意味のないストレスチェックになる原因 制度の目的や義務化の現状を解説
ストレスチェックとは、メンタルヘルス不調を防ぐために、自分が抱えているストレスの状態を調べる検査のことです。2025年5月に成立した改正労働安全衛生法により「従業員50人未満の事業場」にもストレスチェック制度の実施義務が課されることになったため、中小企業においても対応が急がれます。
一方で、意味のないストレスチェックになってしまう事例も多く、その原因として「チェック実施後のアクションがない」「職場の調査で本当のことを言いたくない」などが挙げられます。
今回は、意味のないストレスチェックになってしまう原因をテーマとして、ストレスチェックの本来の目的や義務化の現状、意味のあるストレスチェックにする方法などを解説していきます。
ストレスチェックとは
ストレスチェックとは、メンタルヘルス不調を防ぐために、自分が抱えているストレスの状態を調べる検査(調査)のことです。
2025年8月現在、ストレスチェック制度は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」に実施義務が課されており、ストレスチェックとその結果に基づく面接指導などを毎年1回実施することが定められています。なお、この「労働者」にはパート・アルバイトや派遣労働者も含まれます。
50人未満の事業場もストレスチェック義務化へ
2025年5月に成立した改正労働安全衛生法により「従業員50人未満の事業場」にもストレスチェック制度の実施義務が課されることになりました(現在は努力義務)。施行は、公布後3年以内に政令で定める日となります。
2025年時点のストレスチェックの実施状況
実際にストレスチェックがどの程度実施されているかというと、厚生労働省の調査によれば実施状況は81.7%(2025年8月時点)という結果が出ています。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度の実施状況」

ストレスチェックの目的
職場における労働者のメンタルヘルスケアについて、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で以下のように定められています。
一次予防:メンタルヘルス不調となることを未然に防止すること
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切に対応を行うこと
三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援すること
参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
ストレスチェック制度の目的は、主にこのうちの「一次予防」に該当するものであり、実は「メンタルヘルス不調の発見」を目的に実施するものではないのです。
では、ストレスチェック制度を具体的にどのように活かしていくべきかというと、以下の4つのケアにつなげることを目指します。
・セルフケア
・職場環境改善
・事業場内産業保健スタッフ等によるケア
・事業場外資源によるケア
セルフケア
ストレスチェック制度の目的として、従業員のセルフケアのきっかけにすることが挙げられます。
人は意外と自分が抱えているストレスに対して無自覚であり、身体的な異変によってようやく高ストレス状態を自覚する場合も少なくありません。ですからストレスチェック制度を通じて自身のストレス状態を確認し、その原因を早期発見することが重要となるわけです。
職場環境の改善
職場環境改善のきっかけにすることも、ストレスチェック制度の目的のひとつです。集団分析を通じて、自社の従業員が抱えるストレスの原因から職場の問題点が明らかとなるからです。
ストレスの原因は、業務量の負担や人間関係、職場外での家庭の問題など様々です。ですからストレスチェック結果の集団分析を通じて、職場要因のストレスの存在を明らかにすることに大きな意義があるのです。
具体的なケア・支援の実施
ストレスチェックによって従業員が高ストレスと判定された場合、医師による面接指導などの具体的なケアへとつなげていくこともストレスチェックの目的となります。定期的にこうした具体的な支援・ケアを実施することで、従業員が深刻なメンタルヘルス不調に陥るリスクを防ぎやすくなるわけです。

意味のないストレスチェックになる原因
「ストレスチェックは意味がない」という意見は一定数あり、実際に運用方法が誤っていると形骸化して無意味になる可能性があります。ここでは、意味のないストレスチェックになってしまう原因について解説していきます。
チェック実施後のアクションがない
ストレスチェックを実施してもその後のアクションがない場合、「ストレスチェックは意味がない」と思われてしまいます。ストレスの程度を把握しても、会社側がそれを改善するための具体的な対策を行われなければ、チェックをした意味が損なわれてしまうからです。
前述の厚生労働省の調査によれば、「ストレスチェック結果の集団ごとの分析の実施状況」は78.9%となっており、ストレスチェックを実施した企業のほとんどは集団分析まで行なっていることがわかります。
しかし「ストレスチェック結果の集団ごとの分析結果の活用状況」となると63.8%にまで減少しており、せっかくの分析結果を活用できない企業が一定数いることがわかっています。社内にデータ活用のノウハウがないことも、ストレスチェックが意味のないものになってしまう原因といえるでしょう。
職場での調査で本当のことを言いたくない
「職場に自分の状態を知られたくない」といった思いから、ストレスチェックに対して真面目に回答しない人も一定数います。回答に虚偽が含まれるとストレスチェックの結果が職場環境改善に結びつかなくなり、取り組み自体が意味のないものになってしまいます。
実際は、ストレスチェックは医師や保健師などが務め、結果の管理・分析も実施者が担います。ストレスチェックの結果が人事上の判断で取り扱われないよう、人事に関して権限を持つ者は実施者になれないことも定められています。結果についても本人のみに通知され、事業者が結果を確認する場合は本人の同意が必要となります。
ですから「上司に結果を知られることで人事評価が下がるのでは?」「結果によって周囲から白い目で見られるのでは?」などの不安を解消するため、しっかりとストレスチェック制度の概要を説明することが重要となります。
ストレスチェックの意義が共有されていない
従業員のあいだでストレスチェックの意義が共有されていないと、意味のない取り組みになりがちです。
ストレスチェック制度は、企業に対しては実施または努力義務が課されていますが、労働者にチェックを受ける義務はありません。そのため、漫然と「会社から言われたからアンケートに答える」くらいの意識でストレスチェックを受ける人もおり、「セルフケア」の目的を果たせない場合も少なくありません。

意味のあるストレスチェックにするために必要なこと
意味のあるストレスチェックにするために必要なことは、「できるだけ多くの従業員に受検してもらう」「具体的な職場環境の改善のアクションを起こす」に集約されます。それぞれ解説していきましょう。
できるだけ多くの従業員に受検してもらう
意味のあるストレスチェックにするためには、できるだけ多くの従業員に受検してもらう必要があります。母数が減ればそれだけ集団分析の精度が下がり、職場のストレスの原因を正確に掴めなくなってしまうからです。
従業員のストレスチェックの受検状況については、厚生労働省の資料では「実際に受検した労働者の割合が約8割を超える事業場は77.5%」とあります。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
これをさらに上げていくためには、やはりストレスチェックの意義や目的を周知することが欠かせません。また、繁忙期を避けるなど、従業員の余裕がある時期に実施することも重要となるでしょう。
具体的な職場環境改善のアクションを起こす
「チェック実施後のアクションがない」でも解説したとおり、ストレスチェックを意味のある取り組みにするためには、職場環境改善のための具体的なアクションを起こすことが大切です。
ストレスチェックをやりっぱなしにせず、実際にアクションを起こすことで、従業員にも「ストレスチェックを受けることで職場環境が良くなる」という実感が湧きます。そうなれば、能動的にストレスチェックを受ける従業員も増え、ストレスチェックがより意味のある取り組みとして機能していきます。

数字力を高めて意味のあるストレスチェックにしよう
ストレスチェックの分析結果を約3割の企業が活かせていない現状を踏まえると、ストレスチェックを意味のある取り組みにするためには、社内にデータ活用の文化を根付かせることも重要になります。
しかしその一方で「数字は見るのも嫌」「データの見方がわからない」など、数字やデータに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは少なくありません。分析の結果に基づいて施策を立案することは、実は誰しもができることではないのです。ですから、いきなりDX研修や統計研修といった高度な研修を実施して、社内でデータ活用を推進しようとしても思うような成果は得られません。
とはいえ、いま世間で提供されている研修カリキュラムの多くは、データサイエンティストやAI人材といった専門職の育成を目指すものばかりが目立ち、日々のビジネスシーンでのデータ活用について学べる研修は少ないのが現状です。
そんな状況を打破すべく弊社オルデナール・コンサルティングが取り組んでいるのが、「数字・データに苦手意識を持つ普通の人」に向けた教育――「ビジネス数学研修」です。弊社の研修では数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。
また、弊社のカリキュラムは実際のビジネスシーンを想定した課題をご用意しておりますので、学びの内容が業務に結びつきやすく、実務で活きるスキルを身につけることができます。データからどのようにして施策を立案し、実行していくべきかを学ぶことができますので、「ストレスチェックの分析結果を活かせない」と悩む企業様にもぴったりの研修となっております。
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