人材要件は、経営戦略や事業内容を踏まえて、自社に必要な人物像を明文化したものです。採用活動や人材育成時に作成しておくことで「事業戦略などに合致した人材の獲得」「ミスマッチの防止」などのメリットが得られます。
今回は、人材要件の作り方や作成時に役立つフレームワーク、注意点・ポイントなどについて解説していきます。
人材要件とは
人材要件とは、経営戦略や事業内容を踏まえて、自社に必要な人物像を明文化したものです。採用活動時に作成することが多いことから「採用要件」と呼ばれることがありますが、人材要件は人材育成時の理想の人物像として定義されることもあります。
設定する内容は職種やポジションによって異なりますが、一般的に以下のような項目が挙げられます。
・資格
・スキル、知識
・性格、人柄
・キャリア観
・これまでに経験した業務や役職(採用要件の場合)
人材要件を定めるメリット
人材要件を定めることにより、具体的にどのようなメリットが得られるのか解説していきます。
事業戦略などに合致した人材の獲得
人材要件を定める最大のメリットは、経営理念や事業戦略に合致した人材の獲得につながることです。
採用活動や人材育成を始めるにあたり、「優秀な人材がほしい」といった漠然とした目標を掲げていると、面接官や育成担当者ごとにばらつきが生じてしまいます。
そのため、求める人物像を人材要件として明確化しておくことで、組織全体で真に求めるべき人材についての共通認識を持つ必要があるわけです。人材要件を設定しておけば、適材適所の人員配置にもつながるため、事業目標の達成確率も向上することでしょう。
ミスマッチや早期離職の防止
どの企業でも一度は「現場ではあまり求めていないスキルを重視して研修を組んでしまった」「組織風土・雰囲気に馴染めない人材を採用してしまった」といった失敗を感じたことがあるはずです。
こうしたミスマッチは、事前に人材要件を明確にしておくことで防止することができます。とくに採用面では早期離職の防止にもつながるため、企業側・人材側双方にとって大きなメリットになるでしょう。
人材要件の作り方
ここからは、人材要件を作る際の流れと、取り組みの内容について解説しています。
経営理念や事業戦略の整理
人材要件を作る際は、まず経営理念や事業戦略を整理することから始めましょう。自社が達成すべき目的から、どのような人物が必要になるかを逆算する必要があるからです。
採用活動用に人材要件を作成するのであれば、事業戦略の達成期限と人材確保の難度を確認しておくことも大切です。採用が難しいハイクラス人材ありきの戦略になっていると、採用の遅れが事業戦略の遅れに直結してしまうからです。
業務内容の洗い出し
次に、その人材に将来的に担ってもらいたい業務内容を洗い出していきます。これを行うことで、持っていてほしいスキルや経験などが明確になります。
とくに「専門性の高い人材を育成する」「選考は人事部のみで行う」といった場合は、事前に配属予定の部署に対するヒアリングを行うことが大切です。人事部と現場で求めているスキルや経験に齟齬が生じないよう、事前に調整しておきましょう。
MUST・WANTによる優先順位の設定
採用活動用の人材要件を作成する場合、各項目について優先順位を設定しましょう。これは人手不足による「売り手市場」が進む現在、最も重要な作業といっても過言ではありません。理想の条件を全て満たす人材と出会うことはきわめて難しく、その人材が自社に入社してくれるとは限らないからです。
具体的には、各項目をMUST(必ず持っていてほしい項目)とWANT(できれば持っていてほしい項目)に振り分けていきます。
希少なスキル・経験をMUSTに設定すれば採用活動は難しくなり、WANTで妥協し過ぎてしまうとミスマッチに直結します。人材の将来性や採用にかけられるコスト、事業目標の達成期限などを勘案しながら、バランスよく優先順位を設定していきましょう。
なお、BETEER(持っていると良い項目)、NEGATIEV(不要な項目)を加えて、より詳細に優先順位を設定する場合もあります。
人材要件の作成時に活用できるフレームワーク
人材要件を作成する際、「経営戦略から上手く要件を項目化できない」といった問題に直面することもあるでしょう。そんなときはフレームワークを活用してみることをおすすめします。
コンピテンシーモデル
コンピテンシーモデルとは、高い成果を上げている社員(ハイパフォーマー)の行動特性をまとめることで、理想の社員像を定める手法です。簡単にいえば「自社で活躍している社員と同じ能力を持つ人材を採用・育成すれば、同じような活躍が期待できる」という考え方です。
なお、人材要件の作成でコンピテンシーモデルを活用する場合、「人材要件の作り方」で解説した内容とは異なる手順を踏むことになります。
まずは、営業部や企画部などの部署ごとに実績を上げている社員をリストアップしていき、該当者に対してヒアリングやアンケートなどを実施します。
具体的には、思考性や自己認知、所持スキル、業務遂行能力などを洗い出し、行動特性としてまとめていきます。ここで得られた情報を人材要件として落とし込んでいくことで、自社での活躍の可能性が高い人材を獲得できるわけです。
STP分析
STP分析は主にマーケティングで活用されるフレームワークであり、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)によって構成されます。
STP分析を人材要件の作成に活用する場合は、まずセグメンテーションに採用市場を当てはめて、自社が提供できる価値にマッチする求職者の層を探していきます。ここでは、個人が対象となる「消費財市場」を分析する際のフォーマットを活用するとよいでしょう。
・人口動態軸
・地理軸(行動範囲などの地理的な情報)
・社会心理学軸(個人の心理に関する情報)
・行動軸(転職活動の動機などの個人の行動に関する情報)
人材要件の作成だけであればここまで十分ですが、さらにターゲティングの分析を行うことで「求職者に対するアプローチの方向性」、ポジショニングの分析を行うことで「採用市場における自社の立ち位置と優位性」などを明らかにすることができます。
人材要件を作成する際のポイント・注意点
最後に、人材要件を作成する際のポイント・注意点をお伝えしていきます。
就職差別につながる内容を含めない
人材要件を作成する際に最も気をつけなければいけないのが、就職差別につながる内容です。
とくに採用活動時、人材要件として人格面や性格について詳細に定めていくと、「思想・信条、尊敬する人物、人生観」といった「個人の自由権」に属する事柄について質問しがちです。人材要件を定める際は、「本人に責任のない事柄」「本来自由であるべきもの」を採用条件に含めないように注意しましょう。
育成ポジションや採用ターゲットによって変更する
人材要件は、育成ポジションや採用ターゲットによって内容を変更しましょう。
例えば、新卒採用であれば性格や熱意、ポテンシャルなどの要素を重視しますが、中途採用であればスキルや実務経験、実績などを重視します。このように、採用ターゲットや育成ポジションによって人材要件の内容と優先度は変化するため、その都度見直すことが大切です。
定期的に更新する
人材要件は一度作成したら終わりではなく、定期的に更新する必要があります。近年はビジネス環境の変化が著しく、とくにスキル・知識面はあっという間に陳腐化してしまう恐れがあるので注意が必要です。
また、人手不足によって採用競争が激化し続ける現在、「年代」や「転職回数」などの優先順位をMUST条件にするのは得策ではないでしょう。
人材要件は「データ」を根拠に設定しよう
人材要件を定める際は、主観を排除することが大切です。とくに「うちでは○○大学出身者が活躍してる気がする」「飲み会が好きな子は優秀だ」といった根拠の薄い意見は、ミスマッチを増やすだけで人材要件とは呼べません。
人材要件の項目はできるだけデータを根拠として、客観的に納得感を持てる内容にする必要があるのです。
しかし一方で、ビジネスパーソンのなかには「数字やデータに対する苦手意識」を持つ方が少なくありません。データ活用と聞くだけで二の足を踏んでしまう企業様が多いのも現実です。
そんな悩みを持つ人事担当者・企業様におすすめしたいのが、弊社の「ビジネス数学研修」です。弊社では、数字力の向上を通じて「把握力、分析力、選択力、予測力、表現力」の向上を図り、実際のビジネスシーンを想定したプログラムで「実務で活きる能力」を伸ばしていきます。
数字に対する苦手意識の克服から、実務で活きるデータの活用方法まで、受講者のレベルに合わせたプログラムをご用意しておりますので、どなたでも安心してステップアップしていくことができます。 「データは集めたけれど、どこに着目すればいいかわからない」「数字やデータをもとにした施策の立て方を学びたい」といった課題にお悩みでしたら、ぜひ弊社の研修をご検討ください。
お問い合わせはこちらから