ランチェスター戦略は、市場競争のなかで競合に勝つための戦略を示す経営理論です。弱者が強者に勝つための方法論として知られており、世界で最も活用される戦略のひとつと言われています。
ランチェスター戦略からは「強者の戦略」と「弱者の戦略」が導き出され、それぞれの立場に最適な方針や作戦が明らかとなります。
今回はランチェスター戦略の概要をわかりやすくまとめた上で、市場における地位を把握するためのマーケットシェア理論についても解説していきます。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは、市場競争のなかで競合に勝つための戦略を示す経営理論です。弱者が強者に勝つための方法として世界中で活用されており、新規参入時の戦略立案にも役立ちます。
なお、ランチェスター戦略における「強者」は市場におけるシェア率1位の企業を指し、2位以下の企業を「弱者」と位置づけます。
ランチェスター戦略のルーツは、第一次世界大戦時にイギリスの航空工学者フレデリック・ランチェスターによって考案された「ランチェスターの法則」にあります。これを経営戦略へ応用したのがマーケティングコンサルタントの田岡信夫氏と、社会統計学者の斧田大公望氏です。
考案から50年以上が経つ現在も経営規模を問わず活用されており、一説には世界で最も活用される戦略のひとつと言われています。
ランチェスターの法則とは
「ランチェスターの法則」は、戦争における兵力・武器性能の差と、損害量の関係性について示したもので、2つの法則によって構成されています。ランチェスター戦略を理解するためには、ベースとなった「ランチェスターの法則」を把握しておく必要があるので、その概要を解説していきます。
第一法則:一騎打ちの法則
第一法則は、別名「一騎打ちの法則」とも呼ばれます。古典的な戦闘は剣などを用いた1対1であり、局地戦となります。そのため、勝敗(損害)は兵力数と武器の性能(兵士の能力)に依存します。
戦闘力=兵力数×武器性能(兵士の能力)
例えば「A軍:兵力数5・武器性能1」で「B軍:兵力数3・武器性能1」だった場合、A軍が勝利すると計算できるわけです。
第二法則:集中効果の法則
第二法則は、別名「集中効果の法則」とも呼ばれます。近代戦争のような銃火器が用いられる集団戦を想定しており、この場合の戦力は兵力数の2乗に比例するとされます。マシンガンなどを利用した戦闘では、乱射により不特定の敵を確率論的に撃破していくためです。
戦闘力=兵力数の2乗×武器性能(兵士の能力)
ここでは第二法則の特異性を理解するために、「A軍:兵力数5・武器性能2」「B軍:兵力数2・武器性能10」で想定してみましょう。一見すると、B軍は兵力数で劣るものの、武器性能はA軍より5倍も高性能であるため、数的不利を覆せるように思えます。
しかし実際には、以下のようにA軍が勝利すると計算されるのです。
A軍:5×5×2=50
B軍:2×2×10=40
つまり近代的な戦闘では、古典的な戦闘よりも数的な差が大きな有利となります。これをビジネスに置き換えると、同じ土俵で戦った場合、物量で勝る大企業は中小企業の「質」を簡単に凌駕するという事実が浮かび上がるのです。
ビジネスにおけるランチェスター戦略
ビジネスにおいてランチェスター戦略は、強者側が取るべき戦略と弱者側が取るべき戦略の両方を示してくれます。ここでは強者・弱者それぞれの立場から、代表的な戦略を解説します。
強者の戦略(ミート戦略)
数的有利を持つ強者は、ランチェスターの第二法則(集中効果の法則)に則り、弱者の戦略を封じ込める戦略を実行します。これをミート戦略と呼びます。具体的には以下のように、資本力や物量を最大限に生かした様々な作戦が存在します。
・広域戦
資本力を活かして全国的に営業活動を行うといった、大きな市場でシェアを確固たるものにする戦略。
・確率戦
「新商品を次々に送り出す」「代理店や支社同士で競争を激化させて新規参入の芽を潰す」など、物量で弱者を閉め出す戦略。
・遠隔戦
広告などの宣伝活動に資金を投下し、顧客の指名購入を促す戦略。
・誘導戦
弱者の差別化戦略を潰すように、自社のサービス・商材を展開する戦略。値引き合戦というフィールドへ誘導して、弱者の企業体力を奪うのも誘導戦のひとつ。
弱者の戦略
数的に劣る弱者は、ランチェスターの第一法則(一騎打ちの法則)に持ち込むことが原則となります。
とはいえ、強者と同じ土俵で戦っては、数的に劣る弱者の敗北は必至です。着目すべきは、武器の性能や兵士の能力にあたる「質」の部分です。数的不利を覆すためには、強者が手を出していない市場に特化した製品を開発したり、ひとつのエリアに営業を集中する局地戦を仕掛けたり、自身の有利な戦況を作ることがポイントとなります。
・一騎打ち
競合他社の少ない市場に注力する戦略。
・局地戦
「特定の地域に営業活動を集中する」など、ビジネスの領域を限定してリソースを集中する戦略。
・接近戦
「特定の顧客との商談時間を増やす」「代理店を挟まない」など、顧客との距離感を近づける戦略。
・陽動戦
競合他社が予想しない、あるいは予想しても実行しないようなサービス・商材でシェアを奪う戦略。
ポジションを把握するためのマーケットシェア理論
市場における地位(強者・弱者)を把握する方法として、マーケットシェア理論が挙げられます。マーケットシェア理論は市場占有率・占拠率によって市場における地位を判断するもので、ランチェスター戦略をもとに考案されました。
市場占有率に対して「7つのシンボル目標値(クープマン目標値)」という具体的な数値が設定されており、これに照らし合わせることで現在のポジションと次の目標が明確になります。
上限目標値:73.9%
シェアの独占とされる数値が73.9%で、上限目標値と呼ばれます。
基本的に強者としての地位を奪われる恐れはない一方、これ以上の数値を得ても市場内での競争が停滞してしまい、市場自体の成長性が落ちる可能性があるので注意が必要です。
安定目標値:41.7%
安定した事業展開が可能となる数値が41.7%で、安定目標値と呼ばれます。通常、市場においては複数の企業が競合するため、41.7%でおおよそ独走状態と見なされます。
下限目標値:26.1%
トップ企業になるための最低ラインとなる数値が26.1%で、下限目標値と呼ばれます。1位といっても2位とは僅差であり、この数値を下回るといつ逆転されてもおかしくない状況となります。
上位目標値:19.3%
多くの市場において上位3位に入れる数値が19.3%で、上位目標値と呼ばれます。なお、ここからがランチェスター戦略における「弱者」となります。ただ、弱者のなかの上位層という位置づけであり、一般的に20%を確保できたら、強者の座を獲得するための戦略に移行していきます。
影響目標値:10.9%
顧客や競合他社からの認知度が高まり、市場に対して影響を与えることができる数値が10.9%で、影響目標値と呼ばれます。「10%足がかり」とも呼ばれ、本格的な市場競争が始まる位置でもあります。
存在目標値:6.8%
市場のなかで競合他社から存在を認知される数値が6.8%で、存在目標値と呼ばれます。市場のなかではほとんど影響力を発揮できていない段階です。また逆に、参入から数年経ってもこの数値を超えられない場合は、撤退判断の目安としても用いられます。
拠点目標値:2.8%
参入時の目標として設定される数値が2.8%で、拠点目標値と呼ばれます。顧客はもちろん、競合他社からも認知されていない段階です。参入直後以外の状況でこの数値を下回ると、市場での生き残りは難しくなります。
まとめ
ランチェスター戦略は、強者を倒すための戦略として世界中で活用されており、経営計画を策定する際にも欠かせません。また、強者・弱者それぞれの立場からどのような作戦を立案してくるかを想定する上でも重要であり、ビジネスで成功するためにはランチェスター戦略を把握しておくことは必須条件といえるでしょう。
「ビジネス数学研修」でランチェスター戦略を使いこなそう
ランチェスター戦略を活用するために重要なのが、数値から意志決定を行う力です。例えば「マーケットシェア理論によれば、自社のシェアは上位目標値である19.3%に到達しています」と、事実(数値)だけを報告しても大きな意味はありません。
大切なのは、その数値から「上位目標値に到達しましたが、○○を根拠として、今は現状維持に注力すべきです」「上位目標値に到達した今こそさらに上を目指すべきで、そのためには○○が足りません」といった提言やアクションプランを策定する力なのです。
しかし残念ながら、数字やデータを活用して意志決定を行える人材は貴重な存在です。それどころか数字に対して苦手意識を持ち、データを遠ざけてしまうビジネスパーソンも少なくありません。 そこでおすすめしたいのが、弊社オルデナール・コンサルティングがご提供する「ビジネス数学研修」です。
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