1on1は、人材育成・マネジメントの一環として行われる、上司と部下の定期的な個人面談です。
その目的としては「主体性・自律性の向上」「離職率の低下」「評価の納得性の向上」「コミュニケーション活性」などが挙げられ、多くの企業で導入が進んでいます。ただその一方で「話すことがない」と、社員のあいだでは不評になりがちという側面もあります。
今回は、1on1の目的や導入の流れ、テーマ(話すべきこと)などについて解説していきます。
1on1とは
1on1とは、上司と部下によって定期的に実施される面談のことで、人材育成・マネジメントの一環として実施されます。
面談は従来の日本企業でも人事評価などを目的として、1年に1回ほど実施されてきました。対して1on1は「週に1回、月に1回」と短い間隔で、定期的に行うという特徴があります。また、従来の面談は「人事考課」の意味合いが強いですが、1on1は「人材育成」が主な狙いとなる点も大きな違いといえるでしょう。
なお、1on1は必ずしも直属の上司が行うとは限らず、人事部やメンターが務める場合もあります。
1on1の目的
リクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、1on1ミーティングの導入目的として以下のような理由が挙げられています。
・社員の主体性・自律性の向上 52.5%
・自律的キャリア形成の支援 41.5%
・評価の納得性の向上 30.9%
・エンゲージメントの向上 29.3%
・離職率の低下 24.9%
参考:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「1on1ミーティング導入の実態調査」
ここでは、それぞれの項目について深掘りして解説していきます。
社員の自律性の向上とその支援
1on1の導入目的として最も重要視されているのが、社員の自律性の向上と、自律的なキャリア形成です。自律的なキャリア形成とは、自身のキャリア構築について主体的に考え、環境変化に惑わされず、継続的に学習に取り組むことです。
1on1によってキャリアの方向性を整理できれば、自身が受け持つ業務とキャリア形成が直結し、仕事に対しても意欲的になれます。結果、企業側にも生産性の向上という恩恵がもたらされるでしょう。
また、こうした指導は部下だけでなく、上司側の成長を促す意味合いもあります。部下に対して定期的なフィードバックを行うことにより、マネジメント能力の向上が期待されるためです。
評価の納得性の向上
1on1は人事評価の納得感を上げる目的でも実施されます。「自分の働きが評価されていない」と感じれば、当然ながらモチベーションが低下します。さらに不満が募ると「この会社では正当な評価が得られない」と判断され、離職へとつながってしまうでしょう。
1on1によって評価の根拠や今後の改善点などを丁寧に伝えることで評価の納得性が高まり、離職リスクなどを防ぐことにつながるのです。
エンゲージメント向上・離職率低下
1on1を通して部下の悩みや不満を解消して信頼関係を構築すれば、エンゲージメントも向上して離職率も自ずと低下していきます。
1on1の内容は業務に限らず、プライベートなことを話題にする場合もあります。価値観を共有して相互理解を深めていけば、社員のエンゲージメントも高まっていくでしょう。上司と部下の連携が強まれば、組織全体の生産性向上も期待できます。
コミュニケーション活性
1on1には、社員間のコミュニケーションを活性化させる狙いもあります。前述の調査でも「リモートワーク環境におけるコミュニケーション活性」に17.4%の回答が集まっており、新型コロナウイルスの感染拡大以降、1on1によるコミュニケーション活性化の重要度は増しています。
リモートワークが推進されることで業務中のコミュニケーションが減少するだけでなく、コロナ禍以降は飲み会などの業務外コミュニケーションも控えられるようになりました。業務として1on1を導入しないと、社員間のコミュニケーションがほとんど行われない職場(環境)になりがちです。
1on1はこうした状況を解消するために効果的で、情報共有や進捗確認の意味でも重要性が高まっています。
1on1導入の流れ・進め方
1on1を導入する際の流れ、進め方について解説していきます。
1on1導入の意図・目的を周知する
まずは1on1を導入するにあたり、その意図や目的を社内に周知する必要があります。
多くの企業で1on1の導入が進む現在、ほとんどのビジネスパーソンが1on1の概要程度は理解しているでしょう。しかし、その目的が人材育成やキャリア支援などであり、社員側にメリットのある取り組みであることはあまり理解されていない可能性があります。
社員が積極的かつ主体的に1on1に取り組むよう、定期的な周知を怠らないようにしましょう。
実施周期を決める
1on1を導入する際、事前にルールとして実施周期を定めておきましょう。個人の裁量に任せていると通常業務が優先されてしまい、1on1制度が形骸化する恐れがあるためです。
ただ、画一的に「隔週◯曜日」と定めてしまうと、繁忙期などは1on1が負担になる可能性もあるため、「月に2回、1回につき30分以内」といった具合に柔軟性を持たせておくのもよいでしょう。
1on1の実施
目的の周知と実施周期などのルールを整えたら、実際に1on1を実施していきます。1on1を効果的な取り組みにするためには、以下のような段取りが重要となります。
・事前準備
・アイスブレイク
・本題
・クロージング
とくに事前準備が重要で、あらかじめテーマや目標などを設定しておけば無駄のない進行となるでしょう。
記録を残す
1on1の最中はメモを取り、内容を記録として残しておくことをおすすめします。議事録のように書式を整える必要はなく、要点をまとめた箇条書きでも問題ありません。
記録を残すことで毎回の1on1に連続性ができ、内容の透明化にもつながります。課題解決の進捗確認や認識の相違を防ぐ意味合いもあるので、共用フォルダなどで管理するとよいでしょう。
1on1のテーマ(話すこと)の例
1on1を導入すると、少なからず社員から「話すことがない」という意見が上がります。せっかく制度を導入しても、会話が盛り上がらないままでは意味がありません。ここでは、1on1の目標達成につながるテーマについて解説します。
業務で感じている不安や悩み
まず1on1のテーマとして取り扱うべきなのが、業務のなかで感じている不安や悩みです。とくに、急を要するものではないが「いつか言おう」と思っていた問題や要望などをくみ取る良い機会となります。
1on1中は「残業時間や業務量を負担に感じていないか」「モチベーションが下がるのはどんな仕事か」といった質問を振り、現在の業務状況について話しやすくなるよう配慮するとよいでしょう。
人間関係の悩み
1on1で仕事上の人間関係の悩みをくみ取ることは、定着率の改善を目指すうえで重要なポイントとなります。
ただ、人間関係の悩みを打ち明けるには、それなりの信頼関係が必要となります。ある程度1on1の回数を重ねたうえで、上司側からそれとなく切り出してみるとよいでしょう。
キャリアについて
1on1で部下のキャリアプランや、働くうえでの目標を確認するのもおすすめです。これらの情報は、仕事の割り振りや配置転換を行ううえで重要な情報になります。
また、部下のキャリアプランが漠然としている場合は、1on1を通じてキャリア形成について考えるきっかけを与えることも大切です。日々の仕事を漫然とこなすよりも、明確な目標に向かっていったほうがモチベーションも向上します。
業務改善・組織改善
1on1を通して、業務改善・組織改善のヒントを得ることも大切です。ただ、いきなり「業務改善・組織改善」と言っても難しく受け取られてしまいます。「うちの会社(部署)でここが変と思うところはある?」といった具合に、軽く水を向けるとよいでしょう。
1on1から社員が不満に思っていることが改善されていけば、やがて定着率の向上にもつながっていきます。
プライベート
1on1では相互理解を深めるために、趣味や休日の過ごし方などプライベートな話題を取り上げることがあります。
ただ、「公私は分けたい」「プライベートなことは話したくない」という考えを持つ社員も少なくありません。話すことがないからと安易にプライベートの話題を振ると、逆に信頼を損ねる可能性もあるので注意しましょう。
効果的な1on1にするための4つのポイント
最後に、1on1をより効果的な取り組みにするために必要な4つのポイントをお伝えします。
コーチング
1on1の基本は、コーチングです。コーチングとは、対象者の成長やモチベーションの向上を促しながら、目標達成に向けてサポートを行う育成手法のことです。
コーチングは「双方向」「個別対応」「現在進行」の3原則から成り立っており、これを実践することで育成対象者が「主体的な人材」として成長していくことが期待されます。1on1を導入する際は、上司側にコーチング研修を受講してもらうとよいでしょう。
コーチングの身につけ方や研修の内容については「コーチング研修とは 実施する目的とその内容」で詳しく解説しています。
関連記事:「コーチング研修とは 実施する目的とその内容」
アサーティブコミュニケーション
より良い1on1を実現させるためには、アサーティブコミュニケーションが欠かせません。アサーティブコミュニケーションとは、相手の意見や気持ちを尊重しつつ、自身の主張を伝える手法です。
1on1の主体は部下です。上司が一方的に話をするような1on1では、部下にとって苦痛な取り組みになる恐れがあります。アサーティブコミュニケーションの柱である「誠実・対等・率直・自己責任」を意識すれば、自然と1on1の質が上がっていくでしょう。
アサーティブコミュニケーションの実践については「アサーティブコミュニケーションとDESC法による実践」で詳しく解説しています。
関連記事:「アサーティブコミュニケーションとDESC法による実践」
メンター制度
1on1は直属の上司以外にも、メンターが担当する場合もあります。ここでのメンターとは、メンター制度における指導者のことです。
メンター制度では、他部署の先輩社員が若手社員のサポート役となり、メンタルケアやアドバイスなどを行います。とくに部署内の人間関係などは、直属の上司には打ち明けにくいものです。その点、他部署のメンターになら話せることもあるでしょう。
1on1とメンター制度は非常に相性の良い施策ですので、合わせて導入を検討してみるとよいでしょう。
メンター制度については「メンター制度とは メリットや導入の進め方を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「メンター制度とは 導入のメリットや進め方を解説」
1on1研修
1on1研修は、1on1をより効果的な施策とするために、主に上司側に知識やスキルの取得を促す取り組みです。
1on1の実施に特別な設備やツールは必要ありません。しかし裏を返せば、1on1の効果を高めるための近道はなく、上司側のスキルを上げる以外に方法はないということです。これは上司のマネジメント能力やコミュニケーション力によって、1on1の内容に差が出やすいという「属人化」の問題にもつながります。
こうした問題を踏まえると、1on1研修を実施する意義は大きいといえるでしょう。なお1on1研修については「1on1研修とは 効果や内容を解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「1on1研修とは 効果や内容を解説」
まとめ
1on1の目的には「主体性・自律性の向上」「離職率の低下」「評価の納得性の向上」「コミュニケーション活性」などが挙げられます。人材の流動化や働き方の多様化が加速するなかで、1on1の導入の意義はより高まっていくといえるでしょう。
一方で1on1制度を導入しても、「話すことがない」と活用されないこともしばしばです。1on1を目標達成につなげるためには、話すべきテーマについても考えていく必要があります。
また、より良い1on1を実現するためには、コーチングやアサーティブコミュニケーションが欠かせません。事前に研修を通じて、上司側のスキルを高めておくことも大切な準備となります。
1on1の質は「ビジネス数学研修」で上げる
1on1で部下との意思疎通がうまくいかないとお悩みでしたら、コミュニケーションのなかに数字やデータを用いてみましょう。数字を示すことで抽象的な表現が減り、共通認識が得られやすくなります。
例えば、部下の目標設定をサポートする際も、数的な根拠があれば納得感が増しますし、定量的な目標値を提示できればお互いの認識にズレがなくなります。
「ビジネス数学」というとテクニカルスキルが連想されがちですが、弊社オルデナール・コンサルティングでは、こうした「数字を用いたコミュニケーション」を身につけることに重きを置いています。 「なかなか1on1の成果が上がらない」とお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご検討ください。
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