納得感は「条件がもっともなものとして理解できる感情」という意味であり、より詳しく言うなら「相手の事情について疑問を感じない状態」といえるでしょう。
ビジネスにおいて社員や部下の納得感を得ることは「エンゲージメントの向上」「自律型人材としての行動」「計画等のブラッシュアップ」といったメリットにつながり、組織運営や人材育成においても重要な要素となります。
今回はビジネスにおける納得感について、その意味やメリット、納得感が欠けてしまう原因などについて解説していきます。
納得感とは
ビジネスシーンでは「部下からの共感が得られない」「クライアントから納得した表情を引き出せない」といった、納得感に関する様々な悩みが聞こえてきます。
そもそも納得感とは、辞書でひくと「条件がもっともなものとして理解できる感情」とあります。では「もっともなものとして理解できる」とはどのような状態でしょう。その答えは「相手の事情について疑問を感じないこと」です。
例えば、近年は物価の高騰が止まらず生活を圧迫し続けていますが、そんななかで行きつけの安くて大盛りの飲食店が値上げしたとしましょう。きっとほとんどの客は「この安さと量なら仕方ない」と思うはずです。
一方で、前年比で3倍近い売上高となったテーマパークが入場料を上げたら、どうでしょうか。「その値上げは本当に必要なの?」と疑問を感じ、納得できない人が多いはずです。
これはもちろん、ビジネスにおいても同様です。「どうしてあの人ではなく、私がこの仕事をやらないといけないの?」「このコストに見合うだけのメリットが得られるのだろうか?」といった疑問があることで、納得感が生まれにくくなるのです。
「社員の納得感は必要ない」は間違い
「組織の決定に対し、社員個人の納得感など必要ない」という意見がありますが、これは大きな間違いです。納得感がないということは「疑問がある」「理解していない」といった状態に他ならないからです。
社員の納得感がないままだと、経営層・管理職と現場のあいだでビジョンのズレが生じ、組織全体が誤った方向へ迷走する恐れがあります。
組織として行動する以上、全員が全く同じ意識・感情を持つことは不可能です。しかし、それを履き違えて「社員の納得を求める必要はない」とするのは軽率と言わざる得ません。
人は理性を持っていますから「心情的に賛成はできないが、納得はできる」という合理的な判断を下すことができます。ですから経営層や管理職には、しっかりと社員に対して「納得感」のある説明を行うことが求められるのです。

社員の納得感を得ることによるメリット
社員の納得感を得ることによって「エンゲージメントの向上」「自律型人材としての行動」「計画等のブラッシュアップ」といったメリットが得られます。それぞれ解説していきましょう。
エンゲージメントの向上
社員の納得感を得るメリットとしてまず挙げられるのが、エンゲージメントの向上です。上司からの指示や現在の仕事に対して納得感がある状態は、組織との一体感や帰属意識につながります。
逆に言えば、年功序列と終身雇用が崩壊した現在は「納得のいかないことでも、指示されたことは黙々とこなす」という時代ではありません。すでに「我慢していれば安定が手に入る」という共通認識は失われているわけです。
社員をつなぎ止める力が低下する現状、納得感がない状態は離職リスクに直結するため、今後ますます納得感が重要になるでしょう。
自律型人材としての行動
社員の納得感を得ることで、自律型人材としての行動が増えていきます。
納得感を持っているということは、組織が掲げるビジョンや上司が示した目標を理解していることを意味します。つまり、細かい指示がなくとも意思統一が取れており、社員が自律的に行動できる状態にあるわけです。
また、社員自身も「正しい・必要」と思ってやっていることなので責任感が芽生えやすく、モチベーションの高い状態で職務にあたることも大きなメリットといえるでしょう。
計画等のブラッシュアップ
社員の納得感を得るための説明が、結果的に計画等のブラッシュアップにつながることがあります。
事業計画や指示の内容について社員の納得が得られない場合、計画そのものや表現方法について見直しの必要性が生じます。これによってそれまで気付かなかったミスや不備が見つかり、改善の契機となることが少なくありません。
逆にいえば「うちの社員(部下)は理解力がない」といった傲慢な態度で計画等を推進すると客観性が欠け、計画が頓挫する可能性が高まるわけです。身近な存在である社員(部下)すら納得させられないようでは、顧客やステークホルダーを納得させることはできないでしょう。

納得感が欠ける原因
言動に納得感が欠けてしまうのは、性格や準備段階などに問題があるからです。それらを「納得感が欠ける原因」として解説していきます。
根拠薄弱
納得感が欠ける最大の原因は、根拠薄弱です。極端な例ですが、ボロボロの服を着た人が「この話は絶対に儲かる」といっても全く納得できませんよね。
一方で、一代で大企業に成長させた経営者が「小学生の頃から経営学を学んでいたのが成功の秘訣だ」と話していたら「なるほど」と思うはずです。冒頭で挙げた「テーマパークの入場料の値上げ」も明確な根拠をデータなどで示すことができれば、納得感が生まれるでしょう。
このように、根拠は「もっともなものとして理解できる」と感じるために不可欠な要素となります。
非論理的
非論理的であることも納得感が欠ける原因となります。これは根拠薄弱とも深く結びつく要因です。
例えば、上で挙げた経営者が「小学生の頃によく梅干しを食べていたのが成功の秘訣だ」と話していたら、さすがに「それが成功と何の関係が?」と疑問に思うのではないでしょうか。「経営者としての成功」と「梅干しを食べること」が論理的に結びつかず、根拠になり得ないからです。
これは、根性論・精神論による納得感の喪失の原因でもあります。論理的に正しい・必要と思われることが納得感を形成するのです。
コミュニケーション不足
コミュニケーション不足も納得感が得られない主要な原因のひとつです。
例えば、日頃から面倒をよく見てくれる上司と、面識のない他部署の部長が正反対の指導をしてきたとします。あなたはどちらの言葉に納得するでしょうか。当然、日頃から面倒を見てくれている上司ですよね。
これは社内に限らず、顧客などの社外の人を相手取るときも同様です。信頼感と言い換えてもよいですが、日頃からの関係性が納得感に大きく影響するのです。
自信がない
納得感が欠けてしまうのは、指示の内容や立案した計画などに自信を持てていないことも大きいでしょう。「詳しく説明しているうちにボロが出てしまうかも」といった不安があるため、追求される前に押し通してしまおうという心理が働くわけです。
問題は内容が完璧であっても、こうした態度のせいで納得感が欠けてしまうことです。「こんなに不安そうにしているということは、内容に問題があるのでは」と懸念されてしまうからです。
傲慢さ
これは社員・部下の納得感についての問題ですが、傲慢な態度は多くの場合、納得感を欠く原因となります。冒頭の「社員の納得感は必要ない」はその典型で、「自分の言葉に従っていればいい」といった意識は説明不足を招きます。
こうした態度でも成果を出しているうちはいいですが、失敗を招くと信用まで大きく損なうことになるでしょう。

納得感を引き出すために必要な「数字力」
「根拠薄弱」で解説したとおり、納得感を生み出したいのであればデータや数字を根拠として活用することが効果的です。ただ、数字やデータさえ示していれば、相手の納得感を必ず引き出せるかといえば、そう単純でもありません。
例えば、下の表は弊社の「ビジネス数学研修」で出題している課題で、「この5店舗のなかから優秀店をひとつ選び、報奨金を与えるとします。あなたはどの店舗を選びますか」というものです。

単純に「最も売上高の良い店舗」で選んでしまうと、従業員数や総床面積で劣っている店舗が不利になってしまうので、他の店舗の納得感を引き出せません。では「従業員が効率的に働いている店舗」と「店舗面積で効率的に売り上げている店舗」であれば、どちらが納得感を引き出せるでしょうか。これも正解はありませんよね。
つまり、この課題のポイントは「評価基準が変わると結果(選ぶ店舗)が変わる」という点にあり、そのなかで多くの人が納得してくれる数字を選択し、それを相手が納得するように示す能力が求められるわけです。そして、そのための能力こそが弊社の研修でお伝えしている「数字やデータから素早くポイントを見つけだし、相手にわかりやすく伝える力ーー数字力」なのです。
弊社の研修プログラムは「入門編」から「実践編」の4段階をご用意しておりますので、「昔から数学やデータが苦手で……」といった数字に苦手意識を持つ方でも、「部下に納得感のある指示を出したい」という方でも、受講者のレベルや職位に合わせた研修をご提供いたします。
なお、個人で「数字力を身につけたい!」という方には、弊社が運営するオンラインサロン「社会人の数字力向上サロン」をおすすめしております。サロンでは時事ネタなどをテーマとして、楽しみながら数字やデータに触れてスキルアップできる環境が整っていますよ。
弊社の「ビジネス数学研修」や「社会人の数字力向上サロン」について、少し興味を持っていただけたのではないでしょうか。「もっと詳しく知りたい!」と思っていただけましたら、お気軽に以下のリンクからお問い合わせください。
