アンラーニングとは、現在の状況に合わなくなった知識や価値観などを整理し、より有用なものにアップデートすることです。
アンラーニングには「変化に強い人材(組織)作り」「意識改革・バイアスからの脱却」などの効果があり、VUCA時代に欠かせない手法として注目されています。一方で、年齢を重ねるほどアンラーニングのハードルは上がってしまうため、導入は一筋縄ではいきません。
今回はアンラーニングのやり方やメリット、成功させるためのポイントと具体例などを解説していきます。
アンラーニングとは
アンラーニングとは、現在の状況に合わなくなった知識やスキル、価値観などを整理し、より有用なものにアップデートすることです。日本語では学習棄却と呼ばれます。近年になって生まれた言葉と思われがちですが、1960年代にはマネジメントの発明者としても有名なピーター・ドラッカーによって言及されています。
実はアンラーニングは日常生活においても身近なもので、誰しもがライフステージの変化などを機に経験しています。例えば、進学や就職をきっかけに行動を変化させたり、スポーツでプレイスタイルを変えたりすることもアンラーニングといえます。
アンラーニングの必要性が高まる背景
アンラーニングの必要性が高まるのは、やはりVUCA時代の影響が大きいといえます。VUCAは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字で、状況が目まぐるしく変化し、未来予測が困難な状況を表す言葉です。
実際にここ数年だけでも新型コロナウイルスによるパンデミックやウクライナ戦争、生成AIの進化など、人々の価値観やビジネス市場を一変させるような出来事が立て続けに発生しています。常識や定石が非常に短いスパンで陳腐化する恐れがある現在、知識やスキルを取捨選択してアップデートを行うことは何よりも重要といえるでしょう。
実際、パーソル総合研究所が2022年に実施した調査によれば、正社員として働く人の約半数がアンラーニングを実施していると回答しています。
参考:株式会社パーソル総合研究所「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」
リスキリングとアンラーニングの違い
アンラーニングの概要から、リスキリングを連想した方も少なくないでしょう。リスキリングとは、経済産業省の資料で「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。
参考:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
この定義からもわかるように、アンラーニングとリスキリングは似た意味合いを持つ言葉といえます。
相違点を挙げるならば、リスキリングには「新たな職務に就くことを目的としてスキルを身につける」という意味合いがあり、アンラーニングは「古い知識や価値観を取捨選択することに重きを置く」取り組みであることがポイントとなるでしょう。
とくにダイバーシティやハラスメント対策など、古い価値観からの脱却が重要視される取り組みにおいては、アンラーニングと銘打つことが適切といえるかもしれません。
アンラーニングで得られる効果・メリット
アンラーニングで得られる効果・メリットは、「変化に強い人材(組織)になる」と「意識改革・バイアスからの脱却」に集約されます。それぞれ解説していきましょう。
変化に強い人材(組織)になる
アンラーニングで得られる最大のメリットは、変化に強い人材・組織になることです。
AIを始めとした技術革新により、ビジネス環境は著しく変化しています。新しい方法論も日々生まれており、これまではコストや人手の面で非現実的だったことも、明日には実現できるかもしれません。また、働き方に関する人々の価値観も、ここ数年で大きく変化したといえるでしょう。
こうした環境変化に適応するためには、既存の知識や価値観を捨ててアップデートを行う柔軟性が求められるわけです。こうしたアンラーニングの結果として、業務効率化などの実現にもつながっていきます。
意識改革・バイアスからの脱却
アンラーニングの効果として見逃せないのが、意識改革・バイアスからの脱却です。
例えば、よく日本のミドル層は学習意欲が低いと指摘されますが、その原因のひとつとして様々なバイアス(偏見)が影響していると言われています。
実際にパーソル総合研究所がミドル・シニア層を対象に実施した調査によれば、「仕事のことは、仕事の中で学ぶのが一番だ」という設問に70.1%が賛同しており(「あてはまる」16.9%、「ややあてはまる」53.2%)、「業務外の仕事に関する学習は、パフォーマンスにつながりづらい」という設問では45.6%が賛同しています(「あてはまる」7.5%、「ややあてはまる」38.1%)。
参考:株式会社パーソル総合研究所「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査」
このように、OJTへの過剰な信頼や外部研修等の軽視などが少なからず存在しており、リスキリング・学び直しを推進しようにも、当事者の価値観が障害となってしまうことがあります。そのため、効果的な人材育成を進める意味でも、アンラーニングによって意識改革から着手することが重要となるわけです。
アンラーニングのやり方
ここからは、アンラーニングのやり方を3つのステップで解説していきます。
内省
アンラーニングの最初のステップは内省です。まずは、自身の知識・スキル、仕事を進めるうえで大切にしていること、習慣・偏見などを洗い出す必要があります。
ただ、自分の常識を疑うのは非常に難しい作業ですし、そもそも競合他社の状況などを把握していないと、何が古い知識・スキルとなっているかに気づけません。そのため、グループワークや越境学習といった他の方法論や価値観に触れる機会を用意して、自分を客観的に省みるきっかけを得ることが大切です。
取捨選択
次に、内省によって洗い出した事柄を取捨選択していきます。例えば、仕事の割り振りをするなかで、無意識のうちに女性に役割の軽い業務を与えていたことがわかったなら、その習慣をアップデートする必要があります。
一方で、業界に関する古典的な知識などは、知識としては古くても業務の本質を理解する上で役立つ場合もあります。「今後のビジネスでどのように作用するか」を基準として、取捨選択を進めていきましょう。
実行
取捨選択を終えたら、アップデートを実行していきます。新たな知識やスキルを獲得する必要があれば、外部研修などを活用して学びを深めていきましょう。習慣や考え方であれば、日々の生活のなかで意識して改善していきます。
このとき、業務効率や生産性の面で定量化できるものについては計測し、アンラーニングの効果測定を行うと成果を感じやすくなります。
なお、アンラーニングは一度きりの取り組みではなく、ビジネスパーソンとして活躍し続ける限り必要となります。この3つのステップを継続していくことが大切です。
アンラーニングを成功させるポイントと具体例
最後に、アンラーニングを成功させるための3つのポイントとその具体例をお伝えします。
素直さを忘れない
アンラーニングを成功させるために欠かせないのが素直さです。子どもがどんどん成長するのは、素直に学ぶからです。しかし残念ながら、年齢を重ねるごとに自分の考えや方法論を崩すのは難しくなります。
実際に前述のパーソル総合研究所の調査では「性年代別アンラーニングの実態」が調査されていますが、20代・30代では30%前後のアンラーニング実施率がある一方で、50代の一部のアンラーニング項目では10%程度にまで落ち込む傾向が見られています。
アンラーニングを成功させるためには、他人からの指摘を素直に受け入れ、未知の分野にもまっさらな気持ちで取り組むことがなによりも重要となるのです。
失敗を振り返る
アンラーニングの内省・取捨選択の際には、必ず失敗を振り返りましょう。
例えば「部下からの信頼が落ちてきた」と悩んでいるのに、「最近の若者は根性が足りない」と他責思考で片づけてしまっては成長につながりません。
この場合は、部下からの信頼が落ちてきた原因を内省し、自分のマネジメント手法を取捨選択してアップデートする必要があるわけです。逆に言えば、失敗こそがアンラーニングを実行するための最高のきっかけといえるでしょう。
捨てる気持ちよさを体感する
アンラーニングを実行し続けるコツは、小さな習慣から着手して、捨てる気持ちよさを体感することです。
自身の信じてきた方法論や常識を覆す際は、誰しも恐怖やストレスを感じます。一方で、大掃除や断捨離によって、晴れ晴れとした気持ちになった経験は誰しも一度はあるはずです。
アンラーニングでもまずは「電車のなかでスマホを見るのを止める」といった些細なことから試してみるとよいでしょう。これによって眼精疲労が軽減され、日中の集中力が上がるといった結果につながるかもしれません。
こうした何気ないことで、捨てる気持ちよさと成功体験を味わえば、自然とアンラーニングの習慣が身につくはずです。
学校数学をアンラーニングして「ビジネス数学」を身につけよう
弊社がご提供する「ビジネス数学研修」でも、ビジネスシーンで活躍するために欠かせない重要なアンラーニングをお伝えしています。それが、学校数学からビジネス数学へのアップデートです。往々にして仕事が遅い人や問題解決力に自信のない人は、学校数学の考え方をアンラーニングできていません。
学校で出される問題には必ず唯一の答えがあり、その答えを導き出すことで評価を得ることができました。しかし、ビジネスで扱う課題には正解があるとは限りませんし、答えが一つきりとも限りません。
例えば「昨年の売上額とスタッフの営業成績のデータから、来月の○支店の売上を予測せよ」という指示が出たとしましょう。一見すると数学の問題のように思えるこの課題も、100点満点の予測を導き出すことはできません。完璧に未来を予測することはできないからです。
このとき「ビジネス」として求められるのは、与えられたデータからざっくりと素早く予測を立て、そこから具体的なアクションプランを練ることです。
この「学校数学」と「ビジネス数学」の違いは、弊社の研修プログラムのなかでも最も大切にしていることの一つです。「ビジネス数学」と聞くとテクニカルスキルを連想されるかもしれませんが、実は実務に直結したビジネス力を磨く、人材育成プログラムなのです。
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