越境学習とは 具体的な方法やメリット・デメリットを解説
越境学習とは、所属している企業(組織)から離れて、別の環境で学びを深めていく取り組みです。社内にない知見の獲得や離職防止、リーダー候補の育成といった効果が期待され、VUCA時代に即した人材育成方法として注目されています。
今回は、越境学習の概要を解説したうえで、具体的な種類・方法やメリット・デメリットについて解説していきます。
越境学習とは
越境学習について、経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成」では、以下のように定義しています。
「越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶこと」
また、法政大学大学院の石山恒貴教授によれば、越境学習は「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」と定義されています。
参考:経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成」
つまり越境学習は、所属している企業(組織)から離れて、別の環境で学びを深めていく取り組み全般を指し、グループ会社への出向や社会人大学院への進学、副業など様々な方法が挙げられます。
研修における越境学習
越境学習は、研修の効果を上げる手法としても注目されています。通常、研修は社内の人員のみで行いますが、所属する組織の枠を「越境」して他企業とともに合同で研修を実施することで、新たな知見やノウハウと出会うチャンスになるわけです。
とくにディスカッションやグループワークといった実践的なプログラムと越境学習を組み合わせると効果的で、コミュニケーション能力の成長も期待できます。
越境学習への関心が高まる背景
越境学習への関心が高まっている背景は様々ですが、掘り下げれば「VUCA時代を迎えていること」に集約できるでしょう。
※VUCA:変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字からなる、未来予測が困難な現代の状況を表す言葉。
不確実で絶え間なく変化する環境であっても、企業は業績を上げ続けなければいけません。そのためには、事業の発展や変革を担うことができる優秀な人材が必要です。しかし、こうした人材の育成は難しく、しかも人材の流動化が進む現在においては、せっかく育てた人材が流出してしまう恐れもあります。
こうした難題を解決する方法として注目されるのが、越境学習です。実際に経済産業省による実証事業では、プログラム参加者は「自分自身の軸を再発見し、不確実で変化の激しい時代を切り拓くリーダーとしての成長を実感することができた」とされます。
越境学習の種類・方法
越境学習には具体的にどのような種類・方法があるのか解説していきます。
ビジネススクール・社会人大学院
越境学習の代表例として、ビジネススクールや社会人大学院、社会人向け講座での学び直しが挙げられます。
最大のメリットは、OJTでは獲得できない専門的な知識やスキルを取得できることで、直接的に社員の能力を伸ばす方法となります。また、中長期的に受講するビジネススクールや社会人大学院は他業種のビジネスパーソンと出会う機会にもなるため、知見やキャリア観が広がるきっかけになるでしょう。
プロボノ
プロボノとは、職業上のスキルや経験を活かして、社会貢献活動に取り組むことです。具体例としては、地域でプログラミング講座を開催したり、自社事業にまつわる無償の相談会を開いたりといった活動が挙げられます。
越境学習としての効果は、自身のスキルや経験を普段と異なる方法で発揮できる点にあります。例えば、講師を務めれば「人にわかりやすく伝える力」が養われ、マネジメント能力を伸ばす良い機会となるでしょう。
企業にとっての社会貢献活動にもなるため、メリットの多い方法といえます。
グループ会社への出向・異動
グループ会社への出向や異動を越境学習として実施する場合があります。
長く同じ職場にいると「自分の置かれている環境が当然」と盲目的になりがちです。そこで子会社やグループ会社へ出向させることで、自身のキャリアを客観的に振り返るきっかけとなります。また、本社とグループ会社のインフラや就業環境を比較することで、設備投資の重要性などの気付きを得られることもあるでしょう。
副業
社員の副業を認可するのも、越境学習の一環となります。副業によって自社の事業とは異なる仕事を経験することで、新たなスキルや人脈の獲得につながるからです。また、自身の力で仕事を得るという体験をすることで、ビジネスの捉え方が広がることも期待されます。
企業としては本業に支障をきたさないよう管理することが求められますが、越境学習の方法としては金銭的コストを割かずに実施できるメリットがあります。
ワーケーション
ワーケーションは「ワーク」と「バケーション」から成る造語で、オフィスや自宅以外の土地で休暇を兼ねて仕事を行うことです。慣れた環境を離れて就業するという意味で、ワーケーションを越境学習に数える場合があります。
ただ、ワーケーションはリフレッシュやモチベーションの向上を目的に実施されるもので、取り組み自体に特別な学習効果はありません。
ワーケーションを人材育成の一環として実施するのであれば、地域振興への参画や、地元企業への営業活動などをミッションとする必要があるでしょう。
越境学習で得られるメリット
越境学習を導入・推進することで、具体的にどのようなメリットが得られるのか解説していきます。
社内にない知見やノウハウの獲得
越境学習を経験することにより、社内にはない知見やノウハウを獲得できます。
「普段の職務とは異なる仕事に携わる」「外部の専門機関で学び直しをする」といった取り組みは、社員にとって通常では得られない成長機会となります。社員が新たな知見やノウハウを持ち帰れば、社内でイノベーションが生まれるきっかけになるでしょう。
離職防止効果
越境学習を導入することで、離職防止の効果も期待できます。多くのビジネスパーソンは「今の人間関係から離れたい」「異なる環境で自分の力を試したい」といった考えを一度は持つと思いますが、企業からすればこうした願望は離職リスクにつながります。
その点で越境学習は、会社に籍を置いたまま環境変化や挑戦を叶えられる施策となります。会社の制度としてこうした機会を提供できるようになれば、従業員満足度の向上にもつながり、ひいては離職リスクも低減できるでしょう。
キャリア形成の促進・リーダー候補の育成
越境学習によって他社のビジネスパーソンとの交流や普段とは異なる業務を体験することにより、社員のキャリア形成が促進されます。こうした経験はビジネスの捉え方を多角的にしてくれるので、リーダーとしての素養も磨かれていくことでしょう。ただ、新たな環境を知ることで離職リスクを高める側面もあるので注意が必要です。
また逆説的ですが、グループ会社や副業での体験を通じて「やはり自分は今の仕事(職場)が合っている」と再認識すれば、以前よりも高いモチベーションで仕事に打ち込むことが期待できます。
越境学習のデメリットや注意点
越境学習の推進にあたっては、いくつかのデメリットや注意点があります。
人的・金銭的コストが発生する
越境学習の実施にあたっては、少なからず人的または金銭的コストが発生します。例えばビジネススクールであれば金銭的コスト、副業であれば労務管理による人的コストなど、何らかのコストが必要となります。プロボノや出向のように、対象者が自社から離れることで生産性が低下することもコストとして計算しておく必要があるでしょう。
越境学習の種類・方法によって発生するコストは異なるため、実施にあたっては事前に許容できるコストを計算しておきましょう。
越境学習を望まない人材もいる
越境学習は、すべての人材に受け入れられる取り組みではありません。とくに別会社への出向は生活環境にも変化が出てしまう場合が多く、越境学習自体が離職の原因になる恐れもあります。
基本的に越境学習は立候補・公募制として、自発的に取り組む社員を対象とした施策とするべきでしょう。
まとめ
越境学習はその種類・方法によって内容が全く異なり、実施期間や発生するコストなどにも大きな差があります。また、副業やワーケーションなどは社員から好意的に受け取られやすい一方で、出向は逆に離職の原因になってしまう恐れもあります。
そのため越境学習の導入・推進にあたっては、まず種類・方法ごとの特徴を把握することから始めるとよいでしょう。そして、会社として「越境学習によって何を成し遂げるか」を明確にして、目的に合致した方法を選定していきましょう。
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