社員のスキルアップを目指して、ビジネススキル研修の導入を検討する企業は少なくありません。しかし、そもそもビジネススキル研修にどのような種類があり、どういった内容で実施されるかを把握できているでしょうか。
今回は「カッツ理論」によるビジネススキルの分類を踏まえたうえで、ビジネススキル研修の目的と内容、種類などについて解説していきます。
ビジネススキル研修とは
ビジネススキル研修とは、業務を行うにあたって必要となるスキルの習得・向上を目指して実施する研修のことです。
この定義からもわかるように、従事する業務によって必要となるスキルは異なるため、ビジネススキル研修の範囲は非常に幅広くなります。そのため、自社の置かれている状況や社員が抱える課題などから、適切な内容の研修を選択する必要があります。
「カッツ理論」によるビジネススキルの分類
ビジネススキルとは、具体的にどのような能力を指すのでしょうか。ここでは、ビジネススキルの分類として代表的な「カッツ理論」をもとに解説します。
カッツ理論は、アメリカの経営学者ロバート・カッツによって1955年に提唱されました。同理論は管理職に必要な能力を「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類したもので、ビジネスに必要なスキルを明快に示しています。
テクニカルスキル
テクニカルスキルは業務遂行能力と訳され、職務遂行のために必要な専門知識や技術を指します。テクニカルスキルはさらに、以下の3つのスキルに分類されます。
・汎用スキル
職場を問わず、広く社会人の基礎とされる能力。
・専門スキル
職域ごとに特化した、専門的に業務を担うために必要となる能力。
・特化スキル
職人と呼ばれるような、業界のなかでも希少性の高い能力。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルはビジネスを円滑に進めるため、人間関係の構築やより良いコミュニケーションを実現する能力です。ヒューマンスキルもさらに細分化でき、様々な要素によって構成されています。
〈ヒューマンスキルを構成する要素の例〉
・コミュニケーション能力
・ネゴシエーション能力
・リーダーシップ能力
・ヒアリング能力
・コーチング能力
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルは概念化能力と訳され、情報や状況などを分析することによって、物事の本質を理解する能力です。
コンセプチュアルスキルも様々な能力に細分化でき、代表的なビジネススキル研修のひとつである「ロジカルシンキング」もコンセプチュアルスキルに含まれます。
〈コンセプチュアルスキルを構成する要素の例〉
・ロジカルシンキング
・クリティカルシンキング
・ラテラルシンキング
ビジネススキル研修の目的と内容
ビジネススキル研修の目的・内容は幅広く、得られる効果もそれぞれ異なります。ここでは、ビジネススキル研修の代表的な目的と効果について解説していきます。
社員それぞれに見合ったスキルアップ
ビジネススキル研修によって、社員それぞれに見合ったスキルアップがもたらされます。
社員の階層や職域によって、求められるスキルや抱えている課題は異なります。部下との関係に悩む管理職に向けた「コミュニケーション研修」、提案力に不安を抱える営業職に向けた「プレゼンテーション研修」など、社員それぞれに適切な研修を実施することで、階層・職務に見合った能力を身につけることができます。結果的に、企業としての生産性向上へとつながるでしょう。
効率的な業務の進行
ビジネススキル研修を通じて有用性の高い能力を身につければ、業務の進行がより効率的になります。この効果は、専門的なスキルに限りません。データや資料を読み解く力など、社会人として広く役立つスキルを取得することでももたらされます。
とくにOJTでの取得が難しいスキル・経験について研修を実施することで、よりビジネススキル研修の価値が高まるでしょう。
人材流出の阻止
ビジネススキル研修を実施することによって、成長実感や役割意識が高まり、エンゲージメント向上による離職防止効果が期待されます。
実際に社員に対して教育・研修を実施する理由として、離職防止は主要な目的となっています。小規模な調査ではありますが、中小企業経営者を対象とした調査で「社員教育・研修の重要度が高まっている理由」を尋ねたところ、「社員の離職を防ぎ、エンゲージメントを向上させるため」が最も多い回答(59.8%)を集めています。
参考:株式会社給与アップ研究所「社員教育の課題に関する実態調査」
ビジネススキル研修の種類
ビジネススキル研修にはどのような種類があるのかを知ることで、よりイメージが湧きやすくなるでしょう。ここでは、代表的なビジネススキル研修について簡単に紹介していきます。
Excel研修
広くビジネスシーンで活用されるExcelですが、社員のあいだでスキルや知識の差が広がりやすいツールでもあります。Excelが苦手な人なら「引き継いだファイルで関数が組まれており、怖くて触れない」といった経験をしたことがあるかもしれません。その一方で、Excelは業務範囲の高度化・複雑化が進んでいます。
ショートカットや関数を活用することで作業効率が一気に上がるため、成果が目に見えやすい研修のひとつです。
ロジカルシンキング研修
ロジカルシンキング研修では、物事をわかりやすく伝える思考法や伝え方を学んでいきます。
ロジカルシンキングと聞くと、縁遠く感じるかもしれません。しかし、「上司や顧客を納得させる能力」「新人に対してわかりやすく課題を伝える能力」といえば、身近なスキルに感じられるでしょう。
日々のあらゆる仕事と密接に関わることから、社員の階層を問わず求められる研修です。
ロジカルシンキング研修については「ロジカルシンキング研修とは 実施の目的と学ぶべき内容」で詳しく解説しています。
関連記事:ロジカルシンキング研修とは 実施の目的と学ぶべき内容
問題解決力研修
顧客からの相談や売上目標の達成など、多くのビジネスの本質は「なんらかの問題を解決すること」と言い換えることができます。つまり、問題解決力は多くのビジネスパーソンに求められる能力なのです。
原因の特定や解決策の考案など、問題解決のプロセスを学ぶことで、業務改善につながることが期待されます。
効果的なビジネススキル研修にするための3つのポイント
効果的なビジネススキル研修にするためのポイントを3つに厳選してご紹介します。
研修の目的を明確にする
効果的なビジネススキル研修にするためには、目的を明確にする必要があります。慣例的に研修を実施しており、目的が形骸化している企業も少なくありません。
「実務につながらない」「社員の悩みにマッチしていない」といった研修では、社員に当事者意識が芽生えず、なかなか効果は上がりません。
ビジネススキル研修を検討する際には、対象者の階層や業務の特徴などを踏まえて、どんなスキルを身につけてもらい、どの程度の成果を期待するのか整理しましょう。
演習のある研修先を選ぶ
効果の上がらない研修の特徴として、座学で知識ばかりを詰め込み、実務につながらないことが挙げられます。外部の研修先に委託する際は、演習が実施され、実務への活用が想定されたプログラムであるか確認しましょう。
学んだ知識が具体的にどのようなシチュエーションで活用でき、どのような成果が得られるかイメージできなければ、研修は実を結びません。
研修後に社員からフィードバックを得る
研修を実施したあとは、必ず社員からフィードバックを得ましょう。まずは参加者に対して、「研修の効果を体感できているか」「研修の質に問題はなかったか」など、主観的に研修の成果を確認します。
また、フィードバックは参加者の上司からも得る必要があります。研修後の様子から「課題は改善されたか」「期待した成長感は得られているか」などを確認しましょう。
ただし、研修はすぐに効果が実感できるものばかりではありません。研修の効果の実感は、数週間から一ヶ月ほど空けてから確認することをおすすめします。
なお、研修後のフィードバックを得るにはアンケートが必要となります。「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」も合わせて参考にしてみてください。
関連記事:「研修後のアンケートに必要な質問例や項目」
まとめ
ビジネススキル研修の範囲は幅広く、社員それぞれの階層や状況にあった内容で実施する必要があります。研修の内容によっても目的・効果は異なりますが、総じて「業務進行の効率化」や「離職防止効果」などが期待されます。
効果的なビジネススキル研修を実施するためには、どのような研修があるのか種類と内容を把握し、研修の目的を明確にしたうえで実施するよう心がけましょう。
「ビジネス数学」はビジネススキルと密接に関わる
ビジネススキル研修のなかでも人気が高まっているのが、「ビジネス数学」です。
ビジネススキルと数学がなぜ結びつくのか疑問に思うかもしれません。けれど、日々の仕事のなかにも数字は溢れています。例えば、会議資料のデータから素早くポイントを把握し、理路整然と伝えることができる人に対して「数字に強いなぁ」と感じたことはないでしょうか。
こうしたデータの把握や論理的思考は、ロジカルシンキング研修をはじめとした様々なビジネススキル研修で目標にされることであり、広くビジネスシーンで求められる能力です。
また、数字やデータを上手く扱えると、コミュニケーションも円滑となります。数字は感情に左右されない共通認識であり、上司やクライアントへの報告も数字を交えることで納得感が上がっていきます。これもコミュニケーション研修で目標にされる「円滑なコミュニケーション」です。
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