「数字は嘘をつかない」とは 「嘘つきが使う数字」への対策を解説
「数字は嘘をつかない」とは、数字には解釈の余地がなく、客観的な事実を示すという意味で、語源は「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」から来ています。
問題となるのは「嘘つきは数字を使う」の部分で、数字自体は嘘をつかないものの、使い方や切り取り方によって見えてくる事実は変化し、ときに我々に不利益をもたらします。
今回はそんな「数字は嘘をつかない」の意味や「数字は嘘をつかないはウソ」という言説の真偽、「嘘つきが使う数字」への対策方法について解説していきます。
「数字は嘘をつかない」とは
「数字は嘘をつかない」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。もともとは「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」から来ており、アメリカの小説家マーク・トウェインが残した言葉だとされています。
言葉の意味としては、数字は解釈の余地がなく、客観的な事実を示すものであるため「数字は嘘をつかない」とされます。1という数字は1以外の解釈がなく、誰の目から見ても公平に1ということです。
しかしその一方で、数字を恣意的に抽出し、あたかも他に情報がないように見せることで、事実を誤認させることもできます。これが「嘘つきは数字を使う」の部分です。例を挙げて考えてみましょう。仮に、A社の5年間の売上が以下のように推移していたとします。
・A社の売上推移
20X1年:20億円
20X2年:18億円
20X3年:17億円
20X4年:15億円
20X5年:16億円
これらの数字自体は、嘘のない「客観的な事実」です。しかし、この数字をもとにA社の営業スタッフBさんが「いま弊社の売上は増加傾向にあるので順調です。ご安心ください」と、「直近の売上が15億円から16億円に増加した」ことだけを説明したとします。
Bさんは嘘をついているわけではありませんが、20X5年の売上は20X1年時より4億円も少なく、まだまだ順調とは言えませんよね。これがまさに数字を恣意的に抽出し、あたかも他に情報がないように見せるやり口です。
このように、数字自体は嘘をつきませんが、使い方や切り取り方によって見えてくる事実は異なってしまうのです。

「数字は嘘をつかない」はウソなのか
「数字は嘘をつかないはウソである」と主張する人もいますが、果たしてどちらが正しいのでしょうか。
結論から言ってしまえば「数字は嘘をつかないはウソ」という表現は、人々の興味関心を引くための誘い文句でしかありません。やはり、本来の語源である「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」が最も的を射た表現といえるでしょう。
では、なぜ「数字は嘘をつかないはウソ」と主張する人がいるのでしょうか。それは、数字を作成したり、活用したりする際に人間の意図や感情が入り込んでしまうからです。一つずつ具体例を見てみましょう。
飲食店やネットショップの星評価
皆さんも一度は飲食店やネットショップの星評価を参考にした経験があると思います。そのなかで「難癖をつけて☆1にしている」と感じる評価(レビュー)を目にしたこともあるのではないでしょうか。
その評価者はクレーマーかもしれませんが、全くの虚偽の評価ではないとすれば「☆1の評価が1つ」という事実に相違ないわけです。とはいえ、この数字がそのお店の実態を正確に示しているかというと、モヤモヤした気持ちになりませんか。
このように、数字自体に解釈の余地はないものの、その数字を作る際に人の感情が入り込んでいることが多々あります。これが「数字は嘘をつかないはウソ」と言われる典型例です。
交通安全運動と違反件数
次に、もう少しマクロな例として「交通安全運動と違反件数」を挙げてみましょう。仮に、交通違反件数のデータをもとに「秋は交通違反が多いんだよ。怖い季節だね」と話す人がいたとします。実際にそのデータに誤りがないとすれば、秋に交通違反の件数が多いというのは「事実」となります。
しかし、とくにドライバーの方はピンと来る方も多いかもしれませんが、毎年春と秋には「全国交通安全運動」が実施されます。交通違反件数が多いのは、この期間に警察が取り締まりを強化した結果と考えられるわけです。
さて、ここで改めて「秋は交通違反が多い」は正しいのか考えてみましょう。警察が取り締まりを強化したことで検挙数が増えただけであり、秋に交通違反をする人が増えるわけではないとしたら、「秋は交通違反が多い」と言い切るのは躊躇いがありますよね。
しかも「飲食店やネットショップの星評価」で挙げた例とは違い、交通安全のために行われた善意の活動によってもこうした数字・データが表れることもあるわけです。このように、数字は嘘をついていませんが、「数字は必ず正しいことを示す」とも言い切れないため、「数字は嘘をつかないはウソ」という言説が生まれるのでしょう。

「嘘つきが使う数字」への対策
数字・データに苦手意識を持つ人だけでなく、「数字は絶対の真実」と思い込んでいる人ほど、「嘘つきが使う数字」に引っかかりがちです。ここでは、嘘つきが使う数字に騙されないための対策をお伝えします。
数字・データの表現方法に気を配る
数字に騙されないためには、まず数字・データの表現方法に気を配ることが大切です。
例えば、ニュースでよく目にする内閣支持率の推移。これは多くの場合、折れ線グラフで表現されますが、縦軸の間隔が大きいと支持率が乱高下しているように見えます。もし「支持率が落ちている(上がっている)ように見せたい」という意図があるのなら、そう見えるように作成することもできるわけです。
グラフのことを「嘘をつかないデータ」だと考える人は少なくありませんが、グラフは人の手によって作成されたものであり、いくらでも恣意的に表現できると知っておくことが大切です。
バイアスについて学ぶ
数字は嘘をつきませんが、バイアスによって自分で自分を騙してしまう場合が多々あります。バイアスとは「先入観・偏見」といった意味で、人間が意志決定を行う際に意図せずに生じてしまうものです。
数字に関連する代表的なバイアスとしては、アンカリング効果が挙げられます。アンカリング効果は事前に得ていた情報(数値)によって、後の意志決定が歪められてしまう心理作用です。
例えば、「松・竹・梅」の価格設定は、多くの場合アンカリング効果を狙っています。1万円のサービスを本命として提供したい場合、あえて5万円・10万円のサービスを提示することで、5万円・10万円がアンカーとなって1万円のサービスがお得に感じられるようになるわけです。数字の上では1万円・5万円・10万円のサービスがあるだけなのに、人の心理はそこに解釈を見出してしまうわけです。
数字・データの受け取り方を見直す
数字に騙されないようになるために一番大切なのは、数字・データの受け取り方を見直すことでしょう。とくに日本人は、データから読みとった意見を「事実」と受け取る傾向があるといわれています。
例えば、上で挙げた「A社の売り上げ推移」をもとに、人事部のCさんが「今年度の売上は増加に転じました。これを機に採用を増やして攻めに転じましょう」と、社内でプレゼンをしたとします。
こうした意見に対して「それは間違っている。2021年の売上より4億円も少なく、攻めどきではない」と、頭ごなしの反対意見を上げる人は少なくありません。
しかし、Cさんは数字として表れている事実から意見を言っただけであり、間違っているわけではありませんよね。こうした否定は「データから読みとれる事実は一つしかない」という思い込みが関係しています。
本来、データからは様々な情報を読み取ることができるのに、数学の問題のように「答えは一つしかない」と思い込んでいるわけです。こうした考え方のままだと、嘘つきが見せるもっともらしい数字・データを鵜呑みにしてしまうでしょう。
このように、学校数学の考え方から脱却できていないビジネスパーソンは、実は少なくありません。「数字・データの解釈には、いくつもの正解がある」と理解することが、数字・データに騙されないための第一歩となるでしょう。

数字やデータを騙されないために「数字力」を磨こう
「数字は嘘をつかない」という言葉は、弊社の「ビジネス数学研修」のなかでもよくご紹介しています。データの読み解き方の奥深さや、数字による失敗が集約された言葉だからです。皆さんもここまでの解説で「嘘つきの数字に騙されたくない」「データの裏を読めるようになりたい」と感じたのではないでしょうか。
では、数字やデータに騙されないためにはどんな能力が必要かというと、ずばり「数字力」です。数字力は「把握力、分析力、選択力、予測力、表現力」の5つによって構成されるスキルで、弊社では数字力を「数字やデータから素早くポイントを見つけだし、相手にわかりやすく伝える力」と定義しています。
例えば「数字の表現に気を配る」でご紹介したグラフの話も、数字力における「表現力」が深く関わっています。弊社の研修では表現力を鍛えるために「表(データ)をグラフに変換して、わかりやすくする」という課題を出題していますが、「数あるグラフのなかで、なぜそのグラフを選ぶのか」を突き詰めて考えることで、数字とデータの関係についてより深く理解することができます。
また、「数字・データの受け取り方を見直す」で挙げたように、数字の受け取り方そのものをアップデートすることも、弊社の研修の特徴となっております。「ビジネス数学」について学ぶことは、数字に騙されないため、数字で損をしないためにも有益な取り組みといえるでしょう。
なお、弊社は企業向け研修だけでなく、オンラインサロン「社会人の数字力向上サロン」を運営しており、個人の方でも気軽に数字力を学ぶことができる環境を整えております。サロンでは、専門のインストラクターが世間を賑わすニュースなどをもとにして課題を作成していますので、より実践的なスキルを磨くことができます。
「昔から数字が苦手で、勉強方法がわからない」「いつも一人では勉強が続かず悩んでいる」という方でも、弊社のオンラインサロンであれば、楽しみながら継続学習ができるはずです。 弊社の研修やオンラインサロンについて「もっと知りたい」と思っていただけましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
YOORは、オンラインサロン専用トークルームを完備した、コミュニティやファンクラブ、オンラインレッスンの場として利用できるプラットフォームです。
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