アンカリング効果とは 具体例やフレーミング効果との違いを解説

#おすすめ記事#伝え方#教育担当者向け#管理職向け#経営者向け

アンカリング効果とは、事前に得ていた情報や数値によって、後の意志決定が歪められてしまう心理作用です。日常生活でも待ち合わせに遅れるときなどによく活用され、商材の価格設定といったマーケティング活動にも欠かせません。

今回は、アンカリング効果の概要やフレーミング効果との違いを解説したうえで、具体例や対策、活用時の注意点などについて解説していきます。

アンカリング効果とは

アンカリング効果とは、事前に得ていた情報や数値によって、後の意志決定が歪められてしまう心理作用です。事前に得た情報が印象的であるほど、その効果は高まります。また、数字のほうがより強く影響されるともいわれています。

船が停泊するために下ろす錨(アンカー)が語源であり、最初に得た情報や数値がアンカーとなって、思考をつなぎ止めてしまうことが表されています。

認知バイアスの一種とも言われ、人間の脳は新規の情報を得たとき、既知の情報を基準として処理する作用があることからアンカリング効果が生じるとされています。なお、認知バイアスについては「ビジネスにおけるバイアスの種類とその対策」でも詳しく解説しています。

関連記事:「ビジネスにおけるバイアスの種類とその対策」

アンカリング効果とフレーミング効果の違い

フレーミング効果とは、同じ情報であっても見せ方や焦点の当て方によって、全く異なる意志決定が行われることです。

アンカリング効果とフレーミング効果は、ともに意志決定に関する認知バイアスであることから混同されがちですが、上のとおりフレーミング効果は「情報の見せ方・焦点」がポイントとなり、アンカリング効果は「情報の順番」がポイントとなっています。

アンカリング効果とプライミング効果の違い

プライミング効果とは、無意識的に得た刺激によって、後の判断や行動が変化する心理作用です。例えば、駅までの道にラーメン屋が多く、無意識的に目に入ったラーメンの看板によって「今日のランチはラーメンにしよう」と選択してしまうのがプライミング効果です。

一見すると、アンカリング効果とプライミング効果に違いはないように見えますが、プライミング効果は言語的な連想やイメージの刷り込みによって意思決定が変化する作用であり、主に広告などによる「イメージの定着と購買行動」などに活用されます。

アンカリング効果の例

アンカリング効果は日常生活にも密接に関わる心理効果であり、理解を深めるためには実際の例を挙げるほうが早いでしょう。

サービスの提供や遅刻

日常生活に密接に関わるアンカリング効果として、サービスの提供や遅刻が挙げられます。

例えば、レストランで「30分ほどお待ちください」と言われ、20分程度で案内されて気分が良くなったという経験はないでしょうか。この満足度は最初に「20分ほどお待ちください」と言われ、実際に20分待ったときには得られないはずです。

「20分待った」という事実は変わらないのにも関わらず、事前に「30分ほど待つ」という情報があったことで印象が変化したわけです。

商材の価格設定

商材の価格設定時は、大抵の場合でアンカリング効果が活用されています。

例えば、1万円のサービスを本命として提供していきたい場合、あえて3万円の価格帯のサービスを用意することで、3万円がアンカーとなって1万円のサービスがお得に感じられるようになります。いわゆる「松・竹・梅」の価格設定は、アンカリング効果を活用しているわけです。

また、家電量販店などでよく見かける「メーカー小売希望価格」と「値引価格」の二重表示も、アンカリング効果を活用した典型例といえるでしょう。メーカー小売希望価格がアンカーとなって、割引価格がよりお得に感じられるのです。

会議や話し合い

会議や話し合いにおいても、アンカリング効果が作用している場合があります。最初に発言した人の意見がその後の会議の方向性を決めてしまった……なんて経験が一度はあるのではないでしょうか。

これは最初の発言がアンカーとして打ち込まれたことで、その意見を基準として物事を考えるようになってしまったわけです。逆に言えば、最初に印象的な意見を出すことで、その後の話の方向性を定めやすくなるということでもあります。

目標設定

目標を提示する際、最初に達成困難な目標を掲げておき、そのあとに本命となる目標を提示する……という手法は、まさにアンカリング効果の典型です。これにより、本命となる目標が難しい課題だったとしても「最初の達成困難な目標に比べれば、達成できそう」と、意識が切り替わるわけです。

ビジネスのみならず、教育などでも自然と用いられる活用例といえるでしょう。

アンカリング効果への対策

アンカリング効果はマーケティングへの活用など、様々なメリットをもたらします。ただ一方で、アンカリング効果が偏見へとつながり、不当な評価の原因になる場合もあります。ここでは、評価の場でアンカリング効果を防ぐための対策をお伝えします。

ブラインド採用

採用活動では、候補者の性別や学歴、容姿などに関する様々な偏見によって、無意識的に偏向した評価が行われています。これはまさに、性別や学歴などがアンカーになっているわけです。

こうした偏見を防ぐために効果的なのが、ブラインド採用です。ブラインド採用では個人情報を取り除いたうえで、職歴や保有資格、自己PRといった情報のみで選考を行います。グローバル化やダイバーシティへの対応を背景として導入が進んでおり、公平に能力のある人材を確保できるというメリットがあります。

明確な評価基準の設定

採用活動と同様、人事評価においてもアンカリング効果への注意が必要です。例えば、部下から提出された自己評価の点数がアンカーとなり、後の評価が変動してしまう……ということが往々にして起こり得ます。

こうした人事評価エラーを防ぐためには、明確かつ定量的な基準に照らし合わせて評価を行うことが大切です。これは評価プロセスの透明化にもつながり、評価への納得度を高めるうえでも重要な取り組みとなります。

アンカリング効果を活用する際の注意点

アンカリング効果はビジネスだけでなく日常生活でも活用できる、非常に汎用性の高い心理効果です。ただ、そのぶん使い方も重要となります。最後に、アンカリング効果を活用する際の注意点をお伝えしましょう。

景品表示法(二重価格表示)への理解

マーケティングでアンカリング効果を活用する際に注意しなければならないのが、景品表示法における不当な二重価格表示です。アンカリング効果を狙い過ぎるあまり、消費者の誤認を招くような価格表示になる例は後を絶ちません。

例えば「過去に販売実績のない元値」「比較対照価格が別の商品」などは、景品表示法に抵触する恐れがあります。事前に消費者庁の「価格表示ガイドライン」などを参照し、不当な二重価格表示になっていないかを必ず確認しましょう。

現実的なアンカーを設定する

アンカリング効果を活用したいのであれば、現実的なアンカーを設定することが大原則となります。

例えば目標設定の際、現実と乖離した目標をアンカーとして提示すると「そんな目標を達成できる人はいない」と、不信感やモチベーションの低下につながる恐れがあります。

サービスの提供や遅刻などの場合も同様で、アンカーとなる時間を盛りすぎると「そんなに待てない」と破談になってしまうので注意しましょう。

先手を打たないと効果がない

商談や打ち合わせでアンカリング効果を活用したいのであれば、先手を打つことが絶対条件となります。そのため、あらかじめアンカーとして提示する金額と本命の金額を決めておくなど、先手を打つための事前準備が欠かせません。

ただし、顧客が希望金額や予算をがっちりと固めている場合は効果を発揮しないので注意しましょう。

「ビジネス数学」でもっとアンカリング効果を理解しよう

弊社が運営する「ビジネス数学研修」やオンラインサロン「社会人の数字力向上サロン」では、アンカリング効果のような「数字と心理の関係性」についても解説しています。数字自体は客観的かつ公平な事実を示す一方で、数字を受け取る人の心理は必ずしも合理的とは限りません。

数字・データを用いたコミュニケーションや意思決定を身につけるためには、数字にまつわる心理作用についても理解しておく必要があるのです。

「ビジネス数学」というと計算やExcelの操作方法といったテクニカルスキルを身につけるものと思われがちですが、実はビジネスシーンで役立つ知識や実務能力を磨いていく取り組みなのです。

とくにオンライサロンでは、専門のインストラクターが世間を賑わすニュースなどの時事ネタをもとに課題を発信していますので、より実践的なスキルを磨くことができます。「学生のころから数字への苦手意識がある」「一人では勉強が続かない」という方でも、弊社のオンラインサロンであれば、楽しみながら継続学習ができるはずです。

「数字やデータをもとにした、合理的な判断力を高めたい」「数字にまつわる心理的な影響を学び、マーケティングで活かしたい」といった課題にお悩みでしたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。

お問い合わせはこちらから