ムリ・ムダ・ムラとは 発生の原因や「7つのムダ」について解説
ムリ・ムダ・ムラとは、生産性や品質を低下させる3つの原因のことです。「トヨタ生産方式」の基本思想の一つであり、「3M」や「ダラリ」と呼ばれることもあります。
主な発生原因としては「人員と業務量の不均衡」「スキルや教育機会の格差」「需要予測の失敗」などが挙げられます。
今回は、ムリ・ムダ・ムラの概要を解説したうえで、発生の原因や改善の流れ、トヨタ生産方式における「7つのムダ」についてお伝えしていきます。
ムリ・ムダ・ムラ(3M、ダラリ)とは
ムリ・ムダ・ムラとは、生産性や品質を低下させる3つの原因のことです。「トヨタ生産方式」の基本思想の一つであることから広く注目されており、それぞれの頭文字から「3M」、それぞれの末尾の文字を取って「ダラリ」と呼ばれることもあります。
ムリ(無理)
ムリ(無理)は、従業員や設備に対して能力以上の負荷がかかっている状態を指します。
わかりやすい例が長時間労働(稼働)です。短期的には生産性や品質の維持につながるかもしれませんが、中長期的には休職や故障を招き、生産性や品質を低下させます。
ムダ(無駄)
ムダ(無駄)は、従業員や設備の能力を活かしきれていない状態や、価値を生まない作業などを指します。
長い待機時間や非効率な人員配置、動作不良を起こしやすい設備など、ムダの原因はあらゆるシーンに潜んでいます。ムダは生産性を下げるだけでなく、資源(ヒト・モノ・カネ)の浪費を招きます。
ムラ(斑)
ムラ(斑)は、業務内容や品質に生じている差・ばらつきなどを指します。
例えば「従業員ごとにスキルの差がありすぎて、仕上がりにムラが生じている」「設備のOSが異なるために作業にばらつきが生じている」などが挙げられ、顧客からの信用低下やヒューマンエラーの原因となります。

ムリ・ムダ・ムラが生じる原因
ムリ・ムダ・ムラを防止したいのであれば、ムリ・ムダ・ムラを生じさせる原因について理解しておく必要があります。ここでは主要な原因となる「人員と業務量の不均衡」「スキルや教育機会の格差」「需要予測の失敗」について解説します。
人員と業務量の不均衡
人員と業務量の不均衡は、ムリ・ムダ・ムラを生じさせる代表的な原因といえます。例えばIT業界における「デスマーチ」は、人員と業務量の不均衡によるムリの典型といえるでしょう。
とくに近年は人手不足や多様な働き方の推進によって、人員と業務量の不均衡が顕在化しにくくなっています。フレックスタイム制やリモートワークが普及したことで、管理者から見えにくいところで特定のメンバーにしわ寄せが集中する恐れがあるためです。
スキルや教育機会の格差
人材の流動化が進んだことで、組織のなかでも個々のスキルや教育機会に格差が生じやすくなっており、ムラを生み出しやすい環境が増えています。
とくに作業者ごとに業務のやり方が異なると、品質にムラが生じやすくなるだけでなく、作業の重複といったムダにもつながりやすくなります。
需要予測の失敗
VUCA時代と呼ばれる現在において、最も防ぎにくいムリ・ムダ・ムラの原因は需要予測の失敗です。需要予測が崩れることはムラに直結し、過剰生産・過剰在庫といったムダ、長時間労働などのムリを招きます。
ここ数年だけでも世界規模で市場を一変させる出来事が続いており、SNSの普及によって短期的な需要変動も頻発するようになりました。このような状況下で適切な需要予測を行うことこそ、企業の命運を左右する重要なファクターといえるでしょう。

トヨタ生産方式における「7つのムダ」
「トヨタ生産方式」は徹底的に無駄を排除した生産方式であり、世界中の製造業がお手本にしている仕組みとなっています。
そんな「トヨタ生産方式」のなかでムダは「付加価値につながらないもの」と定義されており、具体的な「7つのムダ」が挙げられています。その着眼点は、業種を問わず参考になるでしょう。
加工のムダ
付加価値を生み出さない加工や検査のこと。他の業界においては、完成度に影響しないタスクが同義となるでしょう。作業フローの洗い出しだけでなく「なぜその業務を行う必要があるのか」と、前提から見直すことが重要となります。
在庫のムダ
多めにストックしている原材料や完成品などを指します。「在庫があれば安心できる」と思いがちですが、完成品はストックしておいても仕様変更に対応できませんし、原材料をストックしておくと「予備を使えばいい」と考えてしまい、ミスを防ぐための施策を考えなくなるといった問題を引き起こします。
こうした問題意識は、在庫を持たない業種にとっても学ぶべき考え方といえるでしょう。
不良や手直しのムダ
不良品によって生じる、手直しや処分、顧客への補償、再発防止の対応といったあらゆるムダを指します。製品やサービスの不良によって生じる影響の広さ(損失の大きさ)を示すもので、ヒューマンエラー防止の重要性が示唆されます。
手持ちのムダ
手持ちぶさたな時間、つまり「やることがない時間」のムダを指します。生産性もなく人件費だけがかさんでしまう状態を防ぐため、人員配置や作業スケジュール(生産計画)を最適化することが大切です。
動作のムダ
作業の進捗に影響を与えないあらゆる動作・行動を指します。例えば「作業手順を忘れたから上司へ聞きにいく」「マニュアルが見あたらず、探し回る」などは、防止できる不要な動作です。
「作業者と管理者の席を近くする」「マニュアルの定位置を周知する」など、就業環境の改善を進めることが防止策となります。
運搬のムダ
物を移動させる際に生じるムダを指します。「7つのムダ」のなかでもとくに製造業ならではのムダではありますが、他の業界においても「プリンターの場所が遠く、書類を印刷するたびに席を立つムダが生じる」といった、導線やレイアウト上のムダがないか見直してみましょう。
作りすぎのムダ
製品を作りすぎることで生まれるムダであり、連鎖的に「動作のムダ」「在庫のムダ」「手持ちのムダ」を引き起こすため、とくに防止すべきムダといわれています。
一見すると「先回りで、いつか役立つ作業」に思えますが、実は付加価値を生むどころか、他のムダを生むリスクとなっています。防止のためには、ムダに対する意識改革が重要となります。

ムリ・ムダ・ムラの改善の流れ
ムリ・ムダ・ムラを改善するためには、具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。ここでは大きく4ステップに分けて解説していきます。
現状把握(業務の棚卸し)
ムリ・ムダ・ムラを改善するためには、まず現状把握として業務の棚卸しに取り組みましょう。
業務の棚卸しとは、あらゆる業務を対象に洗い出しを行い、整理していく取り組みです。具体的には、業務内容の書き出しから承認フローの確認、業務量調査などが挙げられます。例えば、作業時間の平均時間を算出すれば、従業員ごとのムリ・ムダ・ムラを浮き彫りにする手がかりとなるでしょう。
なお、業務の棚卸しのやり方については「業務の棚卸しとは 4ステップに集約したやり方を解説」で詳しく解説しています。
関連記事:「業務の棚卸しとは 4ステップに集約したやり方を解説」
原因究明
業務の棚卸しを通じてムリ・ムダ・ムラが明らかになったら、その原因を究明していく必要があります。
例えば、ある従業員の生産性の低さが浮き彫りになったとして、その原因を「従業員の怠慢」と決めつけて指導しても、根本的な解決には至りません。必要となるのは「なぜその従業員の生産性が低下しているのか」を深堀りしていく姿勢です。
生産性の低下を招いた原因は、ムリ(業務過多)にあるかもしれませんし、ムラ(使っている設備の性能)にあるかもしれません。表層的な部分だけを見て解決に取り組むと、その改善策自体が「ムダ・ムラ」になりかねないので注意しましょう。
優先順位に基づいた実行
ムリ・ムダ・ムラの原因を明らかにした後は、それぞれの問題の深刻度や改善の難しさを踏まえて、優先順位を設定していきます。
具体的には、改善にかかる時間やコスト、必要となるリソースなどを精査し、問題の深刻度と照らし合わせて着手していきましょう。
また改善方法については、ツールの導入や研修の実施、マニュアルの作成・見直し、人員の再配置など様々なアプローチがあります。自社の置かれた状況を踏まえて、最善策を講じましょう。
効果測定
改善策を実行したら効果測定を行い、ムリ・ムダ・ムラが解消されたのかを確認しましょう。
実際のところ、最初の施策だけで劇的に改善が進むことは稀です。PDCAサイクルで取り組みを修正・変更しつつ、改善に取り組み続けることが大切です。

「数字力」でムリ・ムダ・ムラの改善を推進しよう
ムリ・ムダ・ムラの改善を進めるためには、それぞれの問題がどの程度のムリ・ムダ・ムラを生んでいるのか「可視化」し、改善策によってどれくらい改善されたかを「計測」する必要があります。そのためには、問題を定量化的に扱うリテラシーだけでなく、数字やデータをもとに施策の検討や意思決定を行うことができる人材が欠かせません。
しかし一方で、「数字に対する苦手意識」を持つビジネスパーソンは少なくありません。実際、唐突に「データを活用した業務改善」を任されたとしたら、「自分には無理だ」と感じる方がほとんどではないでしょうか。
そんなデータ人材の不足に悩む企業様におすすめしたいのが、弊社の「ビジネス数学研修」です。
弊社では、数字力の向上を通じて「把握力、分析力、選択力、予測力、表現力」の向上を図り、実際のビジネスシーンを想定したプログラムで「実務で活きる能力」を伸ばしていきます。なかでも「予測力」は、最もやっかいなムリ・ムダ・ムラの原因「需要予測の失敗」を防ぐために欠かせないスキルであり、これを伸ばせるのは「ビジネス数学」ならではの強みとなっています。
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