サンクコスト効果とは 対策やコンコルド効果との違いを解説
サンクコスト効果とは、投資したお金や労力などを惜しむことで、先々の意志決定に影響を及ぼす心理的傾向です。同様の意味を持つ言葉として、コンコルド効果が挙げられます。
サンクコスト効果は「損失回避」や「非現実的楽観主義」などの心理によって引き起こされ、これを防ぐためにはサンクコスト効果について学び、データを根拠とした意思決定を取り入れるなどの対策が求められます。
今回は、サンクコスト効果を引き起こす原因(心理)や、コンコルド効果との違い、具体的な対策、ビジネスにおける活用例などを解説していきます。
サンクコスト効果とは
サンクコスト効果とは、投資したお金や費やした労力・時間を惜しむことで、先々の意志決定に影響を及ぼす心理的傾向のことです。サンクコストは日本語で「埋没費用」と訳され、将来的に回収の見込みがないコストを意味します。
言葉の意味だけ聞くと難しく感じるかもしれませんが、サンクコスト効果は日常生活でも頻発します。例えば「お金と時間をかけてコンサートのチケットを入手したが、当日になって高熱が出てしまった。合理的に考えれば、コンサートを諦めて家で療養すべき」という状況になったとき、無理をしてコンサートへ行く人は少なくありません。こうした意思決定にも、サンクコスト効果が影響を及ぼしているのです。
サンクコスト効果とコンコルド効果の違い
サンクコスト効果と同じ意味合いを持つ言葉として、コンコルド効果(コンコルドの誤謬)が挙げられます。両者にほとんど違いはないと考えて支障ありません。
コンコルド効果は、それまでに費やした労力や金銭を惜しみ、回収の見込みがないとわかっていても投資を継続してしまうことです。
由来は、1970年代にフランスとイギリスが共同開発した「超音速旅客機コンコルド」です。この機体は開発の段階から採算が取れないことが判明していましたが、投資された莫大なコストを惜しみ、開発が強行されました。その後、飛行時の環境問題や原油価格の高騰などを原因に多くの発注がキャンセルされ、多額の損失を出した……という逸話がもとになっています。

サンクコスト効果を引き起こす原因(心理)
サンクコスト効果は、人が持ついくつかの心理的傾向によって発生します。以下、その原因となる心理について見ていきましょう。
損失回避(プロスペクト理論)
サンクコスト効果は、人が持つ損失回避の傾向によって引き起こされます。
この損失回避の傾向は、行動経済学におけるプロスペクト理論によって示されています。かいつまんで言えば、人は「同じ金額であれば、利得の喜びよりも損失の悲しみのほうを大きく感じる」という心理的傾向を持っています。つまり、10万円を得る喜びよりも、10万円を失う悲しみのほうが精神に大きな影響を及ぼすわけです。
さらにプロスペクト理論では、人は損失の状況下ではリスクを選ぶ傾向があることも示されています。これは「コンコルド効果」でも見たとおり、損失が明らかでも投資を続けてしまうのは「リスクを承知で、損を取り返したい」という心理が働くためなのです。
なお、プロスペクト理論については「プロスペクト理論とは 身近な例で損失回避や価値関数を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「プロスペクト理論とは 身近な例で損失回避や価値関数を解説」
非現実的楽観主義
非現実的楽観主義とは、根拠がないにも関わらず、将来の出来事に対してポジティブな結果が出るだろうと考える心理的傾向です。アメリカの心理学者ジュリー・K・ノレムによって提唱された認知パターンのひとつです。
「コンコルド効果」の例のように、人には失敗の兆候が見えていながらも「将来的にはうまくいくだろう」と思いこんでしまう傾向があるのです。
自己責任
自己責任の意識も、サンクコスト効果に直結する心理です。例えば、さして親しくない同僚から引き継いだプロジェクトであれば、損失が出ていたら「自分は悪くないしな」と大胆に中止を決断できるはずです。
しかし、自分が一から立ち上げた、思い入れのあるプロジェクトであればどうでしょう。「なんとか成功させたい」と、引き際を見失ってしまうはずです。このように、責任や利害関係に深く関わっているものほど、サンクコスト効果を招きやすくなるのです。
周囲に損失を悟られたくない心理
「無駄にしたくない」という損失回避の心理だけでなく、「周囲に損失を悟られたくない」という心理もサンクコスト効果に関わっています。以下に例を挙げてみましょう。
「チームリーダーとして独断で外部人材と契約したものの、その人材はパフォーマンスを発揮できなかった。リーダーはメンバーから「見る目がない」「無駄なコストを使っている」と思われたくない一心で、その外部人材が成果を上げることを期待して登用し続けた」
客観的に見れば、パフォーマンスを発揮できなかった時点で契約を打ち切るほうが損失を抑えられますが、人はサンクコスト効果によってつい不合理な意思決定を行なってしまうのです。

サンクコスト効果を回避するための対策
日常生活やビジネスにおいて、サンクコスト効果による判断ミスを防ぐためにはどのような対策が有効なのでしょうか。ここでは、3つの対策をお伝えしていきます。
サンクコスト効果について学ぶ
サンクコスト効果を回避するためには、何よりもまずサンクコスト効果について学ぶ必要があります。
「人は損失回避や非現実的楽観主義のような心理的傾向を持っている」と理解していれば、自分がそうした状況下に置かれたときに客観的な判断を下せる可能性が上がるからです。
もし組織全体で非合理的な判断を減らしたいと考えるのであれば、サンクコスト効果について学ぶ機会を設けることが、効果的な対策となります。
ダブルチェックを取り入れる
サンクコスト効果を回避するための効果的かつ簡単な対策として、ダブルチェックが挙げられます。
サンクコスト効果を引き起こす「自己責任」でも触れましたが、第三者の立場であればサンクコスト効果の影響は受けません。とくに長期的なプロジェクトの場合、定期的に第三者を含めて進捗確認や再評価を行う機会を設けることが大切です。
データを根拠にする
サンクコスト効果は人の心理によって引き起こされるものなので、データを根拠とした意志決定が効果的な対策となります。
例えば、求人広告を出稿する際、あらかじめ「1ヶ月で応募者○名」といった数値目標を定めておき、もしこれを下回った場合はすっぱりと掲載を打ち切ると決めておくのです。また、「自社ホームページへの流入数」「費用対効果」といった複数の指標から評価を行うことで、より客観的な判断につながります。
とはいえ、数字の上での不利益がわかっていても意志決定に影響を与えてしまうのは、「コンコルド効果」で解説したとおりです。そのため、普段から「データを根拠とした意志決定」を自然に行える習慣作りが重要となります。

ビジネスにおけるサンクコスト効果の活用例
ビジネスではマーケティングを中心に、サンクコスト効果を逆手に取った施策が生み出されています。その代表的な例をご紹介します。
スタンプカード・毎号付録
スタンプカードや雑誌などの毎号付録は、サンクコスト効果を引き起こす典型的な施策といえます。「10ポイントで景品プレゼント」「3ヶ月連続で購入すると完成する雑誌の付録」などに釣られて、つい最後まで購入を止められなかったという人も多いのではないでしょうか。
これがまさに「途中で止めてしまったら無駄になる」という心理を煽る、サンクコスト効果の代表例です。
体験版・体験入会
ツールの体験版や、スポーツクラブなどの体験入会は、ユーザーのサンクコスト効果を引き起こす狙いがあります。ツールの操作方法を覚えるための時間や、トレーニングを数週間続けた労力などは、もう取り戻せないコスト(サンクコスト)となるからです。
これにより「せっかく続けたのだから、もったいないし、もう少し続けてみよう」といった心理を引き出すわけです。
会員ランク制度
利用金額などに応じた会員ランクも、サンクコスト効果を引き起こす施策です。「今月中にあと1000円買い物すれば、次月からゴールドランク」といった通知が届いたという経験が一度はあると思います。これは「投資した金額が無駄になる」という意識のすり替えを狙うもので、もったいないからもう少し買い物をしておこうという心理を誘因します。

「ビジネス数学」でもっとサンクコスト効果を理解しよう
「ビジネスにおける数字活用」をお伝えする弊社の事業においても、サンクコスト効果は重要なテーマのひとつです。コンコルド効果で見たように、ビジネスにおいても数字やデータよりも人の心理が優先された結果、莫大な損害につながるということが起こり得るからです。
弊社が運営する「ビジネス数学研修」やオンラインサロン「社会人の数字力向上サロン」では、こうした数字と人の心理の関係性についても解説しています。「ビジネス数学」というと計算やExcelの操作方法などを学ぶと思われがちですが、ビジネス上の課題の捉え方や解決方法について理解を深めていく取り組みなのです。
そして前述のとおり、サンクコスト効果を回避するためには「データを根拠とする意思決定」を習慣化することも欠かせません。弊社では実際のビジネスシーンを想定した演習によって、どのようにデータを扱い、意思決定へとつなげていくかを学んでいきますので、実践的にサンクコスト効果を防ぐ方法が身につきます。
とくにオンライサロンでは、専門のインストラクターが世間を賑わすニュースなどの時事ネタをもとに課題を発信していますので、より実践的なスキルを磨くことができます。「数字が苦手で勉強方法がわからない」「一人では勉強が続かない」という方でも、弊社のオンラインサロンであれば、楽しみながら継続学習ができるはずです。
「数字やデータをもとにした、合理的な判断力を身に着けたい」「組織の意思決定の精度を高めたい」といった課題にお悩みでしたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。
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