中途採用比率とは 公表の流れや高さの基準値を解説
中途採用比率は、企業が正規雇用した社員のなかで、中途採用者がどの程度の割合で在籍しているかを示す指標です。「労働施策総合推進法」の改正によって、2021年4月1日より常時雇用する労働者が301人以上の企業は、中途採用比率の公表が義務化されました。
今回は中途採用比率の公表の流れや計算方法、高さの基準値などについて解説していきます。
中途採用比率とは
中途採用比率とは、企業が正規雇用した社員のなかで、中途採用者がどの程度の割合で在籍しているかを示す指標です。常時雇用する労働者が301人以上の企業は、おおよそ年に1回の頻度で中途採用比率を公表することが義務付られています。
※2021年4月1日「労働施策総合推進法」の改正より
中途採用者は「新規学卒等採用者以外」を指し、これについて割合を計算して、過去3年度分を公表しなければいけません。なお、現在のところ公表は努力義務であり、罰則規定は設けられていません。
※「新規学卒等採用者」は、新たに学校・専修学校を卒業した者、職業能力開発促進施設、職業能力開発総合大学校の行う職業訓練を修了した者またはこれに準ずる者と定義されています
中途採用比率の計算方法
中途採用比率の計算方法は単純です。正規雇用した採用者数のうち、中途採用者数が何人いるかで割り出せます。
例えば2022年度に正規雇用した採用者数が10人、そのうち中途採用者数が5人なら、中途採用比率は50%です。計算式に表すと、以下のとおりです。
正規雇用した中途採用者数(5人)÷正規雇用した採用者数(10人)×100
=50(%)
中途採用比率の平均とトヨタの事例
中途採用比率の公表が義務付けられた一方で、中途採用比率の適正値や目標値は示されていません。
ただ各企業の数値を見る限り、現状で中途採用比率が10%台の企業は求職者からの心証が悪くなるかもしれません。
日本経済新聞社の調査によれば、2023年度の採用計画に占める中途採用比率は37.6%と過去最高となったことがわかっています。中途採用の比率は2017年度まで10%台で推移してきたことから考えると、採用活動の在り方が急転換している最中といえるでしょう。
参考:日本経済新聞社「中途採用比率が最高に、日本型雇用変わる?」
また、「男性が選ぶ転職人気企業(doda調べ)」で7年連続トップとなっているトヨタ自動車でも、中途採用比率(事務員・技術員)は年々上昇しています。
2020年度 28%
2021年度 39%
2022年度 47%
引用:トヨタ自動車「よくあるご質問 Q&A『採用に占める中途採用の割合を教えてください』」
中途採用比率の公表が推進された背景
中途採用比率の公表の推進には、人生100年時代を迎え、終身雇用制度が崩壊するなかで、企業の中途採用活動を活発化させたいという狙いがあります。
定年延長に見られるように職業生活が長期化するなかで、主体的なキャリア形成や再チャレンジの機会がより重要になっています。その一方で、大企業は新卒一括採用を中心とした採用活動を継続しており、転職入職率は低い水準にありました。
参考:厚生労働省「中途採用に係る現状等について」
こうしたミスマッチが背景にあり、中途採用比率の公表を義務化することによって、労働者と企業のマッチングを促そうとしているわけです。
中途採用比率の公表の流れ
中途採用比率の公表は、どのように進めていけばよいのでしょうか。流れに沿って解説します。
担当者の選出
まずは、中途採用比率の計算や公表を担当する人物を選出しましょう。これらの業務に特別な知識やスキルは必要ありませんので、人事担当者や採用担当者が適任となるでしょう。
公表時期の確認
次に、公表時期を確認します。中途採用比率の公表は「前年度の発表からおおむね1年以内」と指定されているだけで、公表時期までは言及されていません。そのため、基本的に担当部署の閑散期に当ててよい業務といえるでしょう。
ただ、新規で中途採用を行う際は、求職者がデータを確認する可能性がありますので、求人の告知までに作業を済ませておくことをおすすめします。
直近3事業年度の中途採用者の確認
ここから実務に入り、直近3事業年度の数値を確認していきます。具体的には、中途採用者の人数を数えていくわけですが、意外と悩んでしまうのが「対象者の定義」です。
原則として「新規学卒等採用者以外」を中途採用者としてカウントしていくわけですが、個別の事例を確認していると悩んでしまうことも多いでしょう。
【中途採用者に含める場合】
・非正規雇用から正社員となった人
・正社員として採用予定で試用期間中の人
【中途採用者には含めない場合】
・まだ就業を開始していない内定者
・出向してきた社員
・有期雇用の嘱託社員となった人
なお「直近の3事業年度」は、「事業年度における正規雇用労働者の採用活動が終了し、正規雇用による中途採用者の状況を『見える化』することができる状態となった最新の事業年度を含めた3事業年度」と定義されています。
つまり2023年8月に作業を行うとすれば、3月決算の企業では「2023年3月期」「2022年3月期」「2021年3月期」が公表の対象となります。
公表作業
中途採用比率の計算が完了したら、いよいよ公表です。
法令では「インターネットの利用その他の方法により、求職者が容易に閲覧できるように行わなければならない」と指定されているだけなので、ホームページや会社案内などに掲載すればよいでしょう。
なお、掲載時の書式などの指定はありませんが、公表した日を明らかにしておく必要があります。
中途採用比率公表にあたっての注意点
中途採用比率公表にあたって、注意しておく点をお伝えします。
中途採用比率の高さで印象が悪くなる恐れ
求職者からすれば、中途採用比率が高ければ印象が良くなるわけでもありません。
例えば、新卒採用を実施している企業であるにも関わらず中途採用比率が高ければ、「若手がすぐに辞めてしまう会社なのでは」と定着率に懸念を与えてしまうでしょう。
社内の人口ピラミッドにも注目
中途採用比率を処理・分析する際に注意すべきなのが、社内の人口ピラミッドです。
中途採用比率は、社員の年齢を直接示すものではありません。中途採用比率が同じ50%でも、第二新卒を積極的に採用する企業と、シニア人材を積極的に採用する企業では、社員の平均年齢の大きな差が出ます。
とくに中途採用比率について目標値を定める際は、合わせて社内の人口ピラミッドに意識を向けて、過度な偏りが生じないよう注意する必要があります。
担当者は、中途採用比率の変動が社内に与える影響まで確認できるとよいでしょう。人事データの分析については「人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説」で詳しく解説していますので、合わせて参考にしてみてください。
関連記事:人事データ分析とは 分析の進め方や事例を解説
まとめ
「労働施策総合推進法」の改正により、2021年4月1日より中途採用比率の公表が一部の企業で義務化されました。とくに新卒採用を重視する大企業に向けて、中途採用に関する環境整備を促すものであり、労働者の主体的なキャリア形成や再チャレンジの活性が期待されます。
公表にあたって、特別なスキルや知識が求められる作業はありません。中途採用者の定義や公表時期をよく確認して、毎年の公表を忘れずに実施していきましょう。
人事データとして中途採用比率を分析してみる
すでに中途採用比率の公表の体制を整えている企業も多いと思いますが、今後はこのデータをどのように扱うかが問われていくフェーズに入っていくと思われます。
担当者には、自社の中途採用比率が「求職者にどのような印象を与えるか」「人員配置や育成計画にどのような影響を与えるか」などを見極めていく役割が求められます。
ただ、人事担当者のなかには、数字やデータに対して苦手意識を持つ方も少なくありません。何も「データサイエンティスト」のような専門家を目指す必要はありませんが、数字やデータから情報を読み解ける力は身につけておきたいところではないでしょうか。
弊社では、こうした実務に直結する身近なデータ分析について学べる、「ビジネス数学研修」をご提供しております。研修プログラムは「数字に苦手意識を持つビジネスパーソン」を対象としており、受講者のレベルに合わせて「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいきます。
「データを根拠としたアクションを起こせる人材を育てたい」「データ処理に尻込みしない人材を増やしたい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修をご検討ください。
お問い合わせはこちらから