事業継続計画(BCP)とは 策定の流れや目的を解説
事業継続計画(BCP)とは、緊急事態が発生した際に事業縮小や廃業に追い込まれないために、重要な事業・業務をすぐに復旧するための計画です。
相次ぐ自然災害や新型コロナウイルスによるパンデミックなどを受けてその重要性が高まっており、介護施設・事業所では2024年4月よりBCP策定と研修・訓練の実施が義務化されています。
今回は、事業継続計画(BCP)の概要や目的、メリット、策定の流れなどについて解説していきます。
事業継続計画(BCP)とは
事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)は、中小企業庁の定義によれば「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」とされます。
引用: 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」
簡単にいえば、緊急事態が発生した際に事業縮小や廃業に追い込まれないために、重要な事業・業務をすぐに復旧できるよう、日頃から準備を整えておこうということです。
事業継続計画(BCP)への関心が高まる背景
BCPへの関心が高まる背景として、「災害大国」とも呼ばれる日本特有の環境が第一に挙げられます。
全世界のなかで、日本の国土面積が占める割合はたった0.29%に過ぎません。にも関わらず、全世界で発生したマグニチュード6以上の地震の18.5%が日本に集中しています。また、全世界の災害被害額のうち、日本における災害の被害金額が17.5%を占めているというデータもあります。
参考:一般財団法人国土技術研究センター「自然災害の多い国 日本」
このように、世界的に見ても日本は災害によるリスクが高いといった背景もあり、内閣府では2005年に「事業継続ガイドライン」を公表し、BCPの策定を強く推奨しています。
実際にBCPへの関心が高まったのは2011年に発生した東日本大震災といわれており、その後も全国各地で相次ぐ大地震や豪雨災害、新型コロナウイルス感染拡大などによって、その必要性・重要性が認知され始めています。
介護施設・事業所ではBCP策定が義務化
感染症や自然災害が発生したときであっても、介護サービスは安定的かつ継続的に提供されることが求められます。そのため2024年4月より、介護施設・事業所にはBCP策定と研修・訓練の実施が義務付けられています。
なお、BCPを策定していない介護事業者については、サービスごとに定められている基本報酬が最大で3%カットされるという罰則が設けられています。
事業継続計画(BCP)策定の目的
BCPの主たる目的は、緊急事態時の事業継続や早期復旧にあります。ただそれ以外にも、BCPの策定によって副次的に得られるものがあるので、それらを策定の目的に据えるのもよいでしょう。それぞれ解説していきます。
企業価値の向上
緊急事態時の事業継続や早期復旧を果たすことによって、顧客からの信頼や市場での評価が高まり、企業価値の向上につながります。
また、BCPをしっかりと策定していること自体が、社会的な信用の獲得につながるでしょう。
従業員の定着率向上
BCPを策定することによって、従業員の定着率向上につながります。
一般的なビジネスパーソンはBCPの存在自体を知らないので、自社がBCPを策定しているかどうか自体は、あまり従業員の心理には影響しないでしょう。ポイントは、BCPによって緊急事態時の事業の停滞や倒産を防ぎ、従業員の生活を安定させることにあります。
緊急事態によって事業の停滞が起きれば、従業員は収入源を失うことになります。地震や水害によって家財を失うなどの被害を受けていたら、なおのこと安定した収入が必要となるでしょう。
つまり会社として給与を払えない状況が続くようでは、従業員も背に腹は代えられずに離職してしまうわけです。こうした人材の流出を防ぐ意味でも、BCPは重要となるのです。
補助や優遇措置の獲得
BCPを策定すると、国や地方自治体からの優遇措置を受けられる場合があります。
代表的なのが「事業継続力強化計画」で、中小企業向けの簡易的なBCPとして位置づけられており、認定を受けることで低利融資や助成金の優遇措置といったメリットが得られます。
また東京都では中小企業向けのBCP策定支援が実施されており、BCPの策定に必要な経費の一部が助成されます。例えば、停電時の施設の維持を目的とした蓄電池システムなども対象となる場合があるので、大きなメリットといえるでしょう。
事業継続計画策定(BCP)の流れ
ここからは、事業継続計画(BCP)を策定する際の流れについて解説していきます。
中核事業の定義
BCPの策定時にまず取り組むべきは、中核事業の定義です。自社にとって一番大切な事業・業務を明確にして、緊急事態が発生したときに優先して復旧に取り組む内容を定めておくわけです。
中核事業選定のポイントとしては、以下が挙げられます。
・収益、売上の割合
・業務の遅延によって被る損害の大きさ
・復旧の容易さ(復旧にかかる時間やコスト等)
・事業の代替可能性
なお、営む事業がひとつの場合は、優先的に取り組む業務の選定を行いましょう。
リスクの洗い出し
中核事業を定義したら、その事業・業務にとって何が致命的なリスクとなるかを洗い出していきます。緊急事態を引き起こす自然災害や大規模システム障害などを具体的に想定し、自社の事業に対してどのような損害を与えるかシミュレーションしましょう。
例えば運送業において、サプライチェーンの維持を中核に据えた場合、地震や豪雨を原因とする「主要幹線道路の閉鎖」は、致命的なリスクとなります。このように、具体的な緊急事態とそのリスクを洗い出すことによって、現実に即した対処法を検討できるわけです。
リスクの分析と優先順位の決定
次に、洗い出したリスクを分析し、優先順位を決定していきます。あらゆるリスクを想定し、そのすべてに対処法を用意するのは、人手・時間の面からも現実的ではないからです。
優先順位をつける際は、そのリスクの発生頻度と被害の大きさの2軸で評価を行いましょう。例えば、近年の異常気象によって毎年のように各地で発生している水害は、発生頻度が高く被害も大きいため、優先順位の高いリスクといえるでしょう。
また、発生頻度を計ることはできないものの、壊滅的な被害を引き起こす大地震も優先度が高いリスクといえます。2024年8月には、気象庁の発令としては初となる「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、巨大地震への注意が呼びかけられました。こうした公的な情報も参考にしつつ、優先順位を検討していきましょう。
具体的な対策・戦略の検討
優先順位を決定したら、いよいよ具体的な対策・戦略の検討に入ります。リスクの種類にもよりますが、例えば在宅勤務やアウトソーシング、地元企業との協力体制の締結など、様々な方法が挙げられます。
事前に目標復旧時間を定めたうえで、どの対策・戦略が最善であるかを検討しましょう。また、緊急事態時の指揮系統や連絡ルート、資金調達、リソース確保など、様々な視点から緊急時の行動を想定し、混乱の芽を摘んでおくことが大切です。
全従業員との共有
最後に、策定したBCPを全従業員へ共有しましょう。すべての従業員がBCPの内容を把握するのは困難です。ここでは、「緊急事態時の事業継続の計画が存在する」と周知することが重要となります。
事業継続計画の策定に欠かせない「数字力」
中核事業の定義やリスクの優先順位を決める際は、感覚や理念だけで決めるのではなく、ビジネス・インパクト分析などを活用して「定量的な根拠」を設けることが大切です。業務が停止した場合の影響度や許容できる業務中断の時間など、リスクを正確に見極めることが求められるのです。
ただ一方で、ビジネスパーソンの多くは「数字を扱うのが苦手」「データ分析なんてやったことがない」といった、数字に対する苦手意識を持つ方が少なくありません。そのためBCPを策定する際には、まずは「数字やデータを正しく扱うことができる人材」を育成する必要があるのです。
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