転職は裏切り? 裏切り扱いされない対策と企業文化を変えるポイント

#おすすめ記事#採用担当者向け#管理職向け#若手向け

いまでこそ転職は当たり前になりましたが、まだまだビジネスパーソンの帰属意識は高く、会社を辞めることに対してネガティブな印象を持つ方も多いのではないでしょうか。

今回は、転職が裏切りと言われる背景から、転職時に裏切り扱いされないための対策を解説します。また合わせて、人事担当者向けに「転職を裏切り」とする企業文化を変えるためのポイントもお伝えしていきます。

転職が裏切りと言われる背景

転職が裏切りと言われるのは、日本特有の働き方や企業側に生じてしまう損失などが背景にあります。

終身雇用制度

転職が裏切りと言われる背景には、日本の経済発展を支えた日本型雇用システムのひとつ「終身雇用制度」があります。

終身雇用制度の崩壊が指摘されつつも、諸外国と比べて日本はまだ転職率が低い……つまり長期雇用される傾向が高いといわれています。

ひとつの企業に長く勤めることが美徳と考える人は、とくに「転職は裏切り」と捉えられがちです。

採用・育成コストの損失

企業側からすると社員が転職することによって、それまでに掛かった採用コスト・育成コストが水の泡になってしまいます。

2020年に行われたリクルート(就職みらい研究所)の調査によれば、中途採用にかかる1人あたりの平均採用コストは103.3万円、新卒採用にかかる1人あたりの平均採用コストは93.6万円となっています。

参考:リクルート就職みらい研究所「就職白書2020」

これに加えて育成コストまで掛けた人材が同業他社へ転職するとなれば、敵に塩を送るようなものです。転職者に「裏切り」という目線を向けてしまうのも、ある程度はやむを得ないと言えるでしょう。

人員補充までの負担およびコストが発生する

社員が転職してしまうことで、そのポジションを埋めるために新たな採用コスト・育成コストが発生します。さらにその社員が希少なスキルを持っていた場合、同等の人材を採用するためには、通常よりも高額な採用コストが必要となるでしょう。

また、人員補充が済むまで他の社員に負担がかかるのも、上司や同僚からの印象を悪くさせる原因のひとつです。まして、今よりも良い環境の会社へ転職するとなれば、「こちらは仕事が増えるのに自分だけ良い思いをして」と裏切りに見られやすくなります。

裏切り扱いされないための対策

「立つ鳥跡を濁さず」ではありませんが、退職は円満に済ませるに越したことはありません。ここでは、転職時に裏切り扱いされないための対策を解説していきます。

余裕を持って退職する

退職日までのスケジュールに十分な余裕を持たせることは、円満退職の絶対条件といえるでしょう。

民法627条によれば、期間の定めのない雇用の場合、労働者は退職の意志表示から2週間が過ぎれば自由に退職できるとされます。

とはいえ、企業側からすれば業務の引き継ぎなどを考えると、やはり最低でも1ヶ月はスケジュールを確保したいところです。転職先もその程度の猶予は慣習的に受け入れてくれるはずですので、一刻も早く辞めたい気持ちがあっても、スケジュールには余裕を持たせて退職すべきでしょう。

また、会社の繁忙期にあたる時期の退職は引き継ぎの負担を大きくするので、裏切り扱いを受けたくないならば避けたほうが無難でしょう。

事前に同僚へノウハウを共有しておく

自分だけしかできない業務を抱えている場合は、事前に同僚へノウハウを共有しておきましょう。業務が属人化していると、退職日の引き延ばしを求められるなどのトラブルに発展しがちだからです。

退職を伝える前からマニュアルなどを作っておくと、スムーズに引き継ぎができるようになるでしょう。

引き留められても残留しない

転職志望者を裏切り者と見るような会社の場合、仮に引き留められたとしても残留することは避けたほうがよいでしょう。その後も「退職を考えた人材」として、昇進などに悪影響を及ぼす恐れがあるためです。

「次は本当に転職してしまえばいい」と思っても、技術革新によるスキルの陳腐化や景気変動などが起これば、また同じような条件の会社に入社できるとは限りません。ときには、後ろ指を指されても行動することが大切です。

「転職を裏切り」と考える企業文化を変えるポイント

ここからは、人事担当者向けに「転職を裏切り」と考える企業文化を変えるためのポイントをお伝えしていきます。

転職を当然のリスクと認知させる

まずは、理路整然と転職が当然のリスクであると認知させることが必要となります。

少子高齢化を背景とした生産年齢人口の減少によって「売り手市場」が常態化しており、採用競争は激しさを増しています。優秀な人材にはより良い条件が提示され、労働者の転職は今後ますます増えていくでしょう。

企業や人事担当者に求められるのは、転職を当然のリスクとして考え、転職を防ぐための環境改善に励むことです。

出向や副業を活発化させる

出向や副業を活発化させることも、社内の文化・認識を変えるのに効果的です。長く同じ環境にいると社内インフラを使用することが当たり前になり、「整備された環境が当然」と感じてしまうからです。

例えば、現在の会社がクリック一つで売上データやマニュアルなどにアクセスできる環境だったとして、これらが整備されていない子会社などに出向すると「もっと設備投資を行うべき」「誰もこれらの環境を整備しないのか?」と、不満を漏らしがちです。

しかし、不満を言っても誰も相手にしてくれず、それどころか不満を言うほど周囲から白い目で見られてしまいます。大手企業からの出向で失敗する典型的なケースです。

実際に出向者から話を聞いてみると、子会社へ行くことで「本社の社員は恵まれている」と改めて気づくメンバーが多くいました。このようにキャリアの早い段階から出向や副業を通して異なる環境を経験することで、転職に対する閉鎖的な感情は薄れていくはずです。

このような学習効果は「越境学習」と呼ばれ、経済産業省でも実証事業が行われています。詳しくは「越境学習とは 具体的な方法やメリット・デメリットを解説」で解説しています。

関連記事:「越境学習とは 具体的な方法やメリット・デメリットを解説」

アルムナイ制度の導入

アルムナイ制度とは、退職した人材を組織化して管理することで、出戻りでの採用を活性化する制度のことです。「出戻り採用」「カムバック採用」と呼ばれることもあります。

アルムナイ制度は、採用難を打開するための新たな取り組みとして注目されています。退職者は実際に自社で働いた経験があるわけですから、ミスマッチの恐れがなく、採用活動も簡略化できます。「転職は裏切り」という考え方と対極の取り組みといえるでしょう。

なお、アルムナイ制度については「アルムナイ採用とは デメリットやネットワークの構築について解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「アルムナイ採用とは デメリットやネットワークの構築について解説」

まとめ

転職は裏切りという考えの背景には、終身雇用制度や採用・育成コストの損失など、やむを得ない事情もあります。

しかし、余裕を持ったスケジュール設定や属人化の解消などを心がければ、円満に退職できる可能性が上がっていきます。それでも「裏切り者」扱いを受けるのであれば、そのような会社は退職して正解といえるでしょう。

また人事担当者は、社内で「転職は裏切り」という考えを耳にしたら、出来るだけ早く改善しなければいけません。

人材育成で重要な「他社の経験」

私はこれまで新卒入社文化の強い会社と中途入社者の多い会社の両方を経験してきましたが、どちらも一長一短なので、一概に良い悪いで判断することはできません。

ただ人材育成の観点では、環境が異なる「他社の経験」は非常に重要だと捉えています。

私が以前勤めていた会社でも多くのメンバーを出向形式で子会社へ送り込みましたが、多くの出向者から「環境を変えた方が成長に繋がる」といった意見を聞きました。実際に『IT Media』の記事でも「第一生命やトヨタ自動車などで「人材育成」を目的とした他社出向が行われています」とあります。

参考:IT Media ビジネスONLINE「『転職は裏切り』と考えるザンネンな企業が、知るべき真実」(2022年2月10日)

私も転職回数が多いのでよく理解しているつもりですが、環境の変化は人の成長につながります。 転職=裏切りといったネガティブな考え方ではなく、転職=スキルアップと捉え、必要であれば「アルムナイ制度」で出戻りを歓迎する企業が増えてくることを願います。