日本でも広がる「静かな退職」 その原因や対策について解説

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静かな退職とは、会社に属しながらも必要最低限の仕事しか行わず、まるで退職が決まっているかのような状態で働くことです。静かな退職はコロナ禍をきっかけに急速に広まっており、国内の調査でも静かな退職を自認する数は半数に迫っています。

今回は静かな退職の概要を解説したうえで、その原因や影響、対策についてお伝えしていきます。

静かな退職とは

静かな退職(quiet quitting)とは、会社に属しながらも必要最低限の仕事しか行わず、まるで退職が決まっているかのような状態で働くことです。「がんばりすぎない働き方」と訳されることもあります。

静かな退職は、2022年にアメリカのキャリアコーチであるブライアン・クーリーがSNS上で提唱したことから広まりました。ブライアン・クーリーは動画中に「あなたの人生は仕事で決まるわけではない」という主旨のメッセージを発信し、Z世代を中心に拡散されています。

なお、静かな退職は会社に対して強い反感を持ってボイコットしているわけではなく、プライベートの時間に自己実現や楽しみを見いだすことに特徴があります。

静かな退職が広まる背景・原因

静かな退職が広まる直接的なきっかけとなったのは、新型コロナウイルスによるパンデミックと言われています。生活様式が一変し、家族と過ごす時間が増えたり、リモートワークなどの新しい働き方が導入されたりしたことで、多くの人が仕事中心の生活に対して疑問を抱くようになりました。

ブライアン・クーリーが動画の中で「ハッスルカルチャー(仕事のために生きる価値観)には賛同しない」と発信しているように、ワーカーホリックや企業戦士に対するカウンターカルチャーといえるでしょう。

日本国内の要因に目を向けても、終身雇用制度の崩壊という大きな転機に差し掛かっているだけででなく、現在も実質賃金が24ヶ月連続マイナス(2024年5月時点)と過去最長を記録しており、「会社に奉仕していれば安泰」というキャリアプランは過去のものになりつつあります。

日本における静かな退職の広まり

静かな退職にまつわる調査を確認してみると、すでに日本でも静かな退職が広まっていることが見て取れます。

マイナビが実施した調査によれば、「静かな退職をしていると感じますか」という問いに対し、48.2%(そう思う 15.7%、ややそう思う 32.5%)が肯定するという結果が出ています。

参考:株式会社マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)」

また、GPTW Japanの調査によれば、静かな退職を実践する世代の割合は、以下のように大きな偏りがないことも大きな特徴といえるでしょう。

20~25歳 12.4%

26~34歳 18.3%

35~44歳 27.8%

45~54歳 23.1%

55~59歳 18.3%

参考:Great Place To Work Institute Japan「静かな退職に関する調査2024年」

静かな退職はZ世代だけの問題ではない

日本は解雇に対するルールが厳しく、終身雇用と年功序列の仕組みもあって、古くから「窓際族」「ぐーたら社員」「社内ニート」と呼ばれる、働く意欲の低い社員が一定数存在していました。

前述のGPTW Japanの調査からもわかるように、少なくとも日本において静かな退職はZ世代だけの問題ではなく、全世代に共通する問題であることが示唆されています。

また、現状で静かな退職がどの程度の影響を及ぼしているかは、計測が難しい状況にあります。ここ数年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で年間実労働時間数が大きく落ち込んだため、静かな退職がどれほどの影響を及ぼしているかは、今後さらなる調査・研究が待たれます。

静かな退職による影響・デメリット

社内で静かな退職が増えることにより、どのような影響・デメリットが生じるのかを解説していきます。

生産性の低下

静かな退職が増えることによって、直接的に影響を受けるのが組織の生産性です。

静かな退職を選ぶ社員はいわゆる「指示待ち型」で、必要最低限の業務しか行いません。臨機応変なアクションを取らないため、社内で静かな退職が増えればイノベーションからどんどん遠ざかってしまいます。また、組織内での上昇志向もないため昇進を目指す人が減り、経営層や管理職が育ちにくくなるリスクもあります。

周囲の従業員への負荷が増える

通常期よりも業務量が増えた際も、静かな退職を選んだ社員は最低限の仕事しかしてくれません。そのため、増加した業務はその他の社員が一手に引き受けなければいけなくなります。

こうした陰ながらのサポートは評価者から見えにくく、正当な評価を受けられないまま負担ばかりが増えていきます。静かな退職を選んだ社員の周りは、フラストレーションが溜まりやすくなるといえるでしょう。

優秀な人材の流出

静かな退職を選ぶ人材は退職せずに社内に残り続けるため、少なくとも社内の定着率には悪影響を及ぼさないように思えます。しかし問題は、社内にモチベーションの低い人材が増えることにより、優秀な人材が人間関係や組織の体制に不満を抱き、退職に至るケースが増えることにあります。

この問題は、上で解説した「周囲の従業員への負荷が増える」とも直結しています。総じて静かな退職は、優秀な人材に対する悪影響という面でも見過ごせないわけです。

静かな退職への対策・防止策

企業側は静かな退職への対策として、どのような取り組みを実施すればよいのでしょうか。前述のGPTW JAPANの調査では「勤め先の環境で変化があったら、あなたの働き方は変わると思いますか」という設問があり、以下のような結果が出ています。

・変化があっても変わらない(と思う) 40.9%

・ひとりひとりの努力が正当に評価され、報酬に反映される仕組みが用意される 27.3%

・昇進、昇格の基準が明確になり、透明性のある評価制度ができる 25.5%

・仕事優先、プライベート優先など働くスタイルを自由に選択できる企業制度ができる 25.5%

・たとえ失敗しても努力が称賛される企業風土ができる 13.6%

・上司や経営者に気軽に相談できる雰囲気が醸成される 7.3%

まず特筆すべきは、静かな退職を選ぶ人の4割は対策を講じても働き方が変わらないと考えていることでしょう。ただ裏を返せば、企業側がしかるべき対応を取れば、6割の人材の意欲を取り戻せる可能性があるわけです。

具体的には、以下のような取り組みが必須となるでしょう。

人事評価制度の整備

「努力が正当に評価され、報酬に反映される仕組み」「透明性のある評価制度」で半数以上の回答が集まっていることからもわかるように、人事評価制度の整備は静かな退職対策として最も重要な取り組みといえます。

そもそも人事評価制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つから成り立っており、社員に求める能力や役割を示し、その働きや貢献度を評価することで報酬を定めるという機能があります。これらを公正かつ満足感のある水準で提示することで、静かな退職を防ぐための土壌ができるのです。

働き方の多様化に対応する

「働くスタイルを自由に選択できる」とあるように、企業側には働き方の多様化に対応した制度や風土が求められています。子育てや介護などのライフイベントに限らず、副業やワーケーションなど自己実現につながる働き方を認めることも重要でしょう。

また、複線型人事制度のように専門職として現場業務を究める道を用意したり、働く地域を固定したり(転勤の廃止)、その人材が望むキャリアを提供できる仕組みも求められます。

心理的安全性の担保

「失敗しても努力が称賛される企業風土」や「気軽に相談できる雰囲気」からわかるとおり、心理的安全性が担保される職場環境を整えることによって、静かな退職を防ぐことが期待されます。

心理的安全性とは、提唱者であるハーバード大学教授のエイミー・エドモンドソンによれば「対人関係において、リスクのある行動を取っても『このチームは安全である』とチームメンバーに共有されている考え」と定義されています。

実際にGoogleが行なった研究でも心理的安全性の高いチームには「離職率が低い」「収益性が高い」といった特徴が表れることが明らかとなっています。なお、心理的安全性については「職場における心理的安全性の高め方 メリットや低下を招く要素を解説」でも詳しく解説しています。

関連記事:「職場における心理的安全性の高め方 メリットや低下を招く要素を解説」

社内の人事データから静かな退職の兆候を見抜く

静かな退職の兆候として「会議中の発言が減る」「指示待ち型」「責任の重い仕事を避ける」などが挙げられます。しかし、こうした兆候は抽象的であり、単に消極的な性格が原因になっている場合もあります。

そこで着目すべきなのが、社内の様々な「数字・データ」です。社員の行動を数値化し、その増減を追うことにより、静かな退職の兆候を見抜くヒントとなるでしょう。

〈確認すべきデータの例〉

・残業時間の減少

・従業員満足度の低下

・上司やサポート役の業務量の増加

ただ、ビジネスパーソンのなかには数字やデータに対する苦手意識を持つ方も少なくありません。そのため、まずは「数字やデータを正しく扱うことができる人材」を育成する必要があるのです。

いきなり専門的な研修を実施しても、データ分析は思うように進みません。まずは、担当者のレベルに合わせて数字やデータの扱いを学んでいき、少しずつデータ分析に慣れていくことが大切です。

弊社オルデナール・コンサルティングが提供する「数的センス向上トレーニング」では、数字やデータの扱い方を「入門編」から「実践編」の4段階で学んでいき、受講者のレベルに合わせてデータリテラシーを育んでいきます。

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