人材ポートフォリオとは 作り方や活用事例を解説

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人材ポートフォリオとは、適切な人員配置を行うために人材のキャリア志向や能力などをもとに分類を行い、組織内でどのように構成されているかを可視化する試みのことです。

世界的な「人的資本の情報開示」の流れによって関心が高まっており、「適材適所の人員配置」「社員のキャリアプランが叶う」といったメリットも期待されます。

今回は、人材ポートフォリオの概要と注目される背景を解説した上で、作成によって得られるメリットや作り方の流れ、活用事例について解説していきます。

人材ポートフォリオとは

人材ポートフォリオとは、適切な人員配置を行うために人材のキャリア志向や能力などをもとに分類を行い、組織内でどのように構成されているかを可視化する試みのことです。

その内容は社内の人材に限らず、派遣社員や契約しているフリーランスなども対象に含みます。人材ポートフォリオの活用方法は幅広く、人材育成や採用活動、人事評価などの基本情報となり、ひいては経営目標・事業戦略の達成のために活用されます。

人材ポートフォリオへの関心が高まる背景

人材ポートフォリオへの関心が高まる背景として、2023年3月決算以降より人的資本の情報開示が義務付けられたことが挙げられます。

そもそも人的資本の情報開示とは、人材の持つ能力を資本として考え、その人的資本に関する情報を社外のステークホルダーに向けて公開することです。情報開示の義務化の対象は「有価証券報告書を発行する大手企業」に限られていますが、世界的に見ても「ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)」が2018年に定められて以降は、人的資本の情報開示の動きが広まっています。

「動的な人材ポートフォリオ」とは

人材ポートフォリオが注目されるきっかけにもなった「人材版伊藤レポート(『持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会』の最終報告書)」では、「動的な人材ポートフォリオ」の重要性が指摘されています。

動的な人材ポートフォリオとは、業務や職務に対して適材適所の人員配置を行うために、社内外を問わず人材を獲得することを意味します。

これまでの人材ポートフォリオは、とくに外部登用や戦略的な人事異動に対して消極的であり、いわば「静的な人材ポートフォリオ」となっていました。

しかしVUCAの時代と呼ばれる現在、こうした組織体制では環境変化に対応できなくなっています。そのため、「兼業・副業人材やフリーランスといった新たな労働力の活用」「リスキリングや柔軟な配置転換といった内部人材の活用方法の見直し」といった、動的な人材ポートフォリオが求められているわけです。

人材ポートフォリオ作成によって得られるメリット

人材ポートフォリオを作成することによって、具体的にどのようなメリットが得られるのか解説していきます。

人員の過不足を把握できる

人材ポートフォリオの作成によって、すぐに効果を得られるのが人員の過不足の把握です。経営目標や事業戦略に対し、どのような役割が不足あるいは超過しているかなど、組織構成を正確に把握することができます。

これにより採用や人材育成、人員配置の施策の根拠が明確になるでしょう。

適材適所の人員配置を実現できる

人材ポートフォリオ作成の大きなメリットとして、適材適所の人員配置を実現できることが挙げられます。

人材ポートフォリオの作成を通じて、人材の強みやキャリア志向などを情報化して管理することにより、それぞれに見合った業務・役職へ配置することが可能になります。

経営戦略を達成するためには、多種多様な役割とアクションが求められます。人材ポートフォリオを通じて、役割・アクションに対して最適な人材を配置できれば、モチベーションの向上、ひいては生産性の向上にもつながるでしょう。

社員のキャリアプランをかなえる

人材ポートフォリオを作成することにより、社員の適性やキャリアプランが「見える化」され、それぞれにあった職務を割り振りやすくなります。

近年は価値観の多様化によって働き方の幅も広がり、ワークライフバランスを重視する人が増えています。実際にJMAMが行なった調査では、約8割が「管理職になりたくない」と回答したという結果も出ています。

参考:株式会社日本能率協会マネジメントセンター「管理職の実態に関するアンケート調査」

社員の希望と企業の事業戦略を合致させれば、生産性の向上のみならず、離職率の低下にも直結するでしょう。

人材ポートフォリオの作り方

ここからは、人材ポートフォリオを作成する際の流れについて解説していきます。

経営戦略などから指針を定める

人材ポートフォリオ作りの最初の取り組みは、経営戦略や自社のビジネスモデルから必要となる職務(職種)を定義し、求める人材像とその人数を検討することです。

具体的には、「求める人材像」「必要な職種の定義」「要員数」を定める必要があります。簡単にいえば、「目標達成のためにはどのようなポジション(職種)が必要なのかを確認し、そのポジションに相応しい人物像を整理して、それが何人くらい必要なのか」を決める作業です。

人材に対する調査とデータベース化

次に、人材のスキルや経歴、配属先、キャリア観などの情報を調査し、データベース化していきましょう。

データベース化のポイントは、社員のみならず派遣社員や業務委託といった社外の人材も対象にすることです。経営目標や事業目標の達成は、自社の社員のみで達成されるわけではないからです。

とくに近年はビジネス環境の変化が著しいため、なかなかすべての人材を育成によって充足させることは難しいでしょう。アウトソーシングの検討を前提として、人材の過不足を調整しやすい「動的な人材ポートフォリオ」を目指して、データベースを作り込んでいきましょう。

なお、データベースといっても一からシステムを構築する必要はなく、最初はExcelでの管理でも問題ありません。ゆくゆくは人材管理ツールの活用なども検討するとよいでしょう。

求める人材のタイプを定める

「求める人材像」を定める際には、人材のタイプを分類していくことから始めてみましょう。

人材のタイプの分類方法として最もメジャーなのが、「個人・組織」「運用・創造」の2軸4象限による分類です。この分類では、人材を以下の4つのタイプに当てはめていきます。

・個人×運用:エキスパート人材。特定の業務・分野に特化して、利益を生み出していく。

・個人×創造:クリエイティブ人材。高度な技術や独創的な発想によって利益を生み出していく。

・組織×運用:オペレーション人材。構築された計画や枠組みを活かし、利益の最大化を狙う。

・組織×創造:マネジメント人材。組織運営を担い、全体の生産性向上を担う。

現状把握

人材のデータベース化が完了し、人材の分類方法も定まったら、実際に振り分けを進めていきましょう。

このとき大切なのは、人事部や管理職の主観ではなく定量的なデータに基づき、客観的かつ公平な振り分けを行うことです。定性的な評価には少なからずバイアスがかかり、ミスマッチの原因になるからです。なお、バイアスについては「ビジネスにおけるバイアスの種類とその対策」で詳しく解説しています。

関連記事:「ビジネスにおけるバイアスの種類とその対策」

振り分けが終わったら、経営戦略や事業目標の達成に向けて、どのような人材が不足(余剰)しているかが浮かび上がってくるはずです。

現実と理想のギャップから施策を打ち出す

現状把握を通じて人材の過不足を把握したら、具体的な対策を講じていきましょう。

またこのとき、社員の年齢や在籍年数などを考慮して、将来的な人員の過不足についても予測を立てておくと、採用活動や人材育成における重要な指針となります。例えば、現状のマネジメント人材の人数が足りていても、その年齢層が高ければ将来的に必ず人材不足に陥ってしまいます。

時間的な猶予や予算を考慮して、育成や採用、配置転換、アウトソーシングなど最適な方法を選択することが大切です。

人材ポートフォリオの活用事例

それではここまでの流れについて、実際の人材ポートフォリオの活用事例を見ていきながら整理してみましょう。

「お客様第一主義」を経営理念に掲げる小売業のA社。A社はこれまで店頭アンケートなどのアナログな手法で消費者の意見をくみ取ってきましたが、コロナ禍以降はそれも難しくなってきました。

そこで顧客の声をよりダイレクトにくみ取るために、DX化の推進を決定しました。しかし、社内にはデジタルマーケティングを担える人材がいません。そのため、業務を統括できるマネジメント人材1名と、実務を担うエキスパート人材2名の確保が課題として挙がりました。

A社は人材確保のために採用活動を進めながらも、デジタルマーケティング部の新設にあたって社内公募も行い、IT系への転身を考えていた社内人材の再配置に成功しました。

また、人材のデータベース化を進めるなかで、社内のデータリテラシーの低さが浮き彫りとなり、各店舗においてマーケティングの成果を活用するために「データ活用研修」を行うという人材育成の施策も打ち出し、「お客様第一主義」のバージョンアップに成功しました。

「ビジネス数学」で人材ポートフォリオ作成時のデータ活用を進めよう

人材ポートフォリオの作成時には、様々なデータを収集したうえで人事戦略へとつなげていく必要があります。そのため、担当者にはデータリテラシーの向上が求められます。バイアスに左右されず、データから公平かつ効果的な人事施策を打ち出していく必要があるわけです。

しかし、ビジネスパーソンのなかには「数字に対する苦手意識」を持つ方が少なくありません。データ化と聞くだけで「自分には無理だ」と感じてしまう方もいるのではないでしょうか。

そんな人材ポートフォリオ推進の担当者選びに悩む企業におすすめしたいのが、弊社の「ビジネス数学研修」です。弊社では、数字力の向上を通じて「把握力、分析力、選択力、予測力、表現力」の向上を図り、実際のビジネスシーンを想定したプログラムで「実務で活きる能力」を伸ばしていきます。

研修プログラムは受講者のレベルに合わせて「入門編」から「実践編」の4段階でご用意しておりますので、社員の数字に対する苦手意識の克服から、数字を活用した意思決定の実践まで、数字に対して苦手意識を持つ方でも安心してステップアップしていくことができます。

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