数値化とは、抽象的な表現や感覚などを数値で表すことにより、具体的かつ客観的な状態に置き換えることです。数値化に取り組むことで「コミュニケーションの改善」「計画が明確になる」などのメリットが得られます。
ただし、何でも数値化すれば良いというわけではありません。数値化は競争意識を芽生えさせたり、評価を歪めてしまったりする場合もあるからです。
今回は、数値化のメリットや注意点、数値化を推進する際のポイントなどについて解説していきます。
数値化とは
数値化とは、抽象的な表現や感覚、現象などを数値で表すことによって、具体的かつ客観的な状態に置き換えることです。
AIや計測機器などの進歩により、今まで定性的な領域であった感覚や認識なども数値で表せるようになりました。これによりビジネスシーンにおいても、勘や経験といった曖昧な根拠に頼らず、明確な指針を持って行動できるようになりつつあります。
また、数値化は指示や目標設定において認識の齟齬を減らす役割を果たし、コミュニケーションの質を上げてくれます。

数値化のメリット
数値化を行うことにより、「コミュニケーションの改善」「計画が明確になる」「修正・改善がスムーズになる」といったメリットが得られます。それぞれ解説していきます。
コミュニケーションの改善
数値化でコミュニケーションが改善すると聞くと、違和感を覚える人も多いことでしょう。しかし、数値は言語の壁を越え、客観的かつ具体的な情報を共有できます。
例えば「なるべく早く」「できるだけ急ぎで」という指示に対し、どれくらいの時間を想定するかは人によって異なります。上司は「午前中」と思って指示を出したかもしれませんが、部下は「今日中」と受け取るかもしれません。
こうした指示を「12時までに」と数値化して伝えることで、認識の齟齬を防ぐことができるわけです。
計画が明確になる
目標を数値化することにより、ゴールまでの計画が明確になります。
数値的な目標があれば、「1日にこれくらいのタスクを消化すればいい」「目標達成にはこの施策が必要となりそうだ」と、日々の細かいアクションを立案しやすくなるからです。
なお、目標の数値化については「目標を数値化するメリットとその方法 企業の事例も解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「目標を数値化するメリットとその方法」
修正・改善がスムーズになる
「計画が明確になる」とも重なりますが、数値化は計画の修正・改善をスムーズにしてくれます。目標値に対する進捗度が「見える化」されるからです。
例えば「月内に5件成約」という数値化した目標に対し、半月が経過した時点で1件しか成約がなければ、目標達成が困難であることがわかります。ただ、その時点でアクションを改善すれば目標達成に近づきますし、計画自体を下方修正すればリスクを最小限に抑えることができます。

数値化に取り組む際の注意点
数値化に取り組む際は、いくつかの注意点について理解しておく必要があります。それぞれ解説していきましょう。
数字は人の心理で受け取り方が変わる
数字自体は具体的かつ客観的な事実を示しますが、数字を受け取る人間の心理は、その事実をねじ曲げて受け取ることがわかっています。その象徴的な例が、行動経済学のプロスペクト理論です。
例えば「当選確率は50%で、当選すれば200万円がもらえるが、参加費は100万円かかる」というくじ引きがあったとき、多くの人が「参加しない」と回答します。しかし、このくじ引きは期待値上では参加者のほうが有利な条件で設定されており、数値的にいえば参加するほうが合理的なのです。
では、なぜ「参加しない」が多くなるかというと、人は「200万円を得られる期待より、100万円を失う損失を避けたい」という「損失回避の傾向」を持つからです。
このように、人は不確実な状況で意志決定を行う際、無意識的に合理的な判断から遠ざかる傾向があるのです。数値化を推進する際は、こうした心理的な傾向についても把握しておくことが大切です。
なお、プロスペクト理論については「プロスペクト理論とは 身近な例で損失回避や価値関数を解説」でも詳しく解説しています。
関連記事:「プロスペクト理論とは 身近な例で損失回避や価値関数を解説」
数値化は競争意識を芽生えさせる
数値化は競争意識を芽生えさせます。数値化によって「比較」が簡単になることで、優劣がはっきりとしてしまうためです。もちろん、これは企業にとってはプラスにもなります。
ただ一方で、過度な競争原理は長時間労働やコンプライアンスの問題を招く恐れがあります。評価の数値化を進めるのであれば、「ルール違反への厳罰」「質の評価軸を設ける」といった対策を講じておく必要があるでしょう。
品質や能力の評価を歪める
近年増えている数値化による問題点として、本来の品質や能力の評価が歪んでしまうことが挙げられます。とくに、一つの尺度に目を奪われて、それが絶対的な評価のように扱われてしまう事例が増えています。
その典型的な例といえるのが、飲食店などの「星の数による評価」です。飲食店には「料理のおいしさ」や「お店の雰囲気」といった、様々な定性的な魅力があります。それらがまとめて「☆3」といった数値で示されることで、評価すべき部分が見落とされてしまう場合が少なくありません。
これは人事評価などでも起こり得ることなので、評価者は常に「複数の評価軸を持つこと」を徹底する必要があります。

数値化を定着・推進させるためのポイント
数値化を定着・推進させるためには、具体的にどのような取り組みが必要になるのかについて解説していきます。
習慣化する
数値化を身につけるための最大のポイントは、習慣化です。身近な例で言えば、まずは報告や指示の内容を数値化してみましょう。つい「なるべく早く」と言ってしまう人も多いと思いますが、認識の齟齬を減らすためにも「○日の15時まで」と具体的に示す習慣を身につけることが大切です。
また、目標を立てる際にも「営業力を強化したい」で終わらず、「○○を前年比で30%向上させる」といった数値化した目標設定を心がけましょう。
数値化する習慣が身につけば、自ずと「○日の15時までに終わらせるには何を行うべきか」「前年比で30%以上向上させるためには、どんな取り組みが必要だろう」といった具合に問題解決思考へとつながっていきます。
母数を大切にする
数値化を推進したいのであれば、母数を大切にしましょう。
数値化と聞くと、すべてが「効率化」のための施策だと思われがちです。目標設定においても「確率」が重んじられ、成功率を上げるための取り組みに時間が割かれて「行動の母数」が減る……という失敗例が後を絶ちません。
何事においても上達・成功のためには「数」が必要となります。もちろん、数値化がスマートな解決に導いてくれることもありますが、それは母数を増やした土台があってこそなのです。
迷ったら全体の目標に立ち返る
数値化を推進する際に必ず行き当たるのが「何を数値化すればいいか」です。数値化の対象に悩んだときは、全体の目標に立ち返ってみましょう。
例えば、闇雲に「成約率」を目標に据えると「行動数」が減り、肝心の「成約数」が減る結果になりかねません。全体の目標である「会社の利益」に立ち返れば「成約数」が多いほうが利益につながるわけですから、それを減らすような数値目標は設定すべきでないとわかります。
全体の目標から部署の目標、個人の目標へと焦点を絞っていくことで、何を数値化すればいいかが見えてくるわけです。
リスクを受け入れて実行する
数値化は曖昧だった問題を顕在化させる側面があります。数値化を推進するためには、こうしたリスクを受け入れて実行し続けなければいけません。
例えば、社内のムードメーカーとして活躍していた人材が、数値化によって成績の低さが顕在化してしまい、ムードメーカーの役割を果たせなくなった……なんてことも起こり得るでしょう。
数値化は、今まで見過ごされてきた問題を浮き彫りにします。改革によって生じる痛みに対して逃げ腰にならず、取り組みを実行する勇気が求められるのです。

数値化を使いこなしたいなら「ビジネス数学」
ここまで数値化のメリットや、推進時のポイントについて解説してきましたが、そもそも「数字に対する苦手意識」を持つビジネスパーソンは少なくありません。資料に数字が並んでいると、つい読み飛ばしてしまうという方も多いのではないでしょうか。
数字への苦手意識がある人は、数字を見ると思考停止に陥ってしまったり、数字からイメージを広げる力が弱かったりします。ただ、これは決して知識やスキルが足りないわけではなく、数字やデータの扱い方に慣れていないだけなのです。
弊社オルデナール・コンサルティングの「ビジネス数学研修」では、まず数字への苦手意識を払拭したうえで、数字やデータに慣れるためのトレーニングを実施しています。
具体的には、実際のビジネスシーンを想定したうえで、提案資料におけるデータの活用方法や、数値をもとにした意思決定のプロセスなど、実務に直結するプログラムで演習を繰り返していきます。なお、プログラムは「入門編」から「実践編」の4段階をご用意しておりますので、数字に対して苦手意識を持つ方でも安心してステップアップできます。
また、弊社ではオンライサロン「社会人の数字力向上サロン」を運営しており、「数字に対する苦手意識を克服したい!」「数値化を使いこなして、いつかは独立したい」といった悩みや目標を持つ方々が互いに高め合う場を提供しています。
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