プレゼンティーズムとは アブセンティーズムとの違いや測定方法を解説
プレゼンティーズムとは、欠勤には至ってはいないものの、健康問題によって業務遂行能力が低下した状態のことです。一方、アブセンティーズムは健康問題によって仕事を休むことを意味します。
プレゼンティーズムは生産性の低下や集団感染といったリスクにつながることから、その影響が世界中で研究されています。
今回は、プレゼンティーズムの要因や影響、測定方法、調査方法について解説していきます。
プレゼンティーズム・アブセンティーズムとは
プレゼンティーズムとは、直訳すると「疾病就業」となり、欠勤には至ってはいないものの、健康問題によって業務遂行能力が低下した状態を指します。
一方、健康問題によって仕事を休むこと(病欠)をアブセンティーズムと呼びます。
いずれもWHO(世界保健機関)によって提唱された「健康問題に起因したパフォーマンスの損失を表す指標」として、世界中で研究が進んでいます。
プレゼンティーズムの例
プレゼンティーズムの例としては、風邪による体調不良や花粉症などのアレルギー、メンタルヘルスの問題、業務過多による寝不足などが挙げられます。

プレゼンティーズムが引き起こされる要因
プレゼンティーズムが引き起こされる要因は、国や性別、生活環境によっても異なりますが、主たる原因として以下が挙げられます。
メンバーシップの圧力
プレゼンティーズムの要因のなかでもとくに日本で顕著なのが、メンバーシップの圧力です。
メンバーシップとは、組織の一員として自分の役割を果たし、組織に貢献すること。終身雇用制度を始めとした「日本型雇用システム」ではこの傾向が非常に強く、会社を中心にして物事を考えることが一般的であり、少々の体調不良であれば出勤するのが当然でした。
その名残で、今も「体調不良を押して働くことは美徳」という考えが残っており、プレゼンティーズムが引き起こされるわけです。
金銭的理由
世界的に共通するプレゼンティーズムの要因として、金銭的理由が挙げられます。欠勤による収入の減少を避けたいことから、多少の無理をしてでも出勤するわけです。
人手不足と責任感
人手不足と責任感も主要なプレゼンティーズムの要因です。人手不足によって「自分が休むと仕事が滞ってしまう」といった状況だと、責任感から無理をしてでも出勤しがちです。
とくに医療従事者や教師などの職業は「代わりを務める人がいない」という状況・心理になりやすく、プレゼンティーズムを引き起こしやすいといわれています。
上昇志向や自尊心
上昇志向や自尊心が高い人は、プレゼンティーズムを引き起こしがちです。休暇による仕事の遅れを嫌い、体調不良のなかでも出勤する傾向があるからです。
また「メンバーシップの圧力」でも解説したとおり、周囲や上司からの賞賛を期待する心理もプレゼンティーズムにつながります。
健康意識の低さ
そもそもの要因として、従業員の健康意識の低さもプレゼンティーズムにつながります。
生活習慣や食生活の乱れなどによって体調不良が常態的になっていると、必然的にプレゼンティーズムに陥ることになります。

プレゼンティーズムの影響・問題点
プレゼンティーズムの影響・問題点として、主に「生産性の低下」「アブセンティーズムへの悪化」「集団感染のリスク」が挙げられます。それぞれ解説していきましょう。
生産性の低下
プレゼンティーズムの最大の問題は、生産性の低下です。この影響については各国で研究が進んでおり、実際に明確な生産性の低下が示されています。また、メンタルヘルスやアレルギーといった原因ごとの比較研究も進んでおり、今後さらにプレゼンティーズムの影響が明らかになっていくでしょう。
アブセンティーズムへの悪化
プレゼンティーズムは、アブセンティーズムを引き起こす原因になるといわれています。
体調不良を押して仕事や学校へ行き、症状が悪化してしまったという経験は誰しも一度はあると思います。休みを取らないためにプレゼンティーズムが長引き、結局アブセンティーズムに至ってしまうという流れが最も生産性を落とす結果となってしまいます。
集団感染のリスク
プレゼンティーズムは、集団感染のリスクとなります。感染症では、一人のプレゼンティーズムの問題が組織全体のアブセンティーズムにつながる恐れがあり、その影響は甚大なものになります。
これは新型コロナウイルスによるパンデミックで世界中が体感したリスクであり、日本においても「体調不良を押して働くことは美徳」という価値観は過去のものになりつつあります。

プレゼンティーズムによる損失額の測定方法
プレゼンティーズムによる損失額の測定方法については、以下の「WHO-HPQスケール」の3項目を使用した検証が進んでいます。
【問B9】0があなたの仕事において誰でも達成できるような仕事のパフォーマンス、10がもっとも優れた勤務者のパフォーマンスとした0から10までの尺度上で、あなたの仕事と似た仕事において、多くの勤務者の普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?
【問B10】同じ0から10までの尺度上で、過去1-2年のあなたの普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?
【問B11】同じ0から10までの尺度上で、過去4週間(28日間)の間のあなたの勤務日におけるあなたの総合的なパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?
引用:WHO(世界保健機)「健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版」
これらの設問から、健康リスクとの相関を分析する「絶対的プレゼンティーズム」と、損失コストを計算する「相対的プレゼンティーズム」を評価していきます。計算方法は以下のとおりです。
・絶対的プレゼンティーズム=問B11×10(範囲=0-100%)
・相対的プレゼンティーズム=問B11÷問B9(範囲=0.25-2.0)
※0.25>は0.25に、2.0<は2.0にレンジ修正
プレゼンティーズム低下による損失コストは「プレゼンティーズム損失割合×賃金」によって計算できます。

プレゼンティーズムの調査方法
社内のプレゼンティーズムを調査する方法については、経済産業省「健康経営オフィスレポート」内の「『健康を保持・増進する7つの行動』簡易チェックシート」を利用すると良いでしょう。まずは以下の項目について、該当するものに◯を付けていきます。
・快適性を感じる【A】
1.自分の体に合わせて椅子の機能を調節している
2.室温が快適である
3.作業面が十分に明るい
4.タバコや強い香水など不快な臭いを感じない
5.自分の居場所が確保されていると感じる
・コミュニケーションする【B】
6.雰囲気が友好的である
7.周囲の人の仕事の内容を把握している
8.いつも挨拶をしている
9.よく笑う機会がある
・休憩・気分転換する【C】
10.仕事の合間に雑談することがある
11.仕事の合間に机や身の回りの整理整頓をすることがある
12.昼休みは規定通りしっかり休んでいる
13.離席するのに周囲の人に気を使わない
・体を動かす【D】
14.オフィス内をよく歩いている
・適切な食行動をとる【E】
15.仕事中に間食を時々摂っている
・清潔にする【F】
16.手洗い、うがいをしている
・健康意識を高める【G】
17.自分の健康状態をチェックしている
チェックが終わったら、以下の健康状態の分類を確認するために◯の数を数えていきます。①②③がプレゼンティーズム、④⑤がアブセンティーズムの解消に関わる項目となります。
①心身症の予防・改善(A+B+C+G)
②運動器・感覚器障害の予防・改善(A+D+G)
③メンタルヘルス不調の予防・改善(A+B+G)
④感染症・アレルギーの予防・改善(F+G)
⑤生活習慣病の予防・改善(D+E+G)
計算方法は()内の通りで、○の数が7割以上で合格ラインとなります。

プレゼンティーズムの対策は定量的な可視化から
健康状態によるパフォーマンスの低下は感覚的に扱われやすいため、具体的にどの程度の損失につながっているのかを定量的に可視化することが大切です。
しかし、定量化や計測と聞くと、途端に苦手意識を感じてしまうビジネスパーソンは少なくありません。同様に、社内調査や損失額の測定を実施しても、集計・分析が上手く行われずにお蔵入りしてしまうという失敗談も数多く見かけます。
数字やデータはただ確認するだけでは意味がなく、その結果から具体的なアクションにつなげていかなければ、ビジネス上の価値を創出できません。プレゼンティーズムにおいても同様で、その解消に向けた人事施策を講じていく必要があります。
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