スキルの可視化とは メリットや可視化の方法を解説

#おすすめ記事#分析力#教育担当者向け#管理職向け#若手向け

スキルの可視化とは、従業員が持つスキルを体系的に整理し、明確な基準(レベル)を設けて誰が見てもわかりやすい状態にする取り組みです。

これにより「人材育成の方向性の明確化」「効果的な人員配置の実現」「公正な人事評価」などのメリットが得られ、「人的資本経営」の広まりもあって各企業が取り組みを進めています。

今回はスキルの可視化をテーマに、そのメリットや可視化の方法、取り組みのポイントについて解説していきます。

スキルの可視化とは

スキルの可視化とは、従業員が持つスキルを誰が見てもわかりやすい状態にする取り組みです。スキルのなかにはコミュニケーション能力やリーダーシップのように、客観的に計測しにくいものが数多くあります。こうしたスキルを管理職等の個人の裁量で評価していると基準が統一されず、人材育成や人員配置にムラ・ムダが生じてしまいます。

そのため、従業員それぞれが持つスキルを体系的に整理し、明確な基準(レベル)を設けて組織全体で共有する取り組みが必要となるわけです。

さらに、こうした動きを後押しする背景として「人的資本経営」の広まりが挙げられます。人的資本経営とは、人材を資本として捉えて、その価値を最大限に引き出すことを目指す経営手法です。2020年に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート(『持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会』の最終報告書)」によってその重要性が示されたことから、急速に関心が高まっています。

また、現在は有価証券報告書を発行する大手企業に限定されていますが、2023年3月決算以降より人的資本の情報開示の義務化も始まっており、スキルの可視化はステークホルダーに企業価値を示すうえでも欠かせない取り組みとなっています。

スキルを可視化することによるメリット

スキルを可視化することにより「人材育成の方向性の明確化」「効果的な人員配置の実現」「公正な人事評価」「スキルベース型組織の構築」などのメリットが得られます。それぞれ解説していきましょう。

人材育成の方向性の明確になる

スキルを可視化するメリットとして、人材育成の方向性が明確になることが挙げられます。

人材の強み・弱みが明確になることで「なぜその研修を行うのか」の根拠がはっきりと示され、効率的に人材育成を施すことができます。本人から見ても育成計画に納得感を持てるので、モチベーションの向上にもつながるでしょう。

効果的な人員配置の実現

効果的な人員配置の実現も、スキルを可視化する大きなメリットといえます。

人材の強みや実務経験、性格などを可視化して全社的に共有することにより、大局的に適材適所の配置を行うことができます。これにより、離職や休職などによって突然ポジションに空きが出てしまったときなども対応しやすくなるでしょう。

また、従業員にとっても自分の能力や個性を活かす機会が増えるので、仕事に対してやりがいを感じやすくなることもメリットとなります。

公正な人事評価

スキルの可視化は公正な人事評価にもつながります。「それまで見逃されていた定性的なスキルが認められる」「主観で左右されがちだったスキルに基準ができる」など、評価基準がより明確になることで、評価の公平性が向上するでしょう。

スキルベース型組織の構築

近年になって注目されるようになったメリットとして、スキルベース型組織の構築が挙げられます。

スキルベース型組織とは「スキルを起点として構築・運営される組織」のことです。現在、世界的に「ジョブ型雇用では深刻な人手不足に対応できない(求める人材を採用できない)」という問題に直面しており、その対応策として社内の人材のスキルを起点として運営される「スキルベース型組織」への関心が高まっているわけです。

スキルベース型組織では、社内の職務をタスクにまで分解し、それぞれのタスクで必要となるスキルと従業員が持つスキルでマッチングを図ります。これを実現するために、従業員のスキルの可視化の取り組みが必要となるわけです。なお、スキルベース組織については「スキルベース組織とは ジョブ型との違いやメリットを解説」で詳しく解説しています。

スキルを可視化する方法

代表的なスキルの可視化の方法として「スキルマップ」の作成が挙げられます。スキルマップとは「従業員のスキルとその習熟度をまとめた一覧表」のことで、ここではスキルマップを軸としたスキル可視化の流れについて解説していきます。

スキルの洗い出し

最初のステップは、スキルの洗い出しです。具体的には、社内に存在する職務に対して必要となるスキルを可視化していきます。例えば営業職であれば、コミュニケーション能力や課題発見力、プレゼン力といった具合に、職務遂行のために必要となるスキルを洗い出してきましょう。

なお、スキルの洗い出しは、現場の責任者か成績優秀者(ハイパフォーマー)の確認のもとで進めることが大切です。

スキルの分類・体系化

スキルの洗い出しが終わったら、スキルの分類・体系化を行いましょう。スキルは関連性の高さでまとめていき、一般的には「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」で分類するのがわかりやすいでしょう。

・テクニカルスキル

業務遂行のために必要となる専門知識や技術。

・ヒューマンスキル

良好なコミュニケーションや、人間関係を築くための力。

・コンセプチュアルスキル

物事の本質を見抜く力。概念化能力とも呼ばれる。

これに加えて、実務経験や研修の受講履歴、所持している資格などを可視化しておくと、効果的に人材育成や人員配置を進めることができるでしょう。

スキルの基準(レベル)の設定

スキルの分類・体系化が済んだら、それぞれのスキルについて基準(レベル)を設定していきます。

例えば「プレゼンテーション能力」と一口に言っても「一人で資料作成から発表までできる」「○回以上の成功経験があり、後輩への指導もできる」などの段階があります。

各スキルについて「○○ができればレベル1」といった基準を定義し、誰が見ても評価のズレが生じないようにすることが大切です。なお、スキルの段階を細分化し過ぎるとスキルマップが煩雑になってしまうため、多くとも5段階程度で設定しましょう。

実際に従業員のスキルを当てはめてみる

スキルの基準を設定できたら、実際に従業員のスキルを当てはめてみましょう。この段階で「部下のスキルを正確に評価できているか」などの意見を募り、項目の追加や基準の見直しなどのブラッシュアップを行います。

定期的に更新する

スキルマップは完成後も定期的に見直しと更新が必要になります。従業員の成長を反映することはもちろんですが、業界によっては日進月歩で求められるスキルも移り変わっていくからです。

スキルを可視化する際のポイント

最後に、スキルを可視化する際のポイントをお伝えします。

経営理念に基づいた可視化

とくに人材育成を目的としてスキルの可視化に取り組む場合、経営理念や将来のビジョンに基づいてスキルの定義・設定を進めることがポイントとなります。

従業員が「求めている人物像」にどれだけ近づけているかを確認できるよう、スキルを可視化するわけです。なお、人材育成を目的としたスキルマップの作成方法については「人材育成を加速させるスキルマップとは」でも解説しています。

管理・記録の方法を検討する

可視化したスキルをどのように管理・記録するか検討することも非常に大切です。

例えば、コストをかけずに始められるのがエクセルによる管理です。縦軸に従業員の名前、横軸にスキル名を配置してそれぞれのレベルを記入していけば、簡易的なスキルマップはすぐにでも作成できるでしょう。

また、スキルマップやタレントマネジメントの専用ツールを活用すれば、データの分析や更新作業の効率化などのメリットが得られます。

スキル可視化の目的や従業員数、予算などを踏まえて、最適な管理・記録の方法を選択しましょう。

スキルの可視化に欠かせない「数字力」

スキルの基準(レベル)を考える際には、評価者の主観に左右されない基準を設定することが大切です。例えば「クライアントからの信頼を得ている」という項目を設ける場合、「何をもって信頼とするか」を主観に左右されないかたちで示さなければいけません。具体的には「リピート率○%以上」など、定量的な基準を設けることが効果的でしょう。

ただ、ビジネスパーソンのなかには「数字に対する苦手意識」を持つ方も少なくありません。例えば、数字を扱うことが苦手な人のなかには「正確に基準値を設定しなければいけない」とこだわり過ぎてしまう人がいます。これでは、なかなかスキルの可視化が進みません。

実際「リピート率○%以上」といった基準について、いきなり適正値を導き出すことは困難でしょう。こうした数値はスキルマップを運用し、微調整を繰り返していくことでしか導き出せません。スキル設定の段階では手元のデータなどを参考にして、ざっくりと数字を導き出すことも必要なのです。

こうした「ビジネスシーンで求められる数字力」の育成を目的としているのが、弊社オルデナール・コンサルティング合同会社が提供する「ビジネス数学研修」です。数字力が上がれば、納得感の高い基準値を素早く設定できるようになり、スキルの可視化の取り組みも効率的に進めることができるでしょう。

プログラムは受講者のレベルに合わせて「入門編」から「実践編」の4段階でご用意しておりますので、数字に対する苦手意識の克服から、数字を活用した意思決定まで、それぞれのレベルに合わせてステップアップしていくことができます。

スキルの可視化にあたって「納得感のある基準値が設定できない」「せっかくスキルマップを作成したのに、データとアクションが結びつかない」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修プログラムをご検討ください。