メンター制度とは 導入のメリットや進め方を解説

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メンター制度は、他部署の先輩社員が新入社員(若手社員)のサポート役となり、メンタルケアやアドバイスを行う取り組みです。新入社員の離職防止やメンター側のマネジメント経験といったメリットが期待され、導入する企業が増えています。

今回はメンター制度の概要とそのメリット、導入の進め方について解説していきます。

メンター制度とは

メンター制度は、厚生労働省の資料で以下のように定義されています。

「メンター制度とは、豊富な知識と職業経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティ)に対して行う個別支援活動です。キャリア形成上の課題解決を援助して個人の成長を支えるとともに、職場内での悩みや問題解決をサポートする役割を果たします」

引用:厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

多くの場合、メンター制度では他部署の先輩社員がサポート役となり、新入社員(若手社員)のメンタルケアなどを目的として対話やアドバイスを行います。これを人材育成手法で「メンタリング」と呼びます。

他部署の人材がメンターを務めることで「斜めの関係性」が構築され、上下関係や利害関係などに捕らわれずコミュニケーションを取れる効果があります。また、メンター制度は業務にまつわる指導ではなく、メンタルケアや組織生活におけるサポートを主たる目的とする取り組みとなります。

メンターとメンティー

メンター(mentor)には「師匠、指導者、支援者」といった意味があり、メンター制度における指導側を指します。メンターは入社5年目前後の社員が務める場合が多く、若手社員(新入社員)と比較的年齢の近い人材が選ばれます。

対して、指導を受ける側の社員のことはメンティー(mentee)と呼びます。

女性幹部育成のためのメンター制度

近年、メンター制度は女性幹部の育成を目的として運用される機会が増えています。この場合は、主に役職を持つ女性社員を対象として、社内の管理職や経営層、外部の有識者などがメンターを務めます。

例えば関西電力では、2023年10月より課長級の女性管理職を対象としたメンター制度を導入し、女性のキャリア形成などについてアドバイスを送る体制を整えています。

参考:読売新聞「女性幹部育成へ、企業で「メンター制」導入広がる…男性役員が面談・他社幹部が助言する仕組みも」

エルダー制度との違い

メンター制度によく似た制度として、エルダー制度が挙げられます。エルダー制度はOJT教育の一環であり、所属部署の先輩社員が指導を行う人材育成手法です。業務上のサポートが一番の目的であり、部署内での交流促進を狙う意味合いもあります。

つまり、エルダー制度は「同じ部署の先輩が業務上の指導を行う」のに対し、メンター制度では「他部署の先輩が精神的なケアを行う」という違いがあります。

なお、エルダー制度は企業によっては「ブラザー・シスター制度」と呼ばれることがありますが、内容に違いはありません。

メンター制度の目的とメリット

メンター制度の導入目的について、メンター制度で得られるメリットを交えて解説していきます。

新入社員の離職防止

メンター制度の最大の目的は、新入社員(若手社員)の離職防止です。社内に「気軽に相談できる先輩」を作ることによって若手社員の孤立を防ぎ、新人が悩みを溜め込まないようケアするための取り組みです。

実際に新入社員の離職は、企業にとって長年の課題となっています。大学卒の就職後3年以内離職率は平成7年以降3割以上で推移しており(平成21年を除く)、最新データ(2024年5月現在)の令和2年3月卒業者の離職率も32.3%と改善は見られていません。

参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」

そんななかで離職防止のために求められるのが、人間関係の構築です。エン・ジャパンの調査では、「会社に伝えなかった本当の退職理由」として最も回答が多かったのが「職場の人間関係が悪い」となっており、企業側が把握している以上に人間関係と離職が深く結びついていることが窺えます。

参考:エン・ジャパン株式会社「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)「本当の退職理由」実態調査」

メンター制度が機能すれば、離職率の低下に大きく寄与することでしょう。

メンター側のマネジメント経験

メンター制度には、メンターを務める社員にマネジメント経験を積ませる狙いもあります。マネジメントは実際に部下を持つことでしか経験できず、通常は研修などを通じて間接的にスキルを高めていくしかありません。

その点でメンター制度は、業務以外のメンタル面を中心にサポートするため負担が軽く、メンティーには別に正式な上司がいるため、責任も分散されます。メンターは負担や責任が軽い状態で、マネジメント経験を積むことができるのです。この経験は、いずれ管理職になって正式に部下を持つ際にも活きてくるでしょう。

社内コミュニケーションの活性化

メンター制度によって社内のコミュニケーションが活性化し、他部署との風通しを良くする効果が期待されます。

メンター制度では、他部署の先輩社員がメンターを務めるのが一般的です。通常であれば関わることがない他部署の同僚と交流を深めることで、社内間のコミュニケーションが活発化します。

もちろん、関係性はメンター・メンティーの期間が終わったあとも残るので、メンター制度を長く運用するほど交流が増え、社内の雰囲気が良くなっていきます。とくに社員数が多い企業や、他部署との交流が少ない企業など、閉鎖的な雰囲気を課題としている場合に効果を実感しやすいでしょう。

メンター制度のデメリット

メンター制度はメリットばかりでなく、いくつかのデメリットも存在します。ここでは代表的な3つの問題点について解説していきます。

メンターを務める社員の負担が増える

メンター制度のデメリットとして、メンターを務める社員の負担が増えることが挙げられます。多くの場合、メンターを務める社員は若手~中堅世代であり、初めてのマネジメント経験となります。通常業務に加えて新入社員のケアを行うわけですから、その負担は軽いものではありません。

メンターの通常業務の負担を軽くするなど、メンターへのケアを仕組み化しておくことが大切です。

メンターと所属部署の生産性が落ちる可能性がある

大切な新入社員を任せるくらいですから、メンターを務めるのは社内でも優秀な人材、若手有望株である場合が多いでしょう。こうした人材がメンターを務めて、通常業務に割く比率が減ってしまうことで、メンター自身と所属部署の生産性が落ちる可能性があります。

また、インセンティブ制度のような成果主義で評価制度を組んでいる場合は、さらに注意が必要です。メンター制度によって通常業務に割ける時間が減り、給与が減少してしまうと、メンターのモチベーションを大きく下げることになるからです。この問題に対しては、あらかじめ評価制度の見直しを実施しておき、メンターを務めることで不利益が生じないような体制を構築しておきましょう。

人によっては制度自体がストレスとなる

メンター・メンティー双方に生じるリスクとして、交流のない先輩(後輩)と面談を行うこと自体がストレスになる可能性があります。つまり、「斜めの関係性」が逆に負担となるわけです。

会社の指示で「この人と仲良くなってください」と言われても、そう上手くいくわけではないのが人間関係です。まして直属の上司や先輩のように毎日顔を合わせる環境がなければ、関係性も簡単には深まらないでしょう。

メンター制度の導入は経営層や人事部の独断で進めるのではなく、あらかじめ社内アンケートなどで「メンター制度を望むか」などを確認することも大切です。なお、社内アンケートの作り方については「アンケートの設問の作り方と回答率を上げるコツ」をあわせてご参照ください。

関連記事:「アンケートの設問の作り方と回答率を上げるコツ」

メンター制度導入の進め方

ここからは、メンター制度を導入する際の進め方について解説していきます。

運用ルールの制定

まずは、メンター制度の導入によって何を目指し、どのようなことを行うのかまとめましょう。メンター制度で失敗する企業の多くは、メンターを指名して定期的に面談を行うように指示するだけで、この運用ルールの制定をおざなりにしています。

メンターに指導内容を任せきりにすると、メンターの負担が大きくなるばかりでなく、属人化して成果のばらつきも大きくなります。投げっぱなしでは遠からず制度が形骸化し、単に社員の時間を奪うだけの取り組みとなってしまいます。

最初に決めておくべきなのが、実施期間や面談(メンタリング)の頻度などです。また、業務時間外の対応についてのルールを明確にしておくことも欠かせません。メンター制度の性質上、業務時間外に社外で相談が行われることが多々あるからです。社外での相談時の費用(飲食代など)についても規定を設けておくとよいでしょう。

なお、そのほかにもメンター制度の失敗につながる要因は多々あるため、この段階で共通認識を持っておくことが大切です。「メンター制度の失敗例を解説 成功につながる育成のポイントとは」でも詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。

関連記事:「メンター制度の失敗例を解説 成功につながる育成のポイントとは」

メンターの選定とマッチング

次に、メンターの選定を行います。メンターを務めるためには、自身の仕事に慣れた状態で、社内での人間関係を構築している必要があるので、最低でも入社3年目以降の社員から選定しましょう。

なお、メンターは成績優秀者である必要はなく、傾聴力が高く、コミュニケーション能力に秀でた人材が優先されます。

また、メンターとメンティーをマッチングさせる際には、相性面も重要となります。内向的な若手社員に対して外向的な先輩社員をメンターとしても、悩みや不安への共感が得られず、適切なアドバイスを与えられない場合があるからです。

事前にメンター・メンティー双方にアンケートや聞き取りを実施して、マッチ度の高い組み合わせを検討しましょう。

事前研修

メンター・メンティー双方に対して事前研修を実施して、メンター制度のルールや注意事項などを説明しましょう。メンターに期待される役割や問題が生じた際の相談先、相談内容の守秘義務など、メンター・メンティーともに不安や疑問を抱かないよう準備を整えます。

経過観察

メンター制度が動き出したあとは、人事部などが主体となって経過観察を定期的に行います。

メンター制度は若い社員同士で進められる取り組みですので、メンティーだけでなく、メンターへのケアも重要になります。例えばメンターが自身のコミュニケーションに不安を抱いているようなら、コミュニケーション研修を受講させるといったサポートを行いましょう。

また、双方が相性の悪さなどを実感している場合は、無理に改善を目指すのではなく、再マッチングを検討することも大切です。

効果測定と改善策の検討

メンター制度の期間が終了したら、効果測定と改善策の検討を行います。ただし前提として、メンター制度は効果測定が難しい取り組みであることを理解しておきましょう。例えば、メンティーのメンタルケアやメンターのマネジメント能力などは、定量化することが難しく、当人たちの主観に寄る部分が大きくなります。

短期的な効果測定については、メンター・メンティーの満足度や不満点などをアンケートで確認し、改善策の検討を行いましょう。長期的な効果測定では離職率などのデータを取り、メンター制度の導入以降で成果が表れているか確認するとよいでしょう。

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