
引用:厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
多くの場合、メンター制度では他部署の先輩社員がサポート役となり、新入社員(若手社員)のメンタルケアなどを目的として対話やアドバイスを行います。これを人材育成手法で「メンタリング」と呼びます。
他部署の人材がメンターを務めることで「斜めの関係性」が構築され、上下関係や利害関係などに捕らわれずコミュニケーションを取れる効果があります。また、メンター制度は業務にまつわる指導ではなく、メンタルケアや組織生活におけるサポートを行うことに大きな意義があるといえるでしょう。
メンターとメンティー
メンター(mentor)には「師匠、指導者、支援者」といった意味があり、メンター制度における指導側を指します。
メンターは入社5年目前後の社員が務める場合が多く、若手社員(新入社員)と比較的年齢の近い人材が選ばれます。対して、指導を受ける側の社員のことはメンティー(mentee)と呼びます。
エルダー制度との違い
メンター制度によく似た制度として、エルダー制度が挙げられます。エルダー制度はOJT教育の一環であり、所属部署の先輩社員が指導を行う人材育成手法です。業務上のサポートが一番の目的であり、部署内での交流促進を狙う意味合いもあります。
つまり、エルダー制度は「同じ部署の先輩が業務上の指導を行う」のに対し、メンター制度では「他部署の先輩が精神的なケアを行う」という違いがあります。
なお、エルダー制度は企業によっては「ブラザー・シスター制度」と呼ばれることがありますが、内容に違いはありません。
メンター制度の目的とメリット
メンター制度導入の目的について、メンター制度で得られるメリットを交えて解説していきます。
新入社員の離職防止
メンター制度の最大の目的は、新入社員(若手社員)の離職防止です。社内に「気軽に相談できる先輩」を作ることにより、若手社員の孤立を防いで、悩みを抱え込まない環境作りを目指します。
実際に新入社員の離職は、企業にとって長年の課題となっています。大学卒の就職後3年以内離職率は平成7年以降、3割以上で推移しており(平成21年を除く)、最新データ(2023年8月時)の平成31年3月卒業者の離職率も31.5%と改善は見られていません。
参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」
そんななかで離職防止のために求められるのが、人間関係の構築です。エン・ジャパンの調査では、「会社に伝えなかった本当の退職理由」として最も回答が多かったのが「職場の人間関係が悪い」となっており、企業側が把握している以上に人間関係と離職が深く結びついていることが窺えます。
参考:エン・ジャパン株式会社「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)「本当の退職理由」実態調査」
メンター制度が機能することで、離職率の低下に大きく寄与することでしょう。
メンター側のマネジメント経験
メンター制度には、メンターを務める社員にマネジメント経験を積ませる狙いもあります。
マネジメントは実際に部下を持つことでしか経験できず、通常は研修などを通じて間接的にスキルを高めていくしかありません。
その点でメンター制度は、業務以外のメンタル面を中心にサポートするため負担が軽く、メンティーには別に正式な上司がいるため、責任も分散されます。メンターは負担や責任が軽い状態で、マネジメント経験を積むことができるのです。
この経験は、いずれ管理職になって正式に部下を持つ際にも活きてくるでしょう。
社内コミュニケーションの活性化
メンター制度によって社内のコミュニケーションが活性化し、他部署との風通しを良くする効果が期待されます。
メンター制度では、他部署の先輩社員がメンターを務めるのが一般的です。通常であれば関わることがない他部署の同僚と交流を深めることで、社内間のコミュニケーションが活発化します。
もちろん、関係性はメンター・メンティーの期間が終わったあとも残るので、メンター制度を長く運用するほど交流が増え、社内の雰囲気が良くなっていきます。とくに社員数が多い企業や、他部署との交流が少ない企業など、閉鎖的な雰囲気を課題としている場合に効果を実感しやすいでしょう。
メンター制度導入の進め方
ここからは、メンター制度を導入する際の進め方について解説していきます。
運用ルールの制定
まずは、メンター制度の導入によって何を目指し、どのようなことを行うのかなどをまとめましょう。メンターに指導内容を任せきりにしてしまう場合がありますが、それだとメンターの負担が大きくなるばかりでなく、メンターによって成果のばらつきが大きくなる恐れがあります。
最初に決めておくべきなのが、実施期間や面談(メンタリング)の頻度などです。また、業務時間外の対応についてのルールを明確にしておくことも欠かせません。メンター制度の性質上、業務時間外に社外で相談が行われることが多々あります。社外での相談時の費用(飲食代など)についても規定を設けておくとよいでしょう。
メンターの選定とマッチング
次に、メンターの選定を行います。メンターを務めるためには、自身の仕事に慣れた状態で、社内での人間関係を構築している必要があるので、最低でも入社3年目以降の社員から選定しましょう。
なお、メンターは成績優秀者である必要はなく、傾聴力が高く、コミュニケーション能力に秀でた人材が優先されます。
また、メンターとメンティーをマッチングさせる際には、相性面も重要となります。内向的な若手社員に対して外向的な先輩社員をメンターとしても、悩みや不安への共感が得られず、適切なアドバイスを与えられない場合があるからです。
事前にメンター・メンティー双方にアンケートや聞き取りを実施して、マッチ度の高い組み合わせを検討しましょう。
事前研修
メンター・メンティー双方に対して事前研修を実施して、メンター制度のルールや注意事項などを説明しましょう。メンターに期待される役割や問題が生じた際の相談先、相談内容の守秘義務など、メンター・メンティーともに不安や疑問を抱かないよう準備を整えます。
経過観察
メンター制度が動き出したあとは、人事部などが主体となって経過観察を定期的に行います。
メンター制度は若い社員同士で進められる取り組みですので、メンティーだけでなく、メンターへのケアも重要になります。例えばメンターが自身のコミュニケーションに不安を抱いているようなら、コミュニケーション研修を受講させるといったサポートを行いましょう。
※コミュニケーション研修は「コミュニケーション研修とは 実施目的とその内容」で詳しく解説しています
関連記事:コミュニケーション研修とは 実施目的とその内容
また、双方が相性の悪さなどを実感している場合は、無理に改善を目指すのではなく、再マッチングを検討することも大切です。
効果測定と改善策の検討
メンター制度の期間が終了したら、効果測定と改善策の検討を行いましょう。ただ前提として、メンター制度は効果測定が難しい取り組みといえます。メンティーのメンタルケアやメンターのマネジメント能力の向上のように、定量化が難しい目標が多いためです。
短期的な効果測定については、メンター・メンティーの満足度や不満点などをアンケートで確認し、改善策の検討を行いましょう。長期的な効果測定では離職率などのデータを取り、メンター制度の導入以降で成果が表れているか確認するとよいでしょう。
※効果測定については「研修の効果測定 カークパトリックモデルやアンケートの活用法」で詳しく解説しています
関連記事:「研修の効果測定 カークパトリックモデルやアンケートの活用法」
まとめ
メンター制度は新入社員の職場での孤立を防いで定着率向上を目指すだけでなく、メンター側にマネジメント経験を積ませる狙いもあります。社内コミュニケーションの活性化にもつながるメリットも見逃せません。
導入にあたっては、制度の目的やルールを明確にしておき、メンター・メンティー双方が不安や疑問を抱かないよう研修などを行ったうえで取り組みましょう。また、経過観察と効果測定を怠らずに実施して、制度自体をブラッシュアップしていくことも大切です。
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